スワンプ・ウォーター

　ラヴァースさんの復帰は何よりですが、僕も最近眼が痛いので、短めに。
　ルノワールのアメリカ時代のウェスタン、ということですがウェスタンらしさはあまりありません。馬はほとんど出てきませんし、タイトル通りに湿地で繰り広げられる面白い人間ドラマです。
　スタッフ、キャストともに豪華。製作ザナック、脚本ダドリー・ニコルズ、撮影ルシアン・バラード、ジョン・ヒューストン父のウォルターや、北島マヤもかくやのアン・バクスター、情けないジョン・キャラダイン、お馴染みワード・ボンドなど脇も達者ぞろい。お話の落ち着きどころと主人公ダナ・アンドリュースがいかにもアメリカ映画で、ルノワール作としてはちと不満といっては贅沢かもしれません。
　湿地の水面のなまめかさ、反射する光、顔に落ちる葉の影などに惹かれつつ、すべてをダメにして物語を引っ張る性悪女の描き方が実に素敵だと思いました。７５点。
　

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スワンプ・ウォーターという魅力的なタイトル、その舞台にひかれてレンタル。

若者の野心と正義感、恋、ついつい男をからかってしまう悪女の卵、縛り首寸前でスワンプの奥深くへ逃げ込んだ男とその娘、父との争い、和解、父と若い妻そして彼女に言い寄る男等々面白そうな十分に材料は揃っています。
しかし、その描写が淡泊で一通りの品揃えをしただけという印象は拭えません。
また、この主人公の若者を見ていると、その愚かさ、軽薄さにいらつきを覚えてしまいます。歳のせいか、若さに対する寛容さを失いつつあるようです。

ジャン・ルノワールってアメリカで映画を撮っていたんですね。

アン・バクスター

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　本作『スワンプ・ウォーター』（４１）はアメリカ版『ゲームの規則』ってところでしょうか。ルノワールの最高傑作とも評される『ゲームの規則』（３９）は一度見たっきりですが、一度見ただけでは見たことにならないような、複雑に重層（階級）的に関係しあった人物たちの右往左往が圧倒的に過剰で、精妙に累乗化された恋愛＝狩猟遊戯といった塩梅です。ルノワールにおいて恋愛はたいがい複数形です。恋愛を一対一じゃなく、三角関係において描くというのではありません。ときにそれはさらに一点過剰な四角関係をなしたりするんですが、そんな恋愛の関係性じたいが複数ある、ふたつ以上あるという意味でそうなんです。『ゲームの規則』はルノワール（映画術）の規則とでもいえそうな、そんな諸形態をもっているのです。
　さて本作は『ゲームの規則』が貴族の大邸宅、その荘園を舞台にしたのにたいして、アメリカ南部ジョージア州のとある小さな町、未踏の湿地帯をそれとしています。『ゲームの規則』では狩猟は（仮面）舞踏どうよう貴族の、さらに使用人らの遊戯でしたが、この町は毛皮の交易の場、湿原地帯はその野生動物の宝庫となっている。主人公というべき若き狩人ダナ・アンドリュースと、逃亡の殺人者ウォルター・ブレナンを父にもつ孤児アン・バクスターの若い恋人たちに、性悪に絡むバージニア・ギルモアとその男の四角な恋愛関係がまずひとつ。アンドリュースの父ウォルター・ヒューストンと義理の母メアリー・ハワードの夫婦関係にわりこもうとするのが伊達男ジョン・キャラダインという三角でふたつ。というふうに冗長ながらも説明できるように、この諸恋愛は『ゲームの規則』のように動態的に発展なんかはしません。あるいみ、いちおう主人公としてトップクレジットされている、湿原の最深に五年間身を隠したサバイバル術の達人ブレナンが、『ゲームの規則』の密猟者のように活躍しないことにその一端がありそうですが、まあやめときます。わたしは『ゲームの規則』の「規則」を一見だけで心得てなどいないのです。
　本作でも舞踏、フォークダンスがひらかれます。ぐるぐる回ってまるでフォードのようですから、アイリッシュなものなのかもしれませんが、四角関係がぶつかりあって、ダナ・アンドリュースとアン・バクスターが本願の相対をみいだします。ちなみにこの映画でのバクスターって容姿が『稲妻』の高峰秀子みたいです。これでやぶれたバージニア・ギルモアがふたりへ復讐することになります。
　もうひとつの三角なほうですが、この不倫沙汰が消火というか昇華できてなくて残念です。本作でとりわけ美しい場面は、湿原の水面をすべるようにみごとにボートがすすむシーンでも、その旺盛なロケーション撮影でもなく、ろくにダンスもできないバクスターにメアリー・ハワードが両手をあたえてステップをおしえるワンショットでもなくて、父親でもとおりそうな男のもとへ嫁いで献身と貞操をまもるメアリー・ハワードが庭の軒先、スイカズラがたれさがって影がまだらとなったブランコで、伊達男キャラダインのあまい囁きを拒絶しつつ感受する、その彼女の影なす美貌の挙措だったりするからです。物語としてはキャラダインの回心による証言でブレナンの無実があかされるわけですが、それを説得する役は、やはりダナ・アンドリュースではなくて、メアリー・ハワードの媚態でなければならなかったはずです。あるいみ、ダナ・アンドリュースを奪いあうふたりの女いじょうに、メアリー・ハワードこそがルノワール的な多情で曖昧なお天気しだいな女を生きているといえるわけですから。もっとも風にスカートをまくられたり、水で素足を濡らせたり、そんな放恣なアクションではなく、その抑制感で魅了させるのです。家と外の曖昧な領域で、待つ姿勢で細かな影に雨降られるようになって、ブランコにゆられながら、彼女は夫を待ち、恋人ともとれそうな年齢の息子を待ち、そして情夫未満の男を待っているのです。

　わたしがいちばん好きなルノワール作品は（もっとも全部みてるわけではありませんが）、おなじくアメリカ時代の『南部の人』（４５）です。ここディスカスにも当然あるとおもっていたんですがありません。ということでコメントでふれさせていただきましょう。
　

監督の名前に騙されて期待したのですが、ただのアメリカ映画です。ルノワールらしさはどこにもない。
脚本も平凡、セリフも西部劇並みに幼稚でクサイし。

ここで判るのは、ビッグネームの監督でも凡作は不人気で借りやすい、という当たり前の事実でした。

黄金の馬車なんかをここで借りられるといいのですが、某書店が馬鹿高い値段でDVDを売ってるから無理か?