いれずみの男

「いれずみの男」（1969、米国、カラー、103分）。監督は「動く標的」のジャック・スマイト、主演はロッド・スタイガー、共演はクレア・ブルーム。レイ・ブラッドベリ（1920〜2012）の原作の連作短編集（「刺青の男」（「The Illustrated Man」）を映画化しています。このSF作家は短編が完璧で魅力的です。短編集「十月はたそがれの国」(「The October Country」)は、宇野利泰・訳で創元推理文庫に入っていますが、その「みずうみ」という作品は全文筆写しました。美しく恐ろしい散文詩です。

さて、この映画。米国中南部と思われる平凡な山岳地帯が映ると、唐突に女声で「時を超えて　未来をのぞこうとする人間は──答えのない問いに向き合わなければならない」とアナウンスされる。ヒッチハイカーの旅人（ドライヴァス・ ウィリー）が車から跳び降りる。山も池もあり水鳥も飛ぶ。彼が池で水浴びしていると、黄色いずた袋を提げた、夏に不似合いな厚着の男「カール」（ロッド・スタイガー）が通りかかり声を掛ける。（後付けになるが、「男」は青年の若い真っさらの肌を見て、自分の後継者にと思ったのでしょう。）
男はハモニカを吹くが、旅人が黄色い袋を覗ききもうとすると激しく拒む。「ポメラニアン」のような子犬が袋から出てきて激しく吠える。「ああ、14歳だ」と男は言う。そして、手袋を外して刺青を見せる。謎と解く鍵は、最初の「時を超えて……」の声の女、男の語る「フェリシア」（クレア・ブルーム）でした。旅人も物語に組み込まれています。

ここからは原作の話に戻ります。男は、全身に彫った18の刺青に18の秘密を隠していた。月光の夜、刺青の絵は動き、物語を演じ始める。話は全て未来社会のタブー──各エピソードの前提は宇宙旅行と神秘な惑星の世界で、語られるテーマは宗教、原水爆、人種問題、仮想現実、世界の終末……など。刺青は過去から続く人類の遺産を刻みつけたものだった。月光の下で封印されたものが動き出す。映画は18のうち「草原」「長雨」「今夜限り世界が」の３編をもとに構成されている。スマイト監督は、SFの特殊効果を必要としない３編を選んだのでしょう。

仮想現実でしかアフリカの野獣を見られない子供たちが、部屋に電送されたライオンに襲われる。不時着したロケットから降りた男たちは、金星の強酸性雨の中を歩き、「太陽ドーム」を目指すが、そこは別の不時着ロケットだった。「今夜限りで世界がなくなるとわかったとき、どうする？　読みかけの本を閉じるように世界が終わるかい？」と夫が言う。彼は同じ夢を何度も見ている。妻は、自分も同じ夢をみたと言う。二人はそれから「おやすみ」と言った。これらの物語の男と女は、スタイガーとブルームが演じています。

物語が終わり、旅人は、男の背中にある、刺青の入っていない空白の部分を見た。そこに、男が浮き出てきて、自分も映っている。旅人は逃げ出した。男が秘密を知った自分を殺そうとしているのが分かったからだ。そして、自分が彼の後継ぎになるのを怖れた。

不思議な映画です。ロッド・スタイガーは、こんな役も出来る人だったんですね。