犯罪「幸運」

殺人でもなく、遺体損壊の罪で結審。
マケドニアの赤い花畑で、手足をいっぱいに伸ばし、「幸福」を初めて味わう女性。
「『犯罪』　幸運」（2012、ドイツ、カラー、107分）。
「コリーニ事件」（原作2013、映画2019）を書いたドイツの弁護士フェルディナント・フォン・シーラッハ（1964生）が初めて発表した小説集『犯罪』（2009）。林檎が登場する11編の短編小説の中の「幸運」を、ドイツの監督ドーリス・デリエ（1955生）が映画化しています。
ナレーションとベルリンの弁護士の役は、マティアス・ブラント。羊飼いの娘「イリーナ」（アルバ・ロルヴァケル）は、少女のとき民族紛争の最中に両親が射殺され、自分はレイプされる。難民として転々、ベルリンに辿り着く。レトリバー犬を連れたホームレスの青年「カッレ」（ヴィンツェンツ・キーファー）と知り合う。「イリーナ」は自分のアパートに彼を導く。ベルリンで家賃を稼ぐ手段としては娼婦になるしかなかった。ある日の客は有名政治家だったが、彼女の上で心臓発作死する。動転した彼女は逃げ出す。帰宅した「カッレ」は事情を過大視し、遺体をバラバラにして捨てる。ここからどういう「幸運」が生まれるのか、林檎がどのように使われるのかは、映画を最後まで見るまでは分かりません。
原作は東京創元社（酒寄進一・訳）単行本で20ページくらいの短編です。弁護士出身の作者の乾いた文体で、淡々「法廷記録」のように事実を短文で連ねていきます。行間を膨らませば何とか60分くらい、原作に詳細に書かれない裁判経過を描けば、100分くらいになったでしょうが、残りは、監督・脚本のテリエの追加です。短編小説がそのまま映画になるわけもなく、無駄な膨らましや蛇足があって、原作を破壊することが多いのですが、「テリエ追加」は最小限で妥当でした。
小説集『犯罪』には、「チェロ」「緑」「エチオピアの男」などの名編があり、ぜひ映像化してほしいものです。この作家はミステリのベストセラーではないことが分かります。特に「エチオピアの男」は傑作です。橋爪功さんが朗読劇として「犯罪」と次作「罪悪」を口演されているそうです。機会を見つけて聴きたいと思っています。「エチオピアの男」はそこに含まれません。

サスペンスだと思って期待して観ると、肩透かしをくらうかも。
愛の形は様々…といったラブストーリーかなと。
愛するが故の行動は映画なら美しいですが、現実ではいけません！