ブライト・スター　〜いちばん美しい恋の詩（うた）〜

2009年制作、ジェーン・カンピオン監督作品。
25歳で亡くなった英国のロマン派詩人ジョン・キーツを愛した女性ファニー・プローン。
彼女は、キーツに「輝ける星」と謳われた。短くも美しい3年間を過ごした二人の物語。

裁縫好きのファニーは、自らデザインし縫ったドレスで華やかに装っていた。
ファニーは詩に関心を持っていなかったが、キーツとの出逢いが彼女を変える。
彼女は、キーツと詩を愛する女性となり、キーツのミューズとなった。
原題は、キーツの詩の一節「Bright star , would I were steadfast as thou art」
（輝く星よ、あなたのように私も不動でありたい）から取られている。

黄色の羽根飾りがあしらわれた赤い帽子、黄色の靴、赤い上着に白いスカート。
これが、彼女がキーツと初めて対面した時の装いである。
は、派手だわー…と思ったかは知らんが、キーツの友人ブラウンは「ファニーはキーツに相応しくない」と考えている。
貧しいキーツの生活を援助し同居するブラウンの眼に、彼女は「フリルとクロスステッチだけの娘」と映っているのだ。
劇中、ブラウンが二人の交際にしばしば口を出す様子は、彼の印象を悪くした。
彼は、アイルランド出身で読み書きも覚束ないメイドのアビーとの間に子を儲ける。
生まれた子どもを抱いて、嬉しそうに笑うブラウン。
本作中、最も人間味を感じた人物だった。

父親を亡くしているファニーは、母、弟妹、と暮らしている。
優しい母はファニーの気持ちを理解しているが、貧しいキーツとの結婚には反対している。
母は良い縁組みのために、ファニーを舞踏会に行くようすすめる。
ファニーの外出には必ず弟妹が同行し、彼女はキーツと二人きりになる機会がない。
それでも、ファニーとキーツは二人きりになるし、二人の交際は世間の噂になる。
そういうものよね…

ミシン普及前の時代、ファニーの衣装は、全てが手縫いである。
「クロスステッチだけの娘」云々というブラウンの発言は、浅薄だと思う。
濃い桃色の蕾が揺れる桜の枝と白いドレス、舞踏会で着ていた繻子のドレス、
ツリガネズイセンの青い花と濃紺のドレス等々の映像が美しい。眼福！

ファニー（アビー・コーニッシュ）、キーツ（ベン・ウィショー）が好演。
キーツが重病の弟トムを見舞うシーンには、優しさや愛情、悲しみが溢れていた。
本作出演にあたり、ウィショーは羽ペンとインクで書くことを学んだそうだ。流石だわー…

　「心を奪われ　この身体が溶けてゆくようだ」　ロマン派の英国詩人ジョン・キーツが、早すぎるその死の直前に、運命的に出会った誠実で意志の強いファニー・ブローンとの、美しくも狂おしい、あまりに悲しすぎる至高の恋を描いている。舞台は、草木の生い茂る広大な土地に、川や池、森の広がるロンドンの自然豊かなハムステッド地区。物語は1818年に始まり、キーツがその短い生涯を懸けた数冊の詩集を出版し、25歳で夭折するまでの、４年数か月が描かれている。

　1818年、死期の近い弟トムを看護しつつ、財産どころか借金を抱え無一文でほとんど収入もないキーツは、彼を支援する友人のひとりチャールズ・ブラウンの家に同居することになる。近くに住むファニー・ブローンの家庭は、父親は亡くなっているが、裕福とは言えないまでも、メイドを雇い、生活には困らない程度の資産は有している。年頃のファニーは母親の勧めでダンス・パーティに参加し、キーツと出会う。

　ファニーとキーツは互いに惹かれ合い、度々キーツを訪ねるファニーに、ブラウンは、彼の詩作の邪魔になる、迷惑だと苦言を呈する。情熱的で意志の強いファニーはそんなことでひるんだりはしない。一方キーツは、無一文の自分には、恋することも結婚する資格もないと自制し、感情を表には出さないようにしている。困った事態だと憂慮しつつも、ただ黙って見守るファニーの気立ての良い母親は、苛立つファニーに、彼には収入がないから気持ちを殺しているのだと、やんわり娘を諭す。

　家賃が安いからと、ブローン家がブラウン邸の隣に転居することになり、ふたりの恋は抑えがたく深まっていく。ファニーの母親がお目付け役に同行させた弟と妹を伴って、花の咲き乱れる森をふたりで散策する美しく穏やかで楽しい夏の日々。しかし、そんな幸せは長くは続かない。病弱だったキーツがついに病に倒れ、会うこともままならなくなる。ベッドを壁際に移動させ、壁越しに互いの想いを通わせようとする切ないまでに狂おしく相手を愛しむ気持ち。

　ブラウンは最後にはキーツを裏切ってしまうけれど、有意の友人たちの援助でキーツはイタリアに転地療養することになる。どうしても彼に付き添って看護したいと食い下がるファニーに、母親もついに折れて、明日がないと分かっている婚約を正式に許可する。ところが、今度はキーツが、僕にはもう希望がない、これ以上君を拘束したくない、ここで別れを言おうとファニーに告げる。彼の決意は固く、ファニーになすすべはない。春の再会を固く信じていた２月、彼の訃報が届き、悲しみのあまりファニーは息ができない。

　長い髪を切り、喪服を着て、白く雪の降り積もった、かつてふたりで散歩した森の静寂をひとりどこまでも歩き続ける最後のシーンは、悲愴だが凛として、息を呑むほど美しい。この映画は、どの場面も絵画的な美しさに満ちていて、映像が実に見事だ。ファニーもまるで彫像のよう。また、帽子を含め、フリルとリボンの装飾を特徴とするファニーの衣裳の数々も独創的でとても素晴らしい。「美しい君への想いをどう表現すべきだろう。輝きを超えて耀く美しい言葉が必要だ。いっそ僕らが夏の３日間を生きる蝶であったなら、平凡な50年を生きるより深い歓びの日々となるだろう。」

　40歳で亡くなったエドガー・アラン・ポー、37歳で亡くなったゴッホのように、ジョン・キーツもまたさらに若く、生前には正当に評価されないまま失意と極貧のうちに早世した、19世紀の偉大なる芸術家のひとりなのだ。

切なくて胸が張り裂けそうで痛くなりますが、とても素敵です。
キーツの弱い感じとファニーの健康的なところが対象的です。
是非セル版をお願いします。

久々に胸にせまる切なさと映像美に酔いしれた。