チェルノブイリ１９８６

監督：ダニーラ・コズロフスキー（2021年・露・136分）

「1986年4月26日。チェルノブイリ原発の4号炉で爆発が起きた。本作は、その事故に着想を得ているが、登場人物とその運命は創作である」とのテロップが映し出されて物語は始まる。

プリピャチの消防士アレクセイ・カルプーシン（ダニーラ・コズロフスキー）は、仲間と散髪に行った先で、10年前に別れた恋人オリガ（オクサナ・アキンシナ）と偶然にも再会する。彼女には10歳の息子がいて、名前が彼と同じアレクセイだったことから、彼との間にできた子供だと分かる。
10年前に二人が別れた理由は語られないが、劇中の彼の言動を見ていると、きっと彼の一方的理由だと想像される。本作の中でも、彼は自分の行動の理由を伝えることなく、オリガとアレクセイ少年を振り回し、不安にさせているだけに感じた。
アレクセイは、少年が欲しがっていた８ミリカメラをプレゼントし、少年は友人らと撮影に出掛ける。そして、チェルノブイリ原発の爆発事故を（距離はあったが）目撃してしまう。

チェルノブイリ原発の爆発事故や現場の様子を観ると、嫌でも『Fukushima 50』の映像を思い出してしまう。事故の原因も違うし、チェルノブイリは「排水」が必要、福島は「注水」が必要という風に真逆の対応に迫られたが、最悪の事態を回避するための手順・方法は恐ろしいほどに一致していた。
アレクセイは消防の仕事で、チェルノブイリ構内の火災・安全点検の経験から、内部の構造・通路に詳しかった。しかし、放射線量が極めて高く危険を伴う場所へ行くことを躊躇った。
そんな彼が志願する気持ちになったのは、息子のアレクセイが被爆したことが分かったからだった。志願者への特権として示された「スイスで最新の放射線治療を受けさせる」という条件を「自分の代わりに息子に治療を受けさせる」ということに変更して引き受けたのだ。
排水ポンプのバルブは地下に水没しており、そこに辿り着くには熱湯になっている中を行かなくてはならない。装備も福島の時に比べたら本当にお粗末で、生きて帰れるはずがないと悲観的になってしまう。
アレクセイは地下の熱湯に潜る寸前、相棒に「どうしてこんなことになったんだ？」と聞くのだが、「人災だ。誰の所為かって？今さら、そんなこと関係ないだろ！？」
事故から35年が経過しても、この映画ではハッキリと原因を語らないのかと思ってしまう。
テロップでの断り書きの通り、アレクセイとオリガ、その息子の3人に焦点を当てて「チェルノブイリ原発事故のほんの一片」を描いて見せたに過ぎないのだろう。
ただ、『Fukushima 50』には無かった、被爆した者の最初の症状や経過などが描かれていた。いくつものこのような断片を観続けながら、私たちは考え続けなくてはならないのだと思う。

チェルノブイリ1986