小津の秋

　小津監督を敬愛する野村監督の作品でタイトルに「小津の秋」というくらいですから、小津ライクな映画なのかというとそうではありません。あくまでも野村恵一監督作品です。ただし映画は小津監督が仕事場として使った蓼科の別荘「無藝荘」が舞台の中心となっています。その蓼科でのある秋の物語なのです。
　このタイトルを見て小津監督作品のような映画を期待すると肩透かしを喰らってしまい、映画の評価を下げてしまうのではという老婆心が芽生えます。あの独特のシニカルさ時にオブラートに包んだトゲトゲしい作品を作るのには野村監督は優しすぎるように思います。ご本人もそんな事は百も承知だとは思いますが。
　野村監督は京都人らしいまったりとした物腰の柔らかい人物で、現場で怒鳴ったり、怒ったりというタイプではありません。しかしまわりに流される事も無く淡々と仕事を全うする職人肌の監督さんです。こうした監督の性格は作品にも表れているように思います。
　野村監督の作品は強い想いを秘めながらも淡々と描かれるものがほとんどです。本作も前半は淡々と物語が進んで行きます。後半に入ると野村監督にしてはドラスティックな展開で、「無藝荘」での沢口靖子と藤村志保が囲炉裏の前で対峙するシークエンスは作品中で一番見どころのあるシーンではないでしょうか。

　時代に迎合しない野村監督の映画作りは毎回製作資金を集めるのが大変なようです。今回も制作は野村企画。つまり自主制作作品です。毎回感心するのは自主制作とは思えない仕上がり。昨今の賞取りコンペに出される自主制作作品とは一線を画するものがあります。


　尊敬する人物の作品を前に私ごときが意見を述べると言うのも畏れ多いのですが、敢えて注文をつけるのであれば、監督のやさしさがアダになっているという気がします。もっと観客を突き放してしまっても良いのでは無いでしょうか。ちょっと親切に説明をしすぎているようです。完全に推測ですが、キャメラマンに気を使いすぎているのか若干構図で迷いがあるような部分も見受けられますし、本当はドリーしながら撮った方が効果的かなという場面もあります。

　野村監督は「これが（作品をつくるのは）最後かもしれない」とおっしゃっていましたが、これからも作品作りを続けていただきたいと思います。「こうした映画監督も日本にはいるのだ」ということで是非多くの方々に見ていただきたい作品です。

丁寧に描かれた作品だなぁ…と感じました。
登場人物とても優しくて、なんだか切ない作品でした。
秋の蓼科と物語がマッチしてとても魅力的です。
日本ならではの季節を生かした、日本映画。
静かに時間が流れていくのを感じました。

二人日和と比べて「どちらがおもしろい？」と聞かれたならそれは二人日和と答えるだろう。
藤村志保の着物姿の美しさ、蓼科の自然の美しさ、季節のうつろいなどは素晴らしい。ただ自然の流れと人間生活がマッチして
悠久の流れを感じさせるところまではいっていない。
野村監督が京都を背景に人々の生活を描く時、ほんのささいな
出来事さえも京都という町、そこに住む人間、長い歴史と文化
を感じさせた。
この映画の場合は意図されたドラマ性で生活に根づいてないと
感じる。
画面はきれいで奥行きを感じさせるし俳優もそれぞれうまい。
けっして見て損と思う作品ではない。
しかし僕は迷わずに今後も京都を通して普遍的なものを撮り続けて欲しいと思う。

タイトル「小津の秋」にふさわしいドラマです。お勧めいたします。

最後の一葉が英文学の想い出の文庫本として藤村志保の昔の愛人との想い出の
品としてこの映画に出てくる事に驚きました。中学校か高校の英語のテキストで英文解釈のLast Leafでの逸話が紹介されて複雑な気持ちになりました。