連続ドラマＷ　荒地の恋

同人雑誌であり詩誌である「荒地」の詩人の北村太郎（豊川悦司）と詩人仲間の田村隆一（松重豊）の妻の恋で幕を開けますが、このドラマはその恋が主軸となっているのではなく、詩人の北村太郎の伝記的な物語になっています。北村太郎が残した言葉がとても豊かに使われていて、常人とは異なる感性に触れることができました。

でも、芸術家に共通して言えることかもしれませんが、考え方や行動が浮世離れしているのです。大きな子供がいて奥さんもいるのに家を出て、友達の奥さんと住んだり、また別の若い恋人をつくってみたり…。凡人の目線からだと、経済的なことは大丈夫なのかとか考えたりするのですが、大丈夫でもないらしく出版社に原稿代を前借したりしているわけです。

でも、北村太郎の人柄もあるのでしょうが、仲間も若い人も北村太郎の周りに集まってきて、いつも一人じゃないんです。とても魅力的な人なのでしょうね。ストーリーとしては、大きな盛り上がりがあるわけではなく単調で、前半は少し退屈に思いましたが、後半は北村太郎の憎めない立体的な魅力と、その言葉を操る魔術師みたいなところに心を動かされました。

一人の芸術家の生き様と芸術家たる感性が朗々と謡われていて、ドラマ自体が詩のような仕上がりになっています。文学という中心点に文才のある人が集まってきて、サークルになり、仲間意識ができあがる…そしてその中に人間模様がある。ときには、こんな雰囲気の作品もよいものだと思いました。昭和の時代が感じられる小物も散りばめられていて、懐古的な情緒も満載です。

荒地の有名な詩人　田村、鮎川、北村など実在の人物をモデルにしている。
戦後第一の詩人と評価される田村隆一の妻とこの物語の主人公の北村太郎（北沢太郎）の恋愛が
メインフレームで、荒地の詩人たちとの交友関係のエピソードが描かれる。
北沢太郎を演じる豊川悦司も50代中盤を迎え、落ち着いた円熟した演技が冴える。
豊川が主演したドラマで彼よりも大きな男で出てくることは今までなかったと思うが、田村隆一の大きな存在を演じるにあたり、同年代では松重豊ということになるのか。大きさ比べににやりとさせる。豊川悦司は１０年前に「太宰治物語」で、太宰治を好演した。太宰のような影のある役が似合っていた。北村太郎は表は円満な人物であるが、会社を退職し、家を出てから詩人として輝く作品を残していくこのあたりは事実である。ゴーギャンを思わせる部分である。
　４０代までの豊川悦司は人気俳優であった。５０代になり、年に映画１本程度しか見ることができないが、この作品を見る限り、年齢相応の役があれば、今でも魅力的な演技者である。