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主人公・海藤(原田芳雄)がお風呂に浸かって口ずさむ「東京キッド」。美空ひばりのヒット曲ですが、黒木監督も同年代ほどでしたかね。そんな歌が流行った昭和の時代とは大きな格差がある平成という時代、それでも海藤はポケットの中に夢を求め続けます。
。時代の失速感は初老のスリという職業に代表されてはいますが、サラリーマンであれ自営業であれ、同じように年老いていく肉体を感じますし、若かりし頃のエネルギーが喪失していることに苛立ちも覚えますね。その捌け口が主人公たちにとってはアルコールへの依存ですが、そのまま人生を終わらせてしまうほどエネルギーも喪失してはいず、立ち直ろうとする葛藤が描かれます。
初老のスリ・海藤と、同じく初老の刑事(石橋蓮司)が、反目し合いながらもお互いの力量を競う一つの世代として描かれ、また古い世代を否定することで乗り越えようとする若い世代が描かれます。若い世代も竹のように伸びる真っ直ぐなエネルギーではなく、屈折した不協和音を奏でるようなエネルギーだと思います。実際どんな時代も若者のエネルギーは屈折しつつ噴出するものですし、全編を通じた不協和音とも言える音楽はそんなエネルギーを象徴しているのではないかとも思えます。
<以降、完全ネタバレです>
留美子さんが書かれている
「しかし何故育ててやった子供から指を潰されるまで憎まれているのかわからない。」
ですが、集団スリのボスとして、育ての親である海藤とは、あえて違う面で登り詰めることに美学を求める彼の反抗なんじゃないでしょうかね。指先の器用な一樹(柏原収史)に対しても露わな嫌悪感を表すシーンがありますし、彼がスリの技量の面で海藤を越えることが出来ないと自覚しているのかもしれません。その自覚が彼の内部で屈折感を産み、子が親を乗り越えようと苦しむ様でもあるのではないかと思います。
また、子が親を乗り越えようとするエネルギーこそ時代を変えていくエネルギーでもありますし、その陰には年老いていくことを感じつつも、まだまだ現役の座を譲りたくない、自らの生き様に誇りを持つ老齢世代のエネルギーがあることも確かだと思います。
映画は子に指をつぶされても、なお現役であり続けようとする海藤を描き、彼の生き様を象徴します。映画の予告編では『最近「本物」の映画を観たか?』というキャッチフレーズが表示されますが、この物語からそれぞれが何かを感じ取る映画だと思いますね。そういう面では非常に「映画らしい映画」ですし、黒木演出もオーソドックスではありますが、確かな力量が感じられる秀作だと思います。
まあ難を言えば、スリを実行する若い力が、スリという緊張感を醸し出してはいても、それが今ひとつ屈折感と重なる際どさが醸し出されていませんし、故に海藤の生き様を裏打ちする力にも劣ってしまうというところでしょうか。香川照之演じる登場人物で挿話として補強されてはいますが、本流を支えるほどの力を発揮しませんし、観客への依存度が非常に大きいという映画でもある所以だと思います。
故に傑作とまでは評しがたく、秀作という程度かなと思います。