やがて哀しき復讐者

　アンソニー・ウォン＆リッチー・レンの男くさい二人の、「言葉に出さなくても分かる」感が満載のノワール。
　何が分かるかというと、キーワードは「家族への愛」だったりするので、シンプルでベタだが身に迫るものがある。
　監督はジョニー・トーの右腕と言われる人らしく、製作をトーが担当。テンポはよいが、話は重い。
　娘の誘拐事件の復讐を果たすという物語に、救いはなく、ひたすら暗く重い。やや古臭いともいえる。そういう作品と覚悟されたほうがいい。
　作風はもちろん違いますけど、やはり金持ちの子どもが誘拐される黒澤の『天国と地獄』なんて思い出しました。あの三船敏郎が現場に出て犯人を追いかけたら……。　
　惹かれるのは、リッチー・レンの過去に何かがある、黙々とハードで残酷な仕事をこなしていくプロの男の様子。
　最初と最後で描かれるボリビアの塩湖。湖面が鏡面のようになった、不思議なイメージは、贖罪、赦しを感じさせて強く印象に残る。60点。

同じトー印でも製作のみの作品は、自身の監督作に比べて数段劣る。
ロー・ウィンチョン監督は『タクティカル・ユニット』が目も当てられず、よくまぁトーさんがＯＫしたものだと呆れ返った記憶がある。
折角の『ＰＴＵ』を台無しにされたような、後味の悪い一本だった。
比較すれば数段良かったとは思うのだが、それでもいまいちノリ切れない物足りなさが残った。

娘を誘拐し殺した犯人への復讐物語なのだが、手を下すのは当の父親（ウォン）で無く、忠実な部下（チュウ）なのが先ずひっかかる。
部下は何故ここまでボスに忠実なのか。
チュウはウォンのおかげで堅気になれ、恩義を感じている事を観客は察する。
たちまち犯人を追い詰め仕留める凄腕と非情から、チュウが裏社会でかなりのやり手だったのも想像出来る。
そのチュウを円満に足抜けさせたウォンが、如何に大物かというのも暗に分かる仕掛けになっているのだが。
しかし父親は命令するだけで、娘との想い出に耽り悲嘆に暮れるばかりなのが物足りないのだ。
部下にお膳立てはさせても、最後は自らが手を下さねば父親の「怒り」は迫って来ない。
過剰に湿っぽくテンポが悪いのは、このあたりの間延び感のせいではないかと思う。
しかしチュウだけで無く、ウォンにも、娘の世話役の女性にまで家族の情愛を絡ませているのを「香港的」と受け入れるべきか。
もしかしたらこれは復讐物語では無く、家族愛の物語と観れば良かったのかもしれないのだが。
ボリビアの塩湖の透明感が素晴らしく、雑然と濁った香港との対比が面白かった。

アブラの乗って来た感のあるリッチー・レンに比べ、５歳しか違わないアンソニー・ウォンの老け具合に驚いた。
撮り方にもよるのだろうが。

娘の誘拐に父親が立ち上がり…と聞いて、リーアム父さんの『TAKEN』を想起するが、
ヨーロッパ・コープのように脳天気な展開にはならないのがジョニー・トー製作の香港ノワール。
アンソニー・ウォン父さんの行動は裏目裏目に、ウォンの忠実な犬たるリッチー・レンは
誘拐犯人一味を追い詰めるが…
プロローグ・エピローグに登場するボリビアの湖が幻想的で美しい。