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ある下水清掃人の死体が、ムンバイのマンホールの中で発見された。ほどなく、年老いた民謡歌手カンブレが逮捕される。彼の扇動的な歌が、下水清掃人を自殺へと駆り立てたという容疑だった。不条理にも被告人となった彼の裁判が下級裁判所で始まる。理論的で人権を尊重する若手弁護士、100年以上前の法律を持ち出して刑の確定を急ぐ検察官、何とか公正に事を運ぼうとする裁判官、そして偽証をする目撃者や無関心な被害者の未亡人といった証人たち。インドの複雑な社会環境の中で、階級、宗教、言語、民族など、あらゆる面で異なる世界に身を置いている彼らの個人的な生活と、法廷の中での一つの裁きが多層に重なっていき・・・。
あらすじのところに「ユーモラスかつ洞察力に富んだ視点で人間を描いた法廷劇」とあるが
洞察力に富んでいるのかは良く判らないが、ユーモラスなところはほとんどなかった。
インド映画特有の、明るく爽やかな歌と踊り交じりのヴォリウッドを連想していると
騙された気分になる。
いたって真面目な作品だ。
ドキュメンタリーを思わせるカメラワーク。
演じる人たちが全く役者っぽくないので
観ているうちに、これはドキュメンタリー映画だったのか!と思った瞬間も。
自殺ほう助罪で逮捕されたカンブラという老人の裁判劇。
そこには根底に根強く残るカースト制度のもとに
底辺の人々の抑圧された暮らしが見えてくる。
裁判では、『地下の清掃人は自殺をするべき』と自殺を煽る歌を歌ったとされる歌手カンブラ。
あらゆることにこじつけて、何としてでも有罪にしようとする検察に驚きを隠せない。
裁判長は、「こう書いて」と書記に指示し、事実をすべて記録させるわけではないのも驚きだった。
こうなると、裁判はおざなりの茶番劇にしか見えない。
そこには民族差別(インドには15以上の違った言語を話す民族が住むらしい)、未だ残る階級制度の
ひずみを見る。
そして、今やIT国家として急成長している狭間で、多様民族、多様言語、多様宗教の12億人という人口を抱える国の、複雑なシステムを垣間見た気がする。
真面目な作品なので、睡魔にご注意。
映画としての面白味では星3.5というところだと思うが、インドの社会問題を冷静かつ克明に描き出したドキュメンタリー性が素晴らしく、星を1つ分上乗せ。
日本ではインドのイメージは比較的良いと思われる。暑くて汚いとかいうネガティブなイメージはあっても、危険だとか暴力的、反日的というイメージは少ないだろう。民主国家と認識されていて、人によっては中国を毛嫌いする反面で日本とインドが結んで中国に対抗するという考え方を好む者もあるようだ。
私はバックパッカーとしてインドを複数回旅行している。観光資源は素晴らしく、未だ訪れていないところでも広い国土にはまだまだ興味を引くところが多い。旅先で出会う人々も基本的には人懐っこく、温かい。
しかし、バックパッカーとして市井の人々と交わりつつある程度の期間滞在すれば、インドの負の側面もおのずから見えてくる。宗教や階級制度にとらわれ、不十分な教育に根差した無知から来る偏見や極端な思想、行動には、時として驚かされる。マイクロソフトなど世界的な企業のトップを輩出しながら、数億人規模の貧困者が数十年前とほとんど変わらない暮らしを強いられているという恐ろしいまでの不平等の温存。怖いのは不平等そのものではなく、それが温存され、温存されることが当たり前である社会の仕組みである。最後にインドを旅行したのは2013年だったが、その時にはたまたま子供が日本企業で働いているというインテリの老夫妻と知り合う機会に恵まれた。インド社会の問題点について聞かされた後、別れ際に彼らから渡されて一冊の本は、ある種の宗教本というか倫理教本のようなものだった。その本の内容は、私にとっては真新しくも深みもないと思われるものだったが、問題は圧倒的な社会的不正義を彼らが感じている、不正義にずっと耐え続けているということだった。
インドを嫌いになる必要はまったくない。しかし、我々の多くはインド社会の問題についてあまりにナイーブではないか。この映画が端緒になって、問題への理解が深まればよいと思う。民主国家として価値観を共有できる国なのか。そうだとすれば、なぜ未だに暑くて汚いというイメージ通りの暮らしを続ける膨大な数の人が存在し続けているのか。