ハロルドが笑う　その日まで

IKEA創業者の誘拐を決意した小さな家具店主が巻き起こす珍道中を描いた、ノルウェー製ヒューマンドラマ。
ノルウェーの街で40年以上にわたって小さな家具店を営み、クオリティの高い家具にこだわり続けてきたハロルド。ところがある日、店の目の前に家具販売チェーンIKEAの北欧最大店舗がオープンし、ハロルドの店は閉店に追い込まれてしまいます。さらに愛する妻まで失い、怒りを募らせたハロルドは、IKEAの創業者カンプラードへの復讐を決意します。

高級家具と、大量生産の安価な家具。販売する家具に対する考えは違うものの、同世代を生きた者どうしの意外な共通点や、家族に大事にされていない孤独な老人という、自分とどこか同じ境遇な面もあり共感することも多く、何のために誘拐したのか分からなくなってしまいます。
大企業の経営者と言っても何かしら悩みはあるものですね。
誘拐劇とは言ってもサスペンスにはならず、復讐のはずが、家出少女と、創業者との交流も相まって 思い通りに行かない言動に可笑しさが滲み出ています。
放火しても誘拐しても話が大事にならず、どこかネジが緩んだほのぼのとした味わいが魅力的でした。

本作の主人公ハロルドは、ノルウェーのとある町で40年以上にわたり高級家具店を営んできた老人です。
ハロルドの店の家具は品質も良く、不具合が出たら修理をして、何世代にも亘って大切に受け継がれていくような自慢の家具でした。
しかし、彼の店のすぐ近くに、あの有名な大型家具店「ＩＫＥＡ」がオープンし、ハロルドの店は閉店に追い込まれてしまいます。
40年を共にした妻は認知症を患っているようで、彼女は自分を施設に入れたら死んでやる。と言っていたようですが、それが本当になってしまいました。
店も妻も失ったハロルドの怒りは、一気にＩＫＥＡの創業者・カンプラードに向けられます。
復讐しようとカンプラード誘拐を計画し、ハロルドはスウェーデンを目指します。
ひょんなことからエバという少女も加わって、妙チキリンで哀しくも可笑しい旅が始まります。
事の顛末は、実際に観ていただくとして、最初、私にはこの物語が解説にあるようなハートウォーミング・ストーリーとは思えませんでした。
ラストで、全てが吹っ切れたように笑うハロルドを見るまでは、何だか切ないような淋しいような情けない気持ちでした。
面白さ、可笑しさの奥に“人生の輝いていた頃”と“たそがれ”が見えるようで、ちょっと胸が苦しかった・・・（私の年齢のせいかな？）
エバの母親のことも同じだと思いました。
人生の一番良かった頃の思い出に縛られて現在（いま）を悲観してばかりいる。
そして、エバの愛情に気づけないのです。
「良いものを長く使えるように」というハロルドの思いと、「誰でも買えるような値段のものを」というカンプラードの思い。
ハロルドは、息子に自分の淋しさを伝えることもせず、カンプラードは自分は誰からも愛されていないと孤独を感じています。
言葉にしてみれば、ハロルドもカンプラードもエバもその母もみんな淋しいんです。
でも、最後にハロルドが大声で笑い飛ばしてくれました。
吹っ切れるまでとことん悩んで笑い飛ばす！
そうそう。エバがハロルドに「奥さんとの最後の会話は？」と聞いたら
「あほんだら」
ちょっと驚いて「じゃあ、その前の会話は？」
ハロルドが答えました。「アバズレ」
ちょっと不思議な余韻の映画でした。

映画の中身より以外のところで、共感してしまいました。

先ず第一はスェーデンの冬の寒さですね。
北海道人としては、見てるだけで、寒そうで、
身につまされるのです。
ハロルドさんのマイカー。ヒーター効いてるのかな〜、
凍れる(しばれると読みます)ふつふつと凍れてます。
カンプラート(IKEAの創業者)と、ハロルドさんが、川に落ちて、
裸で暖をとるシーン・・・歯の根が合わない感じ、
良く出てましたね。

二番目に、安物量販店の家具屋と言えば、「ニトリ」だぜ！！
IKEAは、札幌にないけど、「ニトリ」は札幌市が創業だぜ！！

我が家は「ニトリ家具」の展示室みたいだぜ！！
「ニトリ」のおかげでつぶれた老舗家具屋は、
山のようだぜ！！
分かってるけど、安くて、お店があっちこっちにあるから、
買ってしまうぜ！！

三番目に、ノルウェーでも奥さんが認知症になったら、
老老介護なんですね。
日本も北欧も同じなんだね。

息子のヤンは、イカれてて、母親が、存在を忘れるくらいだもんね。
息子も母親の存在をケロリと頭から欠落させて、
地下室に「射撃練習場」だとさ！！

この映画は本気で観てたら、かなり「肩透かし」ですよ。
でもハロルドさんは好き。
奥さんが大事で、馬鹿息子と分かってるけど、
「親が愛さないで、誰が愛するのか？」と、
聞こえない息子に「会いしてるよ」と、呟く。
お人好しですね。
こ狡いカンプリートにも、結局は、強く出れない。
エヴァ(16歳の少女)にも、優しく。

ハロルドさんの笑い声は、半分自棄っぱちの、
開き直りかな？
頑張れ！ハロルド！！幸多かれ！！

なんとも飄々としたコメディなんでしょう！
IKEAの創設者、カンプラート氏は実名で出てくるし！
でもって、俳優さんはご本人なの？と思うほどそっくりさんじゃぁございませんこと？！

ノルウェーで高級家具店を営むハロルドさん。
店の通りを挟んだ先に家具量販店のIKEAがオープン。
IKEAもいけすかないことしますわね。
これでは潰れてくださいと言わんばかりではないですか！
案の定ハロルドの店は立ち行かなくなり、おまけに痴呆症の妻は急死。
自殺しようとしたけけどそれもうまくいかないハロルドさん、息子の住むスウェーデンを訪れることに。
そこでひょんなことから知り合った１６歳の少女とIKEAの創業者カンプラート氏を復讐のために誘拐する計画をたてます。
初めは冗談で言ったことが、偶然の出会いから、本当に誘拐することになります。
次第に生まれる３人の奇妙な情が終始ユーモアをかもし出します。
思わずクスッと笑ってしまうシーン満載。
楽しかったです。そしてラストのハロルドさんの笑いの意味。
人生はうまくいかないことがたくさんあるけど、諦めたらおしまい、そんな悟りでしょうか？
不思議な雰囲気の北欧らしい映画でしたが、けっこう好きです。

お気に入りのシーンが、ハロルドさんが息子の家で射撃の練習をしているところに
息子の元妻と子供たちが帰宅してきたときの彼らの反応が面白かった。
絶妙のタイミングで男の子がかわいい演技をしています。
ほんの一瞬のシーンでしたが、大笑いしてしまいました。

それにしてもよくこの内容でIKEAから文句を言われなかったものです。
IKEAの家具を安普請で大量生産の家具と言い切っていますし、カンプラート氏にまつわるエピソードも実際のものです。
何よりカンプラート氏演じる俳優さんが、まだご存命であるご本人とクリソツときてますから、当然これは事前に許可を取ってはいるのでしょうねぇ。

我々にとってはIKEAはハレの場だった。客寄せのミートボールを「これ絶対安い」と言って食べ
モデルルーム風に展示されたインテリアに「さすが北欧センスが良い」と喜んだりした。
実際買った机は組み立てが案外大変だった。庭のBBQ用に買ったプラスチックの椅子は野ざらしで
埃をかぶり不気味に光っている。われわれもえらくナイーブだった。
若年層に良い家具をreasonableな価格でというがIKEAの方針であり年取ればだんだん似合わなくなる
ものだってあるのだ。
しかしIKEAは成功し世界の有名企業となったがこの映画に出てくるそっくりさんの演ずるIKEA会長が
案外質素な生活をしていたりIKEAが実名ででてきたりするとこにIKEAが会社として誇りをもって前述の
方針を貫いている事が感じられ映画そのものも同社を否定してるニュアンスもない。
ここのところが面白い。
日本人も西欧的インテリアの世界のほんの玄関前にいる程度で今改めてIKEAに行ってじっくり探せば
我が家にあった家具や小物を今なら見つけ出せそうな気がする。