ロング・ウェイ・ノース　地球のてっぺん

　新海誠や細田守の作品に代表される現代の日本アニメでは、「描きこみすぎるほどの緻密な描写」と
いうのがデフォルトになっている。特に背景描写においては、そこまで描きこまなくてもいいんじゃ？と
言いたくなるほど（それはCG技術の恩恵によるものだったりもするが）
一世代前だと、人物を引き立たせるために背景は抑えるものだ、という考えだった。
　このA型的な緻密さが、日本アニメのストロングポイントではあるのだが、そのせいで緻密で無い作品
は評価されないという空気が出来てしまってもいる。

　レミ・シャイエによる『ロング・ウェイ・ノース』はそんな風潮からは逆行した「省略の賜物」的な作品だ。
色も形も省略されてゆくが、反比例するかのように伝わるものは豊かになる。極北の世界は、白・灰・青だけ
で表現されるが、余計な線や色が無いことで逆に空気感が伝わるという効果が生まれている。
巧みな省略は、実写のような緻密さを上回ることもある。
　人物の輪郭線も色トレスで排され、ミッシェル・オスロの切り絵アニメーション的にも見える。動きもそう。
コンピューターをどの程度使っているかは分からないが、昔の手作業セルアニメの風合いを感じさせてくれる。

　１９世紀のロシアを舞台に、北極を目指して遭難した祖父の後を追う少女サーシャの物語。２０世紀の冒険
少年少女譚を思わせる、素朴で力強い物語。この作品を激賞したのが存命中だった高畑勲。彼も『かぐや姫の
物語』で毛筆的描線と水彩的な彩色という、高度な省略法を用いた作品を作った。

　あれは高畑氏の現代日本アニメへのアンチテーゼだったか。「実写と見紛う緻密さばかりを目指さなくても
いいだろう、アニメーションはもっと素朴なものでもいい」という思い。だから彼がこの作品を好んだという
のは良く理解かる。高畑繋がりでいうなら『太陽の王子ホルス』を彷彿させる瞬間もある。

　一途と言えば聞こえはいいが、サーシャの直線的な思いが人々を巻き込んでいく。その身勝手を腹立たしく
思いながら、冒険ってこういう無謀さが無いと始まらないよなぁと再認識。こういう所も、物分かりのいい
キャラばかりになった日本アニメが失っているものかもしれないなぁ。

初めは絵が荒いと感じましたが、
だんだんとそのシンプルさに惹きつけられました。
風景の簡潔な描線、切り絵風のスケッチはどこかアジア的です。

自己を貫く若い女性を主人公にしたストーリー、
そして北極圏の氷塊を割って進む船。
こうして航海したのだと、初めて知りました。

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今年、一番面白かったアニメ映画と言っていいだろう。
米文学に例えるなら、海洋版マチルダ。
ロアルド・ダール先生が書いたあれ。
全然期待してなかったから、めっけもん。
この監督の他の作品も見てみたい。運営さん、他にも入れてください。

ヨーロッパ系は、本当に子どもに容赦ない。
美しさと厳しさに満ちた作品。

エンディングの最後の1コマは、いらなかったのでは。
旗が飛んでいくのは、いただけない。感動が冷めた。

海洋ものが好きなら、下記の作品も勧めておく。
我田引水、自画自賛、手前みそで、すみません。白黒映画。

我は海の子