愛と憎しみの伝説

第２回ゴールデン・ラズベリー賞の最低作品賞を受賞した映画．．．とくれば期待感ゼロ？
とんでもない！　大女優が大女優を演じる最高のパフォーマンス映画だ。

ハリウッドの大女優ジョーン・クロフォードの人生を、これまた大女優のフェイ・ダナウェイが体当たりで演じている。ダナウェイはクロフォードに成りきっている。

ＭＧＭのトップスターであるＪ・クロフォードは、ベティ・デイヴィスと並び称される‘姉御女優’であるが、日々の生活での傲慢ぶりがよく描かれている。

クロフォードの養子、クリスティーナ（ダイアナ・スカーウィド）との確執は凄まじい。
クリスティーナが針金ハンガーを使っていたことに異常なる嫌悪を露わにし、クリスティーナの服を次々と投げ捨て、ハンガーで彼女の背中を何度も叩くのである。
又、クリスティーナの髪を切り刻んだり、頬を叩いたりと、暴力に走るシーンもある。

そうかと思えば、きれいに掃除した部屋の床が‘汚い’と言い出し、何やら磨き粉をまき散らして、ゴシゴシとやりだす．．．病的な潔癖症のところもある。
白く塗りたくった顔と、真っ赤な口紅が何とも興ざめするが、それはそれでクロフォード自身を投影しているわけだから納得できる。

クロフォードの映画は数多く観たが、ダナウェイの映画も数多く観ている。
この映画はクロフォードの映画人生がどういうものであったかを、多少なりとも知るうえで貴重な作品といえる。
演ずるＦ・ダナウェイは本作出演時、４０歳。
既に７６年「ネットワーク」（シドニー・ルメット監督）でアカデミー主演女優賞を得ているが、本作で二度目のそれを真剣に狙っていたという逸話もある。

クロフォード家のお手伝いさんに扮したルターニャ・アルダが、抑えた演技で何とも味わい深い。

音楽がヘンリー・マンシーニというのもいい選択肢だった。

余談だが、昨年（２０１５年）の最後のレビューが、４２年「情熱の航路」（アーヴィング・ラパー監督）で、ベティ・デイヴィスを主演にした映画だった。
そして今年（２０１６年）の最初の作品レビューがＪ・クロフォードの伝記ものということで、デイヴィスとクロフォードの関係を鑑みれば、奇遇ではあった。

夥しい数の映画に出演している女優ジョーン・クロフォードが養女をもらってから亡くなるまでを、その養女であるクリスティーナが書いた本を基に作った映画。
これまでに観た有名人の伝記映画には面白いものはなかったのですが、この作品は、伝記映画というよりも、
落ち目になった大女優がいかに生き抜いていくか、気難しい母親と生真面目な養女との異常な関係（クリスティーナには気の毒ですが）がホラー映画的で面白く、
最後まで飽きることなく観ることができました。それにしても大女優の身勝手、奔放さには呆れます。
映画の冒頭で、好感の持てる紳士であるグレッグがジョーンに愛想を尽かしますが、このグレッグの選択がジョーンの異常な性格をよく捉えた上での決断だというのが後から納得します。
ジョーンの養女に対してのヒステリックな虐待は、ホラー映画に出てくるサイコかモンスターそのもの。養女を自分の所有物のように扱っているような場面もあります。
恵まれない環境から自分を救ってくれたという負い目から耐え忍ぶクリスティーナが健気です。
そして、最後のジョーンの遺言の内容に唖然。彼女の頭の中はどうなっていたのでしょうか？
厳しい芸能界を生きた奇人の半生を普通人の養女の視点から描いたホラー映画もびっくりの怖い作品でした。