燃えつきた納屋

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　てっきり出てくる農家の納屋が燃えるのかと思ったら、そういう火事なんて全然なくて、どうやら「燃えつきた納屋」ってのは、屋号みたいなものみたいです。
　スイス国境に近く、雪深い山奥の酪農の村で、通りすがりの金髪美人が殺される。近くにある農家「燃えつきた納屋」の家族に疑いの眼が向けられ、地方判事アラン・ドロンが捜査にやってくる。農家の女主人シモーヌ・シニョレは事件をきっかけに露わになる家族の暗い面に胸を痛めながら、家族を守るため判事に対峙する。
　冬の山奥の村が舞台なのですが、とても寒そうでいいです。冒頭、明け方やってくる除雪車を捉えた長いカットもいいですし、皆の息が白く、鼻や頬が赤くなっているのが印象的です。場違いなミニスカートとヒールの高いブーツで帰ってくる嫁（ミュウミュウ）が凍った道路で滑りそうになるところ。農家も外観や馬小屋、牛小屋などはロケだと思いますが、とても効果的です。
　一応、殺人事件の捜査を中心にした心理ミステリーと言えるのでしょうが、最後まで見ると分かるように、犯人探しは肩透かしで終わってしまいます。サスペンス的な要素もほとんどありません。そういう点では、まったく面白くない映画です。
　つまり、事件の真相は本筋ではありません。事件が家族に内在していた不穏なものを揺り動かし、判事の来訪がその蓋を開けてしまう、という人間ドラマです。とくに、シニョレとドロンのふたりのどちらかと言えば淡い演技に注目しなければ、面白みのない作品に映るような気がします。
　心を砕いて守ってきた息子を、ラストでシニョレは厳しく突き放します。その瞬間こそが、本作の白眉ではないかと、シニョレの表情に見入りました。50点。

フランスの寒村に通称‘燃えつきた納屋」と呼ばれる農場がある。　そこの家主は頭の切れるローズ（シモーヌ・シニョレ）という５０歳前のしっかり者の女性。　夫のピエール（ポール・クローシェ）、長男ルイ（ピエール・ルソー）、その妻ルシル（ベアトリス・コンスタンティーニ）、次男ポール（ベルナール・ル・コック）、その妻モニーク（ミュウ・ミュウ）、長女フランソワーズ（カトリーヌ・アレグレ）、そして２人の孫と、大家族である。　事件など起こりそうもないこの地で若い女性の殺人事件がおこり、現場にもっとも近いこの農場に住む家族たちに嫌疑が向けられる。　地元の警官（クリスチャン・バルビエ）は‘昔から皆を知っている、事件を起こすような者はいない’と断言するが、当局から派遣された治安判事ラルシェ（アラン・ドロン）はローズ家に着目し、事件の真相究明に挑む．．．．。　冒頭、寒村の雪景色を上空から撮影した景色が素晴らしく、閉ざされた寒村の雰囲気もでており、これから展開されるであろうストーリーへの期待感を膨らませる。
気鋭のラルシェは、次男ポールの事件当時の行動を探るが、ローズの賢固な壁を崩せない。　一進一退の中、終盤、長男のルイのとった行動により、よもや．．．の期待を抱かせるが、結果的にはまたしてもローズの厚い壁に阻まれた感じがする。　ローズ家の秘密が明かされる代償にしては、何とも結末が物足りなかった。　事件の犯人捜しに名をかりた（？）、ローズとラルシェの心理戦であった。　だが、その心理戦は２人の名優の見事な演技によって形成され、作品を成功へと導いている。　ホテルの主人を演じたレナート・サルヴァトーリ、前述のクリスチャン・バルビエの演技も味わい深い。
Ｓ・シニョレについて少々触れると、彼女はドイツのヴィースバーデン生まれ、本作出演時は５２歳である。幼少時にパリへ移住し、大学卒業後、英語教師の免状を取得、英語教師やタイピスト等の仕事を経験し、１９４５年に本格的に映画デビューしている。必ずしも美貌のスター女優というイメージではないが、陰影のある表情が印象的で、何事もすべてを受け止めるガッチリしたイメージ、そして情感を巧みに表現できる演技など、女の哀しい宿命を演じたら彼女の右に出る者はいないだろう。同じくＡ・ドロンと共演した７１年「帰らざる夜明け」でも、その真骨頂は十分見てとれた。　１９８５年９月３０日、ガンによって６４歳の生涯を閉じている。
ジャン＝ミシェル・ジャールによるシンセサイザーを多用した音楽も実に効果的だった。

アラン・ドロン、シモーヌ・シニョレの共演となれば、
「帰らざる夜明け」（1972年、ピエール・グラニエ・ド・フェール監督）
「燃えつきた納屋」（1973年、ジャン・シャボー監督）
の２作のみでしょうか

前後２年〜５年は、ドロン（1935〜）と、シニョレ（1921〜1985）との間に、親密な関係があった……たぶん、そうだろうと思います。

ドロンより14歳上の女優で、当時50代前半でしたが、美しいし、包容力がありました。
「嘆きのテレーズ」の白黒映像の華やかさ。踊る場面。
顔は大きいが、香り立つような存在感。
その顔は、「影の軍隊」で、最後に登場する場面で、悲劇を決定的にする。

「帰らざる夜明け」で、彼は、シニョレの農園に紛れこむ流れ者を演じていました。
「燃えつきた納屋」で、彼は、シニョレの農園で起きた殺人を捜査する刑事を演じました。

この２作、こんがらがってしまいますが、味わいは、違います。

シモーヌ・シニョレの目の悩殺（「目千両」）は、共通しています。
彼女の役に比べれば、ドロンの役は、所詮、どちらの作も「チンピラ」です。
そうドロンは運んだのかもしれません。

私は、「帰らざる夜明け」のほうが好きですが、「燃えつきた納屋」は秀作だと思います。
ドロン、シニョレのファンは、両方、見て、悩む。
と思います。

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７０年代前半駄作を連発していたが人気はダントツだったアランドロン。本作はそんな中で「ビッグガン」「フリックストーリー」と並んで観たい気にさせた作品だった。一見推理サスペンスドラマの雰囲気を醸し出していたが、実際は殺人の疑いをかけられた一家族の内部崩壊を描いた人間ドラマだった。フランスの雪に閉ざされた田舎で起きる殺人事件にパリから乗り込んで来るドロン判事、疑いをかけられる息子を何とか守りたい母親を大御所"悪魔のような女"シモーヌシニョレが演じた事で本作は重厚感が出てドロンとガップリ相対しても見劣りしない。もっと推理ドラマとして展開してほしかったのだが全くそういう部分はなく、犯人は息子ではなかったのだが、家族の秘密がそれによって暴露されてしまうシニョレの母親としての哀しみとそれに耐える強い女を好演している。二大スターの存在感でもっている映画である。