夜も昼も

　作詞・作曲家コール・ポーターの「　伝記　」映画。
　ケーリー・グラントが主演。　彼の初のカラー映画。　歌も歌います。( 共演のジェーン・ワイマンも　)　　監督はマイケル・カーティス。

コール・ポーターの曲は、表題になってる「　夜も昼も」　(曲の邦題よりも歌詞の出だしの「 Night and Day 」♪のほうがピンとくる　)の他、「　ビギン・ザ・ビギン　」「　エニシング・ゴーズ　」「　ソー・イン・ラヴ　( 　日曜洋画劇場のエンディングテーマに使われた )」などが知られます。

　( 以下、ネタバレあり　)

ワーナー・ブラザースは自社制作の初のトーキー映画『　ジャズ・シンガー　』２０周年を記念して、前年制作のジョージ・ガーシュインの伝記映画『　アメリカ交響楽　』に続いて本作を企画。　
ジョージ・ガーシュインはすでに故人でしたが、コール・ポーターは現役バリバリ、たとえば代表作の一つ「　キス・ミ―・ケイト　」は本作の後での発表。

ジャック・ワーナーは曲の権利に３０万ドル、ケーリー・グラントを１０万ドルのギャラで借り出して出演させた、日本流に言えば社運を賭けた本気モード。
風貌がフレッド・アステアに近いコール・ポーターをケーリー・グラントが演じることになったのは、ポーターご本人のリクエスト。　周囲からかなりツッコまれたようで、ジョークのつもりだったのにワーナーが真に受けた、と釈明。

一方、ケーリー・グラントは脚本が気に入らず彼の要請で多くが書き直され、監督のマイケル・カーティスともたびたび衝突したそうです。
また撮影所でストライキが起き、制作は難航しましたが、興行的には成功しました。

今日ではあまり評価されず、忘れられた感のある作品なのは、本作が当時は存命だった夫人との関係も含めコール・ポーターの私生活について、( ウィキペディア英語版の表現を借りれば )「　ほとんど架空の内容の人生　」を描いているからでしょうか。
その点は『　五線譜のラブレター　』と見比べることで、相互補完できました。


ただ、「　伝記映画というより美しい嘘　」であったとしてもそれはそれとして、作品としては見どころがいっぱいあって、
ケーリー・グラントと夫人役のアレクシス・スミスのカップルは衣裳もただずずまいもゴージャスで眼福。
　美しいアレクシス・スミスは僕も他の映画でのなじみがなく、ウィキペディア日本語版にも項目はありません。　本作の後はテレビや舞台でキャリアを重ねたようで、１９７２年５０歳「　フォーリー　」でトニー賞ミュージカル・主演女優賞受賞。

　音楽映画としては、まずコール・ポーターの名曲の数々に酔いしれます。
　作品の音楽担当は『　ヤンキー・ドゥドゥル・ダンディ　』などで３度アカデミー賞に輝くレイ・ハインドルフと巨匠マックス・スタイナー。
　マイケル・カーティスは『　ヤンキー・ドゥドゥル・ダンディ　』『　ホワイト・クリスマス　』と同様、音楽シーンもちゃんと華やかに撮れる人。

　今回の観賞で最大の収穫は、何といってもご本人役で出演のメアリー・マーティンのパフォーマンスを観られたこと。
　ブロードウェイ・ミュージカルの大スターである彼女は、本作の後「　南太平洋　」「　ピーターパン　」「　サウンド・オブ・ミュージック　」に主演し大成功させます。
　ちなみに、息子は『　鷲は舞い降りた　』テレビ「　かわいい魔女ジニー　」「　ダラス　」などのラリー・ハグマンです。