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『エイリアン』(1979年/リドリー・スコット監督)の造形で、1980年のアカデミー視覚効果賞を受賞したスイスの画家・デザイナーのH・R・ギーガー。その作品は世界中のファンを魅了し、エマーソン、レイク&パーマー『Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)』(1973年)、マグマ『Attahk』(1978年)、デボラ・ハリー『Koo Koo』(1981年)ほか、数々のアルバム・ジャケットにも使用されるなど、多くのアーティストたちに影響を与えてきた。その創作の背景が本人だけでなく多くの関係者、彼を支えた女性たち、スタッフたちによって語られる。「H・R・ギーガー財団」公認、稀有のアーティストのドキュメンタリー。
ダークな作風と映画「エイリアン」のデザインで知られるH .R.ギーガーのドキュメンタリー作品。
ビルが立ち並び列車が走る街中に、樹木に囲まれたH.R.ギーガーのアトリエ兼住宅がある。
レンガ色の屋根を持つ素朴な屋敷で、木製の扉がついた入口は驚くほど小さく狭い。
庭には「エイリアン」や「ネクロノミコン」を思わせるオブジェを配した噴水、
産道を抜ける胎児をイメージした列車を走らせるレールが敷かれている!
本作に登場する性器や内臓を思わせるギーガーの作品の数々は、不気味ながらも美しい。
しかし、最も印象に残ったのは、ギーガーの恋人であり、ミューズでもあった女性・リーだった。
敬虔なカトリック信者だったリーは、ギーガーと交際し、彼の作品に触れることで
「タブーなき世界」を知り、次第に精神的に疲弊していく。
彼女はペンテコステ(聖霊降臨)の翌日「さようなら」と書き残し、銃で自殺した。
ギーガーは、「今でも辛い」「私の作品では彼女を救えなかった」
「わたしのせいかも…と考えるのは恐ろしいことだ」と悲痛な表情で語る。
ギーガーが、元妻・ミアと離婚したのは「C型肝炎に苦しむ彼女の姿を見ていられない」からだった。
彼は、暗く沈んでいくリーの姿を、どのような気持ちで見ていたのだろうか。
ちなみに、ギーガーはミアに財産を分け与え、離婚後も親しく交流が続いていた。
ギーガーは「見るべきものは見た。やりたいことはやった。悔いはない」
「死後の世界も生まれ変わりも信じない」と言う。
しかし、彼は、売却された時よりも、ずっと高い金額で自作を買い戻し、自身の美術館を開館した。
異端の精神科医・スタニスラフ・グロフは、彼の作品について「闇の中に光がある」と語っている。
ギーガーは、現在の妻、かつて愛した女性たち、仕事仲間、ペットの猫を愛し、愛されていた。
死や闇への恐怖、誕生の苦しみから作品を生み出したギーガーが、
「死んだらそれで終わり」と心の底から思っていたとは思えないのだが…
本作撮影終了後まもなく、ギーガーは亡くなった。
SF映画『エイリアン』のクリーチャーデザイナーとして知られる
スイス生まれの特異なアーティスト、H・R・ギーガー。
晩年の彼の素顔と世界に迫った貴重なドキュメンタリー作品。
自らのキャリアや彼独自の芸術の原点となった幼少期の体験、
彼の創作活動を支えた最愛の女性たちなどについて振り返り、
まるで自らの死期を悟っているかのような雰囲気を醸し出しており、
今となっては貴重な映像なのではないでしょうか。
数多くの関係者たちも貴重な証言を披露し合う中、その中に
セルティック・フロストのトム・G・ウォリアーさんがおられたことも興味深い。
彼の世界観とセルティック・フロストの音楽性が見事にマッチしていること、
ジャケットデザインではない交流が続いていたこと、
うーん、メタルも最高だわぁ~
監督:ベンダ・サリン(2014年・スイス・99分・ドキュメンタリー)
ギーガーといえば、『エイリアン』の造形をデザインした人―その程度の認識しかなかった私ですが、このドキュメンタリーでギーガーの世界の奥深さに魅了されてしまいました。
ギーガーの作品の原点は、6歳の時に父からプレゼントされた頭蓋骨だそうです。
彼はカメラの前でその頭蓋骨を手に取って見せてくれますが、それはギーガーに初めて恐怖を感じさせたものだったようです。
頭蓋骨を手にした彼は「自分の手の中に“死”が存在した」と回想していました。
彼はそれに紐を括り付けて、引きずって歩いたそうですが、「怖くなんかないぞ」というアピールでもあったようです。
ギーガーの作品の根底に秘められているのは「恐怖」で、そんな恐怖や彼の精神世界を体現化したのが彼の作品です。
スイスのチューリッヒにあるギーガーのアトリエ兼住宅は、世間から隔離されたように佇んでいて、まるで“Sleeping Beauty”が眠る場所のようです。
その庭自体が彼の作品の展示室のようでもあり、それらの作品を含めて一つの世界が出来上がっている印象です。
中でも、線路で繋がった世界は、「産道での苦痛」や、明るい光に出会う「出産の瞬間」などがイメージされていました。
ジャケットに使われているのは「Li 2161」という作品で、彼のかつてのパートナー、リー・トプラーの胸像です。
彼女との悲しいエピソードについては、コタロウ(!)さんのレビューを参照なさって下さい。
彼の家には現在のギーガー夫人の他、かつて縁のあった人々が集い、ムギ3世という名の猫もいて、一見気難しそうな彼ですが、彼を理解する人々とは生涯のよき友人関係を築いていたようです。
モノトーン、グロテスク、エロチック…
そんな言葉で評されるギーガーの作品ですが、まるで魔法にかけられたように、いつまでも作品に見入ってしまいます。
「Li 2161」をずっと観続けていたいほど、神秘的な感覚の世界に囚われてしまいました。
※ギーガーは、この撮影の5日後に亡くなったそうです。本人も楽しみにしていたでしょうし、残念です。