ＭＯＮＯＳ　猿と呼ばれし者たち

（2019年・コロンビア他）
標高4300メートルの山頂、雲海が眼下に広がる神々しい景色。
未開のジャングルは、滝や濁流など一般人が近づけない荒々しさ。

そこで、ゲリラ組織の一員であるコードネーム『モノス』（猿）と呼ばれる
8人の若き（15歳前後？）兵士が、戦闘訓練と人質の管理をしていた。
彼らは幼少時、民家から誘拐されてきたのだ。
教育もなく、他者とのコミュニケーションもとれない、ただ無邪気に仲間と
戯れ、指導者のメッセンジャーが来ると、逆らう事なく戦闘訓練をする。

ある日、メッセンジャーが一頭の乳牛を連れてきて、「借り物だから大事に扱え」
と指示。しかし、祝砲として発砲した弾が牛に当たり、牛は死亡してしまう。
（責任を感じたリーダーは自殺）
新しくリーダーになったモイセスが、仲間をまとめきれないまま、人質のアメリカ人女性は
逃亡を図る。7人はやがて、分裂し狂気を帯びてゆく・・・。

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予告を見た時、ずいぶん俊敏な子供たちだと楽しみにしましたが、本編では
案外普通の体格で、山で特訓したようには見えませんでした。
言語能力が不足という設定なのか、長いセリフがなく、背景が説明不足気味で
人質（多分、身代金要求のため）との関係も掴みきれない。

しかし、食料や衣服もロクにない過酷な環境で、子供ながら防塵道具使ったり、
銃やナイフを覚え、理不尽な上のルールに己を抑えようとする姿は、
気の毒でたまりません。
『蝿の王』を思わせる展開ですが、コロンビアの不幸は大人達が作ったもの、
誘拐して戦争に使うなどあってはならない。
それと濁流に女の子が流されるシーンがあって、結構時間も長い。安全に配慮した
撮影がされたのか気になった。
子供が一人で何かできるはずもない。
フィクションとは言え、実はこわい話なんだと思う。

メッセージを打ち出したい映画なのだと思う。主題的に。だがそのメッセージが伝わってこない。それでも独特の緊張感が画面から伝わり、引き込まれるシーンも多かったので星は甘め。
中南米の治安を脅かしたのは、麻薬カルテルなどもあるが、基本的には右派・軍事独裁政権だと理解している。それを金・モノ・情報そして軍事訓練でサポートしたのがアメリカ。つまり、元々封建的・植民地的だった国々が独立して民主的に政治を自国民が取り仕切ろうとした時に、自然とそれは左派的な動きになり(土地や資源を支配している大地主などの特権階級やアメリカ資本に対抗するのは農民や労働者)、その動きは別にソ連と結びついていないし暴力的でもなくて単なる貧しい国民が独立して豊かになりたいというだけの動きなのだが、それをアメリカお得意の無理解＆妄想で赤狩り的な形で現地の独裁者をサポートすることになり、しかも世界一無能な組織であるCIAが徹底的に暴力を駆使して実行したというのが正しい歴史認識だ。それに対して身を守るために戦ったのが左翼ゲリラで、勝つことができたのはキューバとニカラグア。あとは基本的には独裁者とアメリカにやられてしまい、苦しい闘争を強いられた。その苦しいサイドが誘拐して少年兵に育てたMonosの物語のはず。
過激左派ゲリラを糾弾したいなら、少年少女の直接的な悲劇性をもっと打ち出すことになっただろう。逆にアメリカが仕組んだ構造的な混乱を糾弾したいなら、少年少女が選択肢なく取らざるを得なかった不条理に焦点を当てたはず。あるいは、それらを超越して子供たちの超絶的なサバイバル能力を中心にアクションムービーにする手もあっただろう。だが、そのどれでもなかった。だからメッセージが分からなかった。
私が少しでもメッセージ性を感じたのは、少女が言ったテレビで踊りたいという願望と、少年が言った長靴のつま先を切って履けばいいというサバイバルアイデアだけだった。

第92回米アカデミー賞コロンビア代表
世間から隔絶された南米の山岳地帯で暮らす8人の少年少女

ゲリラ組織の一員の彼らは「モノス（猿）」と呼ばれ、人質のアメリカ人女性を監視している

ある事件から亀裂が生じ、極限の状況から狂気が暴走する
リアルな映像の衝撃作品