クリスマスのその夜に

それぞれに事情をかかえてクリスマスを迎える老若男女の心温まるエピソードを綴った話です。
クリスマスイブのノルウェーの田舎町。
子どもにプレゼントを渡したい一心で別れた妻の家にサンタの服装でもぐりこむ男性。故郷に帰る電車賃もないホームレスは、昔の恋人と偶然再会を果たしたり、医師のクヌートは、見ず知らずのコソボ難民カップルの出産に立会い、大切な感情を思い出します。
クリスマスを祝わない、イスラム教の少女と過ごす少年。妻子ある恋人との関係に疲れた女性など、小さなエピソードが少しずつ重なって、それぞれの関係が繋がるにつれて、各自の人生が明らかになっていきます。

冒頭、紛争地らしき荒廃した場所で銃をかまえた少年のシークエンスが、ラストにつながっていくのは見事で、宙に浮いたままの冒頭シーンが、無事に着地したラストは意外な展開に収まって、ほっと胸をなでおろしました。
クリスマスの物語の中に、こういうシークエンスを入れたのは、今なお争いが絶えない事への憤りを表したのでしょうか？冒頭とラストの繋がりの驚きは、感動に繋がりました。

それらの人々の中に星を眺める少女がいて、キラキラと輝く瞳は天使のようです。
この群像劇は、別々の人物のエピソードなのに、一人の人間の一生を切り取っているかのようです。
愛、誕生、死、孤独など色々詰まっていて、心の奥に小さくも強い火が灯るような温かくてどこか切ない作品でした。

早いもので今年もあと２ヶ月・・・。そろそろ街がクリスマスムードになりますね。
これは去年のクリスマスの頃に観ました。

「ホルテンさんのはじめての冒険」のベント・ハーメル監督の８５分の小品。
「ホルテンさん」のわざとらしいところがあまり好きではなかった私ですが、これはそういうところもなく、まあまあよかったです。

ノルウェーの小さな町のあるクリスマスイブの夜、そこに住む人たちに起こったさまざまな出来事。

妻に追い出された夫は、なんとか子供に会いたくてサンタに化けて家に侵入する。
忙しくて妻との時間がなかなかとれない医師は、コソボ難民の出産に立ち会う。
「イスラム教徒だからお祝いはしない」という少女に、「僕のうちも」と話をあわせる少年。
今年こそ奥さんと離婚してくれるはずだと、不倫相手に期待する女。
故郷に帰る電車賃もない男は、昔なじみの女に偶然出会う。

「ラブ・アクチュアリー」のノルウェー版みたいな内容ですが、俳優は知らない人ばかりなのでものすごく地味。
文化的な違いなのか、２，３よく理解できなかったことも。
女性が日本人の感覚ではかなり老けてみえて、「子供が欲しいのに、子作りする暇がない」と嘆いてるのに、そういう年齢にはみえなかったり。

それにしても、なぜ男は妻と愛人に全く同じプレゼントを贈ったりするのか？！

いい話もあれば辛い話もあるんだけど、「故郷に帰ろう」というラストはいいと思いました。
日本ではクリスマスといえば恋人たちのためにあるようなものだけど、本来は「故郷に帰って家族に会う」ためのものですもんね。

ベント・ハーメル監督は　普通の人を特別にしてしまう。
あぁ、そうだったんだと・・ハッピーエンドでなくても、
それでよかったんだと、涙腺を優しく撫でてくれます。

ぼかしのあるシーンがあって、かなりダイナミックに露骨なのだけど、
じゃれあう犬を見てるみたいで、H感がまるでない‥妙な感じ。
「同時にふたりを愛することができる」に異論はないけど、
あのままじゃ彼女があんまりだ・・の思いは難なく独特なユーモアに包んでなだめてくれた。
さすがベント・ハーメル監督！な教会での横並びショットでした。

人から人へ、命から命へ、そしてHomeへ。

”その日”は奇跡が自然に振舞われる
奇跡の種”は誰にもあって自分の中にもあるんだと思えてきます。
その種のあるところがじーんと熱くなってくる。
この種を芽吹かせるのも種のままにして逝くのも、自分次第。
信仰心でなく誰にもある真心次第。
「メリークリスマス」　って心から誰にでも言いたくなるオーロラのように揺らめきつながる５つの物語（１５R）です。

クリスマスイヴの群像劇です。
ハリウッド映画的なきらびやかさも
華やかさも
リッチさも
一切ありません。
クリスマスの街が華やかに活気づき、
幸せそうな恋人たちや家族の物語を描くアメリカ映画とは対照的な作品です。

それぞれの境遇で迎えたクリスマス。
家族と過ごす人
愛人と過ごす人
寝たきりの妻と過ごす人
星を見上げる人
紛争から逃れてきた人

そして、その夜に新たな命が生まれ、古い命が去っていきます。

聖なるその夜に想いをはせ、最後には私の頬に温かい涙が流れていました。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

エンドロールで流れる歌
―♪家へ帰りたい　クリスマスに　今年こそ　
ふるさとへ帰りたい　　クリスマスに　今年こそ　―
あの歌詞にこの映画の意味が集約されているように思いました。
自分が心を許せる場所、自分を愛してくれる人がいる場所、自分を待っていてくれる人がいる場所。
そんな場所に帰って、愛する家族や恋人、友人と過ごすのが、クリスマスの本来の意味なのかも知れません。
冒頭の不安に包まれたままのシーンとラストのシーンが、どのように結びついているのかよく分からなかったので、もう一度観てみました。
今度は、メモを取りながら観ていくと、新しい発見があったんです。
クリスマス・イヴの一日、それぞれに違った事情を抱えた人々のエピソードが交錯していきます。
一見、無関係なようですが、私たちは知らないところですれ違っていたり、つながっていたりするのかも知れません。

・・・・・・ここから、いきなり種明かししちゃいます。ネタばれが嫌な方は、ご注意です。・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・ネタばれ・・ネタばれ・・ネタばれ・・ネタばれ・・ネタばれ・・ネタばれ・・・
（念のため）

◎冒頭で少年と母親に銃口を向けていたのは、出産を終えたばかりのセルビア人の妻だったのですね。あの時、引き金を引かなかったから、こうして愛する人の子供を抱いていられるのだと、考えていたのではないでしょうか。
除雪の車が通り過ぎた後に林から出てきたカップルが彼らでした。
◎パウルが、妻の愚痴をこぼしに友人の医師クヌートのオフィスを訪ねます。その時、病院に入っていくパウルを見ていたのがトマスでした。
トマスが見ていたショーウィンドーは、すぐ隣でした。
◎帰郷するお金もないヨルダンは、スポーツ店の前で物乞いしていました。
明かりが消された後、ショーウィンドーのサッカーのユニフォームに自分の姿を重ねて映して、ため息をついています。あとで分かりますが、彼は昔、有名なサッカー選手だったのです。
◎友人の助けを借りて、身体が不自由な妻を階下に下ろす老人が出てきます。棚にはサッカーのユニフォームを着た少年の写真があります。
ひょっとして、この老夫婦はヨルダンの両親ではないでしょうか？
◎不倫する男女。男はクリスマスが終わったら妻とは別れると言っていたらしいですが、二人の女性を同時に愛せることが分かったと家に帰って行きます。
残された女は、不倫相手が夫婦揃って出席しているミサに出かけて行き、その妻の隣に座ります。妻にも不倫相手にも全く同じマフラーをプレゼントするなんて、一体どういう神経でしょう。彼らの後ろにクヌート医師が妻と一緒に座っています。
◎ヨルダンが列車で帰郷の際、彼の席の後ろにクリスマスツリーがありますが、トレーラーの彼女にもらったんでしょうか。

夜空で一番輝く星・シリウスを一緒に眺める少年少女のエピソードと、山小屋での出産を手伝い、自分たち夫婦も子供を持ちたいと妻に電話したクヌートのエピソードが好きでした。
その他のエピソードは、クリスマスが終わった後にも尾を引きそうで、なんだか切ないです。
クリスマスって、特別な日ではあるけれど、連続した日々の中の一日でもあるんだなあって思うと、特に老夫婦の悲しみが胸に迫ってきます。