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寅さんを本当の父親だと信じ、山形から修学旅行で上京した順子は、寅さんから勘違いだったことを知らされた。順子は、寅さんが昔、食事を御馳走になったお雪の娘で、お雪は去年亡くなったという。墓参りに山形を訪れた寅さんは、学問のないために男に騙され後悔していたお雪のことを知った。一方とらやでは、御前様の親戚で考古学を研究する礼子が下宿していた。再び柴又へ戻った寅さんは、礼子に心をひかれメガネをかけて勉学にいそしんだ。しかし、礼子は年配の恩師で天才肌の学者・田所に結婚を申し込まれる。
本作を鑑賞して前半最初に抱いた疑問がコレ。きっとコワレチャウ前のジュンコッペのように可愛らしくて、ひとに優しい思いやりをもてる女性だったんでしょうね。
一文無しの腹ペコ状態で迷い込んだ寅さんに、ただであったかいご飯を食べさせてくれるような女性。画面には出てきませんが、立派な「シリーズのマドンナ」と呼べると思います。ジュンコッペも若いのに、しかも歌手なのに、いい演技してて、まったく惜しいひとを失くしたもんです。
着目すべきは常連となる轟巡査(米倉斉加年:まさかね…と読むんですよ!ヤング諸君 笑)がとらや前の参道を♪よぉこそココへ、クック・クック♪なんて自転車こいで通りすぎるシーンでしょうか。なんてことは置いといて、今回のマドンナは大学院生の礼子さんということで、演じる樫山文江さんはイメージぴったり。インテリが便所のナメクジと同じくらいに嫌いな筈の寅さんが彼女に惚れてしまうのもむべなるかな…と思えます。ちょっとでもインテリに近づこうと、礼子さんと同じようなフレームのメガネをかけることから入る寅さん。それがおかしくてかなしくて。
また、寅さんと同じ恋に胸を焦がす田所博士を演じる小林桂樹さんもイイのです。(田所ってのは渥美清さんの本名でもありますね)何でも知ってる博士が「おなら」を各国語に訳すところや、寅さんと「田へしたもんだよカエルのしょんべん!」「見上げたもんだよ屋根屋の褌ってか!」とやり合う所も楽しいです。
マドンナをめぐる男二人の恋の結果は観てのお楽しみ!
寅さんは旅をする。日本列島、津々浦々、実に行動半径が広い。
寅さんは、どうやって旅費を工面しているのだろう。いつもお金がなくてピーピーしているイメージがある。なのに、カバンひとつで北海道やら九州、沖縄にも足を伸ばす。飛行機に乗らず、新幹線にも乗らず、各駅停車を乗り継いで移動している。それでも結構、電車賃は嵩むはずだ。旅館にも泊まるし、酒だって呑む。食堂でメシも食わなければならない。テキ屋稼業はそんなに儲かるのだろうか?
母親を亡くして訪ねて来た女子高生に、寅さんは「アメでも買いな」とお金を渡す。お札だ。万札に見える。それも1枚や2枚ではない。
仮に3万円として、半年間の貯えだとすれば月 5,000円だ。当時の映画館の入場料が 1,200円。いまは 1,800円だから換算すると 7,500円になる。平均の貯蓄率を5%にすると給与は15万円。高卒の給与(手取り)くらいか。1日当たり 5,000円の収入ということになる。
お寺にしろ神社にしろ正月以外、縁日は月に1日程度。後は商店街の片隅で店を広げることになる。移動日も勘案すると営業日数は2週間くらいだろう。すると1日1万円の実入りがないといけないわけだ。
扱う商品にもよるが、1個数百円の商いのように見える。あまり高額商品は扱っていない。当たり前か。(笑)
寅さんに幾ら入るのか分からないが、原価率を3割、場所代に2割、一般管理費を1割とすると残りは4割。これが寅さんの収入だと仮定する。1個 500円で売って 200円だ。1万円を稼ぐには50個売らないといけないことになる。10時間労働なら1時間に5個。これは、かなりキツイ。よほど性根を据えてかからないと出来ない仕事だ。
当時の宿賃が幾らか知らないが、『純情篇』に「たかだか2千円の宿賃のために……」というセリフがある。そこから推測すると2食付いて3千円くらいだろう。月に9万円。昼食は外食だから食費も2万円くらい計上しなければ。旅費だってバカにならない。拠点エリアまでの電車賃を含めて平均すると、1日当たり 1,500円くらいだろう。最低でも月4万円は欲しいトコだ。締めて15万円。収支トントン。
地方に行って宿屋がないこともあるだろうが、神社の境内や駅のベンチで寝泊まりしないと、貯金なんか出来やしない。健康保険にも入っていないらしいが、それも道理だ。バカ高い社会保険料なんか払えやしない。“5百円”という金額が寅さんの生活水準を物語っている。何だか納得してしまった。(笑)
ある日、寅さんを訪ねて女子高生が“とらや”にやって来る。彼女は母を亡くし、寅さんを実父ではないかと確かめに来たのだ。しかし、違った。寅さんは、お金がない時に「お互いさまだから」とご飯を食べさせてくれた食堂の女性店員に恩義を感じ、手紙と“5百円”を送っていたのだ。そうとは知らない面々は「寅さんに隠し子が?!」と大騒ぎになる。ここから本作品の物語が始まる。
女子高生に扮したのは、桜田淳子さん。当時のトップアイドルだ。お巡りさんが彼女のヒット曲『私の青い鳥』を口ずさみながら通り過ぎたりする。(笑) 集客狙いのキャスティングだろうが、意外といい役者さんだった。
寅さんは、彼女の亡くなった母親のお墓をお参りし、住職から人生のはかなさと学ぶことの尊さを諭される。心うたれた寅さんは、柴又に戻る。
ところが、とらやの二階には、御前様の親類の女性が下宿していた。彼女は、大学で考古学教授の助手をしていた。寅さんは、彼女に家庭教師をして貰うことになるのだが……。というお話し。
住職を演じたのは、大滝秀治さん。大滝さんは、この手の役が、よく似合う。
マドンナは、樫山文枝さん、“美人”とか“可愛い”とか言うよりも、知的で清楚なイメージだ。山田洋次監督も女性のナマ臭い一面を描かない。そういう点では、本作品は珍しい一本かも知れない。
マドンナの周りでドタバタするのは、寅さんだけではない。考古学教授も彼女に恋心を寄せる。面白いのは、互いに意中の女性が誰なのか知らない点である。これもまた珍しいパターンだ。
小林桂樹さんが、不器用で強面のヘビースモーカーを面白そうに演じている。正直、マドンナより強烈な印象を残すので、全体からすると失敗かも知れない。(笑) 嫌煙が一般化した現代では、二度と実現しないキャラクタだ。何しろ、煙草をふかしながらダンゴを食ってお茶を飲むのだから。昔は、こんなオッサンが沢山いた。私は職人の家に生まれたので、それがフツーだった。だから、小林桂樹さんが演じたキャラクタは非常に懐かしかった。
今回、寅さんの恋愛は淡い。然も、独り相撲だ。何だかそれは、今までで一番リアルだった。「人生ってこんな感じだよなぁ」と思ってしまった。
シリーズの中でも特異な一本だが、完成度は高い。余韻も格別だった。オススメ!
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寅が勉学に目覚めるという「立志篇」です。
。専門学校が出来る前の、猫も杓子も学士様という世相を受けての作品だと思います。そんな中で描かれるものは、「自分探し」でしょうか。
冒頭からは、寅の子供か(?)と思わせる当時のアイドル桜田淳子の登場ですが、「父を捜して」という彼女にとっての自分探しなんでしょうね。スクリーンには表れない彼女の母お雪のエピソードも、迷走する寅にとっての自分探しに繋がるのかもしれません。
しかし、この前半のエピソードと後半とを繋ぐ、寅が山形を訪れてのシークエンスは、無理矢理に後半にストーリーを繋ぐ強引さが満載です。「お雪は学問がなかったために男に騙された」とか、その話を住職(大滝秀治)に聞いて寅が学問に目覚めるだとか。「男はつらいよ」の喜劇を構築するストーリーですが、寅のキャラクターに寄りかかった甘えや、喜劇だから良いだろうという安易な考えで、肝心のテーマに繋がる部分をご都合主義で済ましてしまったのでは、彫りの浅い作品にしかならないと思いますね。
案の定、この作品の寅は終始滑稽に扱われるばかりです。マドンナ・礼子(樫山文枝)に対しての葛藤もなければ、学問をする、はたまた自分を探すということに対しても何の葛藤も描かれないんですね。
田所という大学教授(小林桂樹)と寅が同次元の扱いとして描かれるのも納得できますし、1973年のヒット作「日本沈没」と、田所という役名が同じなのも遊びとして面白いと思います。またインテリという面で共通点を持つ「寅次郎夢枕」に登場した米倉斉加年を脇で登場させるなど、遊び心は伝わってきますが、肝心の物語を奏でる方はまったくおざなりです。
これでは寅にとっての女性観や、寅にとっての自分探しを表現して見せたと言うに過ぎない作品だと思います。本当に見たい物は、寅にとっての女性観の揺らぎであったり、寅にとっての自分探しの迷いだと思いますけどね。
20点。