劇場版　火の魚

『大鹿村騒動記』の試写会挨拶での原田芳雄さんの姿が、いまだに脳裏から離れません。
痩せ細り、力のない声で、原田さんの余命がそう長くはないと予感したものですが、まさかその三日後に亡くなられるとは思ってもみませんでした。
本作『火の魚』は2009年の作品。
原田さんが、御自分が末期の大腸がんであることを知ったのは2008年の11月だそうで、余命宣告を受けていたそうです。
生と死を見つめなければならない作品の撮影中、どんな心境だったのでしょうか。

偏屈な老小説家・村田省三（原田芳雄）と編集者・折見とち子（尾野真千子）の二人の会話によって物語が進んでいきます。
ぶっきら棒で口の悪い村田とは対照的に、若い折見の言葉遣いは日本語のお手本のようです。
思うままに編集者の折見に罵倒を浴びせる村田にも折り目正しく冷静に、それでいて自分の意見を臆することなく述べる折見は、凛としていました。

折見の歯に衣着せぬ意見に、まるで当てつけるように金魚娘を殺し連載を最終回にした村田は、さらに単行本の装丁は金魚の魚拓にしたいと言い出します。
しかも折見がその魚拓を作ることになります。
後に、この一連の自分の行為を村田は後悔することになるのですが、命短い折見を病院に見舞った際の二人の会話が凄いとしか言いようがありません。
島へ帰る船上での村田のモノローグ。
「持って生まれた命の長さに　何の文句がつけられよう。」は、「人生は自分が魚拓にされるまでの物語だ。」と言ったことばとともに胸に沁みました。

メイキング映像やインタビューで、原田芳雄さんの凄さや尾野真千子さんのひたむきな演技、脚本の渡辺あやさんが二人に言わせた台詞の深さなどをより感じられます。
金魚の赤い魚拓は、生々しいほどに美しく目に焼きついています。
53分という短い尺ではありますが、万感の思いが募って涙なくしては観られませんでした。
こんな素晴らしい作品をご紹介くださったオテラさんに感謝です。

ロキュの69日連続レビュー　�V　　第４１日

(　ネタばれあり)
放送の７年前、最初にこのドラマの企画を聞いた時、原田芳雄は「　今、室生犀星　? 」、「このディレクターは何を考えているのか、だいじょうぶか ? 」と思ったという。
だが、渡辺あやの脚本を目にして、その出来栄えに驚き、出演を決めた。

脚本の渡辺あやは、最初企画を聞かされた段階で、出演を受けてもらえるかは未定だが、イメージ・キャストとして原田芳雄を挙げられ、そこから主人公のイメージがふくらんで書き上げたという。

尾野真千子は、企画を聞いた時、映画と思っていたら、NHKのドラマだったので驚いたという。

人生の最晩年と感じ、東京から生まれ故郷の小さな島に戻り、一人暮らす老作家・村田省三。
偏屈で頑固な彼の所へ、いつもの担当者に代わって原稿を取りに来た編集者の折見とち子。
気に入らず最初は追い返した村田だったが、通ってくる彼女に興味を抱き、ぶつかり合いながら、互いの人生に向き合うことになっていく・・・。

ディレクターは、本作の前年に緒形拳主演の「　帽子　」、この後、「　セカンド・バージン」や「ひょっこ　」を演出、来年2021年の大河「　青天を衝け　」のチーフ演出を予定している黒崎博。

死期を意識している作家を演じるにあたり、7年前の企画段階と違って撮影に入る際には、原田芳雄は自身が末期がんであることと、役が重なって見えていたはずです。
偏屈で頑固な老人であり、また、好きな女子に意地悪するような悪ガキっぽさもあり、そして花束を贈るのが絵になるダンディさもあって、原田芳雄はやはり華のある名優です。

原田芳雄でなかったら違った作品になった、
原田が声を発してセリフを言ったとき、自分の予想を超えるところがあって、脚本家としてありがたかった、と語る渡辺あや。
原田は大きな存在で、こんなに幸せな現場はなかった、と語る尾野真千子。
また、渡辺あやが「　作品のほうがいろんな要素を呼び込んで勢いがあった。　」と語る本作は、NHKの地方局である広島局の制作ですが、文化庁芸術祭大賞をはじめ多数受賞して高く評価されました。

渡辺あやと尾野真千子は２年後の秋「　カーネーション　」で脚本と主演で再び組み、これも高く評価されます。
同じ年の7月１９日原田芳雄は亡くなり、本日は命日にあたりますが、今も忘れえぬ名優です。

メイキングにある、撮影現場の上空に、太陽の周りに広がった丸い虹が、作品を祝福するかのようで美しく、印象的でした。

ＮHK広島の地方発ドラマ。優れた脚本に主演の二人ががっぷりとぶつかり合い、死と生を深く考えさせる作品となり、芸術祭大賞を始め、国際的な数々の賞を得ることとなったようです。
原田芳雄氏の命を奪ったがん。２００８年末に最初に倒れ、復帰したとのことですが、翌年撮影に入ったこのドラマの脚本を彼はどう感じたのだろうか。

・・・・というのも、この時点で、自身、末期がんと分かっており、余命宣告もなされていたらしいのです。
死を恐れ、生に執着するあまり、生ける死の状態である作家の役柄を演じたその迫力は、やはり凄すぎる。
ラストで船上で「煙草喫いてえ〜」と叫ぶシーン。それから原田芳雄は残りの生を完全燃焼させようと精力的に俳優人生を続けていったのです。
それらの作品群こそ、「人生ってのは、自分が魚拓にされるまでの物語だ」というこの作品のテーマを地でいっているような感じがしてなりませんでした。

原作　室生犀星とあるも「蜜のあわれ」を中心（？）に脚本の渡辺あやさんが室生犀星の世界を一編の美しい詩にしたような小品。
見始めてすぐにテレビで見たことがあったと気づいたがむしろもう一度頭から見れる事がうれしかった。原田芳雄のガタイの良さが余命宣告をうけた人間とはとても思えず、メイキングで涙を見せ本来はのんびりとした口調の尾野真千子が画面で見せた凜とした姿とは別人に思える。
この２人の役者魂がしっかりとした製作陣を得て花開いた珠玉の作品。

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切ない作品です。今はない原田さん。尾野さん演じる折見にがっつり嫌がらせをします

折見のバラを受け取った時の赤子のような目、全面的に詫びる原田さん

「今生、また会おうな・・・」、会えないと思います　原田さん逝ってしまいました

心に残る作品　そう思います