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下総飯岡の貸元助五郎の所へ草鞋を脱いだ異風なやくざは、坊主頭で盲目で、人呼んで座頭市。ツボ振りでも居合い抜きでも目明きの及ばぬ市の腕を見込んだ助五郎は、彼を客分扱いで、乾分蓼吉を世話に付ける・・・。子母沢寛の随筆集「ふところ手帖」に出てくる盲目の居合斬りの名手、座頭の市を主人公に、犬塚稔が実に見事な脚本を書き下ろし、監督の三隅研次が絶妙の演出手腕を見せる、シリーズ記念すべき第1作。
「大岡越前」の癖のある与力役の頃から天知茂さんが
大好きで、新東宝映画を観ていても、大映映画を観て
いても、微妙に主役でない天知さんが気になって仕方
がなかったのでした。
この映画では、天知さんは平手造酒を演じます。
平手造酒と云えば、ウィキペディアに項が立てられて
いるくらい(記述は僅かですが)、春秋に富んだ生涯を
送った人物ですけれど、この映画ではもちろんそうした
こもごもには触れられません。
造酒は市に出会い、心を許し、市のために、市によって
斬られ、死んで行きます。
三隅監督の描く天知さんは、いつも何がしか少年の感じ
がします。大人たち(世間)が捨てて省みない、時々キ
ラリと光るだけの、道端のガラス片みたいなものを大切
にポケットにしまっておくような感じがします。
ぼくたちは、そうした天知さんを見て、そんなガラクタで
ポケットをふくらませていた頃の自分を思い出し、今は
ハンカチとカードしかポケットに入れていない自分を、
やましく思うのです。
だから、そうした天知さんの造酒を受けて間然するとこ
ろの無い、市の勝新太郎さんに、もちろん拍手なのでし
た。
(北野武の「座頭市」に較べて)殺陣のシーンが日本的でカッコいいだの、(北
。野武の「座頭市」に較べて)人間が描かれているだの、(北野武の「座頭市」に
較べて)主人公市に人間的魅力があるだの、主に(北野武の「座頭市」に較べて
)よく言われている「勝進太郎座頭市」だったので果たしてどんなものなのか
と楽しみにしていたのだが、案の定伝説は伝説に過ぎず、少なくとも「座頭市
物語」においては、殺陣は北野版座頭市よりも遥かにしょぼくてシーン自体が
少なかったし、別に取り立てて人間が描かれている訳でもなかったし、勝進太
郎の市は確かにそれなりにカッコ良かったけど必ずしも人間味溢れた暖かみの
あるキャラクターというわけではなかった。おそらくこれは、「座頭市物語」
が「勝進太郎の座頭市」だったからではなく、「三隅研次の座頭市」であった
が故のことなのだろうと思う。きっとこの最初の作品が当たってシリーズ化さ
れ、何作も撮り続けられるうちに伝説になっている曲芸めいた殺陣のシーンや
やくざでありながらも人間味溢れた本当は心暖かい愛すべきキャラクターとい
う色づけが成されていったのだと思う。そして、それこそが「勝進太郎の座頭
市」なのだろう。
「三隅研次の座頭市」はとても慎ましく物静かだ。そう、まるで「北野武の座
頭市」のように。キャラクター設定や演技だけでなく、耽美派との評価もある
三隅研次の映像も、抑制を利かせた静かなしかし空間を構成しようと言う意図
だけがちょっとばかり凶暴に顔を出している、「北野武の座頭市」と共通点が
あるとも言える出来となっている。いや、シネスコープのモノクロという
画面の効果もあって、雰囲気だけなら「三隅研次の座頭市」の方が「北野武
の座頭市」よりも北野武っぽい、芸術の香りがするとすら言えるかもしれない。
伝説に惹かれて「本物の座頭市」を見ようとした人なら「座頭市物語」には裏
切りに似たものを感じると思うが、虚心に座頭市を見ようとする人には心地よ
い時間を与えてくれる作品だと思う。