ドリーム・ホース

　いろんな意味でとてもバランスの取れた人馬一体となった感動的な映画。共同馬主による競争馬が主人公だけれど、同時に、その馬に夢を託した人々それぞれの想い、その背景や家族関係がしっかりと丁寧に描かれていて、ウェールズの小さな村に慎ましく生きる人々を描いた等身大のヒューマンドラマでもある。どうせ定番のサクセスストーリーだろうと、侮ってはいけません。実話に基づいているので、説得力があります。

　今作の主人公となった馬、ドリームアライアンスがとにかく素晴らしい。母馬ルーベンの命を受け継ぐかのように生まれ、飼い主ジャン（ジャネット）夫妻からたっぷりと愛情を注がれて育ち、ささやかに暮らす村の共同馬主たちから夢を託されて凛々しく成長していく仔馬の姿に、胸が熱くなる。そのつぶらな瞳、意志の強そうな、何かを見通したような、賢そうな大きな眼が度々アップになって、心を奪われます。最初から勝ち続けるというわけでもなく、正視できない過酷な苦難をも乗り越えて、さらにレースに挑みます。

　競馬のシーンの映像は４回もあり、2回目からはより危険の増す障害レースとなりますが、サラブレッドの走る姿は美しく、力強く、いずれのレースも臨場感たっぷりで迫力満点。ウェールズ最高峰のレース、ウェルシュ・グランド・ナショナルでは、レース開始前に、満場の観客とキャサリン・ジェンキンス（特典映像によると、ウェールズ出身の世界的メゾソプラノ歌手だそうです）とによって、ウェールズの国家が誇り高く歌われます。テレビの前で応援する人々も心を一つにして合唱し、本当に感動的なシーンです。聴く機会のほとんどない素晴らしいウェールズ国家を歌詞付きで聴けるというだけでも、この映画を観る価値があるように思います。「…　ウェールズよ　私はこの祖国を愛す　海に守られしこの美しい土地で　いにしえの言語が永遠に栄えんことを」

　映画のロケーションも見事で、自然豊かな谷あいにひっそりと佇む物語の舞台となるウェールズの小さな村、ドリームアライアンスが競走馬として調教を受ける国内最高の調教師ホッブスの緑溢れる広大な敷地と瀟洒な建物、大きなレースになるにつれてその規模も拡大していく各競馬場の特徴的な建物やコース。この映画で馬主バーなるものを初めて知りました。

　どんな人の退屈な人生にも、生きる糧となる胸の高鳴り（ホウィル）が絶対に必要。それは単なるクラック（ゲール語）ではなく、モチベーションと情熱を意味する、まさしくホウィル（ブリトン諸語）そのもの。慎ましい生活を日々繰り返すだけの人生に、夢と希望とホウィルを灯して、ドリームアライアンスは逞しく疾走していきます。出演者全員が「デライア」をノリノリで合唱するエンディングクレジットも気が利いていて、とても楽しい。どんなにささやかであろうと、ホウィルをいつまでも忘れない人生でありたいと願わずにはいられません。

実話がベースということで、とても良い話でした。
何度も、何度も、目頭が熱くなって涙が出ました。
皆で一つの夢を持つっていいですね。

自分だけでは競走馬を育てることは出来ないけど
組合を作って村人から週１０ポンドの共同出資を募ることで
競走馬を育て上げたジャネット（ジャン）・ヴォークス。
「ドリーム・アライアンス」と名付けられた馬は
組合員の夢を乗せて、ウェールズの競馬場で活躍していきます。
馬をわが子のように愛おしむジャン。
その愛情の深さが、馬に伝わったかのように颯爽と走る姿に感動しました。
無味乾燥の日々を送っていた人たちが、同じ夢を持つことで
生活の色が変わっていく様子にもワクワクしました。
最終的には村中の人たちがドリームを応援するシーンは
涙が止まらなくなってしまいました。
ラストには、演じた俳優たちと一緒にご本人達も登場して
皆でトム・ジョーンズの「デライラ」を大合唱。
最後まで心が躍る良い映画でした。

ドリームアライアンスは２０１２年に現役を引退し
２０２３年４月に２２歳の生涯を終えています。
競走馬として最高の人生、いや馬生だったことでしょうね。

馬主というと金持ちの道楽というイメージだが、昼はスーパー、夜はパブで働くパートタイマーのおばちゃんが、馬主になろうと思い立った。「朝ワクワクして目覚めたい」と。舞台はウェールズ。競馬のさかんな土地柄であるようだ。
お金はないから手作りのチラシを作って出資者を20人集め、競走馬の母親となる牝馬を買い、血統のいい種馬を掛け合わせて小馬を産ませた。ドリーム・アライアンス（夢の同盟）と名付けて、有名な調教師にあずけた。
20人の中には経験者もいた。借金作って家をとられそうになりもう二度と馬はやりませんと妻に約束させられたはずであるが、中毒性があるらしい。
彼によると「馬が優勝する見込みは 1%もない。胸の高鳴りだけを求めてくれ。」ということだった。しかしこの馬が嘘のように勝ちまくるというまさに夢のような話であった。

一口馬主という制度は知っていたけど村民みんなでというところが喜びを何倍にもしたんだろうなあと感心しました。