イングリッシュ・ペイシェント

　これは原作より映画の方がずっとよかったですね。ただ，映画はラスト20分ほどが異様にすっ飛ばされているような印象を受けました。おそらく，監督はもっと長尺物にしたかったはず。プロデューサーがカットしたんじゃないかとわたしは疑っています。娯楽作品ですから，どうしても主人公二人の不倫の恋が前面に出てしまい，ロマンスの部分は丁寧に描写されているのに，歴史と個人の関わり，国家と個人，民族とアイデンティティ，といった重いテーマが流されてしまっているところがやや不満です。

　けれど，タイトルバックの凝った映像といい，映画ファンが泣いて喜ぶ映像美が随所に見られ，とてもよい作品でした。

　映画を観てから原作を読みましたが、この原作があの作品になるか！　と驚きを禁じ得ません。主人公たちの年齢設定がまったく異なる。原作の淡々とした描写が映画ではものすごくドラマティックに描かれている。まさに映像の勝利と言えましょう。

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ニュープリント版再入荷ということで観直してみました。

アカデミー賞９部門受賞という有名な作品。筋もご存知の方が多いでしょう、手っ取り早く言ってしまうと不倫物です。しかしただの不倫ではない、第２次大戦前夜の北アフリカを舞台に、登場人物は貴族や考古学者とかスパイなどのロマン溢れる人達。砂嵐の一夜という特殊な状況を共に過ごし、熱く燃え上がる心は北アフリカの大地の熱気を超え、ついには文字通りに燃え尽きてしまうのでした。
大やけどを負い記憶を無くす主人公、彼の回顧録として物語は進みます。レイフ・ファインズ演ずるハンガリーの伯爵で冒険家のやけどの特殊メイクを見るからに、美術にかなりのお金を掛けているようで、美しくも厳しい砂漠の景観と戦争のスペクタルシーンには見応えがありますし、端正な作りとして印象にしっかりと残ります。彼を助けるカナダ人看護婦のジュリエット・ビノシュとインド人中尉の愛と、謎の男ウィレム・デフォーの言動が、男の今と過去に絡みつき、事件の全貌が少しずつ明らかにされていくミステリーのおもむきが物語を引っ張るので、１６０分の長尺も気になりませんでした。男と人妻の不倫話に砂漠の熱気と戦争の暗雲が光と影を与え、裕福な知識層の言動は物語に気品と重厚感を保たせる、ちょっと間違えると昼メロかハーレクインかと思われそうなのですが、物語は低俗と高尚の微妙なバランスを取り続けるのでした。

物語の牽引役は確かに「不倫」なのですが、本筋は国籍にあるそうです。そう思ってみると登場人物は多国籍に富んでおり、悲劇を生む原因となるのも、戦争であり、男の見た目であったりするのでした。
利権や領土を奪い合う戦争は極めて排他的で、人種が同盟国に見えないだけで疑われたり蔑まれたりします。広大な砂漠、それさえ一部でしかない地球のちっぽけな土地を奪い合う戦いは、人の心を猜疑心で満たしてしまうのでしょう。冒頭の飛行機から見下ろす砂漠の砂のうねりは美しくも官能的であり生命の神秘を感じ、争いから逃れることのできる空の寛容な広大さを意識させられるのでした。
戦いに追われ争いに敗れ燃え尽きる男は、見た目のなにもかも失うことで初めて同胞として認めてもらえる。焼けただれ判別もつかぬ男は、ようやく“イギリス人の患者”として受け止めてもらえるのでした。

カナダ人の看護婦とインド人中尉の恋が補完的な役割に過ぎないように見えたり、情念をあっさりと断ち切る展開が残念で、観終わった直後はこの長尺にしては物足りなかったりもしたのですが、反芻することで後から良さが滲みだすかの作品でした。
こういった骨太な映画も作りにくくなってきた昨今、今一度観直して良かったと思いました。★４−

公開当時からかなり好きな映画だったんだけど、僕の周りを含めた一般評はけっこう厳しかった記憶がある。でも、ここのコメントなんかを見てみても、最近の方が好意的な意見が多いような…。再評価されてきてる？それとも倫理感の変化とか？

男の持つ、子供っぽいどうしようもなさが描かれている作品。その描写が確かだからこそ、キャサリンの「おばかさん」という囁きに、救いと絶望を見る。
終盤、やや駆け足になるところがないでもないが、スケール感と同時に登場人物たちの繊細な心情を紡ぎ出すアンソニー・ミンゲラの手腕は見事。これからさらに脂がのってくるだろう年齢で、急逝してしまったのがとても残念だ。

正直言って眠かった。それでも見た。

ですが、イマイチ入り込めませんでした。
イントロにある「熱狂的な恋の物語」っていうほど
ドラマチック感もなく。
それほど感動、涙もなく・・・・。
どの登場人物にもあまり共感できる部分がなかったような・・・。

退屈で、途中で何度も「まだかな」と残り時間を確認してしまいました。

戦争が背景の恋愛ドラマなら他にも見ごたえのあるのはあった気がする。
個人的には「コールドマウンテン」とか「サハラに舞う羽根」とかの方が好きです。

1996年公開。約2時間40分の長編作品です。

物語は1944年10月のイタリアを基準としてスタートします。

主人公が過去の記憶を取り戻していくという構成であり、映画も時間、場所をいったり来たりしながら進んでいきます。

登場人物の国籍も様々であり、各キャラクターのバックボーンや文化的背景がストーリー上で重要な役割を果たします。

私はこの映画を20回くらい観ていると思います。恐らく私の中で「1番の映画」ということになるのでしょう。（10回以上観たことがあると言えるのは、「ショーシャンクの空に」と「イングリッシュ・ペイシェント」くらいです。）

私の「イングリッシュ・ペイシェント」に対する評価とは対照的に、世間一般の評価は決して高いものではないようです。

「長い」「娯楽要素がない」「不倫はダメ」「物語が複雑、またはちぐはぐ」

確かに、そのように感じる人がいるのも分かります。
ただ、物語の構成や脚本については、他の映画とは比類にならないほどの秀逸さ、繊細さを私は感じてしまいます。
「とても出来のいい映画」だと思います。

この映画は少々の歴史や文化、言語、文芸、地理などの知識があると、より楽しめるのではないかと思います。
小学生、中学生諸君には少し「キビシイ」です。

スーパースターと言えるような出演者はいないかも知れません。
（ジュリエット・ビノシュさんやコリン・ファースさんは一般的にも有名ですが。）

映画中の登場人物たちに対しても、「かっこ良さ」よりも「人間臭さ」を感じます。決してオシャレな映画ではないです。

激しいアクションシーンやスカッとするシーンはありません。

ゆえに「映画は娯楽以外の何ものでもない」と考える人にはおススメしません。

この映画のジャンルを考える時、どこに配置すべきかを悩みます。
一般的なビデオ屋さんでは「恋愛モノ」に分類されています。

しかし、この映画はどこに焦点をあててもそれに応えてくれます。
映像美、音楽、恋愛、戦争の悲哀、憎しみ、異文化の交錯、などなど。
観る者によって、その印象は様々であると思います。
逆に言うと、見る人によっては、全体図がぼやけてしまうかも知れません。

以上、なんだかんだと書いてきましたが、このレビューが「おススメ映画」のレビューと言えるのか・・・。（笑）

素晴らしい「映画」だと思います。
できるなら2度観て欲しいです。