地獄への道

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　この間ウォルター・ヒル『ロング・ライダーズ』について書きましたが、同じジェシー・ジェイムズものの本作を見直して、あれま随分この映画からいただいていたのねと再認識しました。
　南北戦争後、農民からアウトローになったフランク＆ジェシー・ジェイムズ兄弟の物語は、ほかにもニコラス・レイやフィリップ・カウフマンが映画化していますが、本作はいかにもザナック製作のハリウッドの大作西部劇らしく、スターを配し活劇とメロドラマがうまくかみ合った娯楽作です。
　ジェイムズ兄弟が無法の道に落ちるのは、狡猾な鉄道会社によりせっかく開墾した農地を搾取されることへの怒りからでした。だから本作のジェイムズ兄弟は、敵である汽車を襲い、虐げられた農民の代弁者として、喝采も受けます。
　映画は兄弟の人生を時系列で追っていきます。若きタイロン・パワーと、出番は少なめですが存在感のあるヘンリー・フォンダのアクションにはきれがあり、ミネソタでの銀行襲撃の失敗、追われて馬もろとも崖から落下する大スタントなど、盛り沢山です。随所に折りこまれるユーモアも含めて、やや性急なところもありましたが、楽しい作品でした。フリッツ・ラングが撮った続編は見逃しているのです・・・。５０点。
　
　余談ながら真実の物語を謳ったニコラス・レイ『無法の王者　ジェシイ・ジェイムズ』では、南北戦争のもたらした近隣住民相互の不信感とテロの応酬が、兄弟をアウトローにしたと描きます。大企業の搾取ではなく、内戦の負の面が無法者を生んだとする物語は、アメリカの建国神話の裏面を暴くものですから、戦前は描きにくかったということなのかもしれません。

(　ネタばれあり )
　
本作の続編『　地獄への逆襲　』のレビューでも書きましたように、本作の描く反逆のアウトロー、ジェシー・ジェームスの伝説譚は過激で痛快で、かつ悲劇的です。
それだけに史実と伝説の違いが、作品を離れて物議を醸すのですね。

ジェシー・ジェームズの出身地ミズーリ州は奴隷州でしたが、南北戦争に際し州議会は連邦からの脱退は否決します。　　南部派の知事は兵を招集しますが、州の正規軍となれず、義勇兵となり、北部側からすれば、反乱軍に過ぎなくなりました。
北軍によって武装解除されますが、その北軍の兵隊が英語がほとんど話せないドイツからの新たな移民から構成されたこともあってか、武装した南部派の住民と衝突し、軍は住民たちと捕虜たちを虐殺しました。　　以降両派入り乱れて、激烈な内戦となります。

ジェシー・ジェームスの父親は牧師でしたが、奴隷を使って農園を経営しており、兄フランクは南軍に参加。　戦争の終盤ジェシーは16歳で兄フランクとともにゲリラに参加、殺人や略奪を覚えました。　　　投降しようとして丸腰なのに撃たれて瀕死の重傷を負いましたし、戦後も土地も財産も奪われ厄介者扱いされて、兄とともに強盗団となり、世界初の銀行強盗や列車強盗となっていきました。
　その際、州境を越えてしまえば、州の警察は追いかけてこないし、連邦保安官はいるものの、のちのFBIのような組織的な連邦警察はまだ確立されてませんでしたから、いわば野放しだったようです。

それに対して本作ではブライアン・ドンレビー演じる男が、土地を地上げし、母を殺す悪役ですが、そのモデルは鉄道会社側が警護に雇ったピンカートン探偵社。
探偵というより実質的な私的軍隊であり、その暴力的な実態は、『　天国の門　』の世界ですね。

　本作で、鉄道会社が雇った男に爆殺されて、兄弟が復讐のためにギャングになる大きな動機となる母親を演じたジェーン・ダーウェルは、この後『　怒りの葡萄　』でアカデミー助演女優賞を獲ります。　反逆者の母のキャラができました。
史実では母親は亡くなりはしなかったものの、爆殺されかけて右腕切断の重症を負いますし、9歳の弟は殺されました。　強盗を擁護するわけではないですが、近年のイラク戦争とかと重なる部分が見られます。

さらに本作では、新聞社社主(ヘンリー・ハル)が社説で「　西部で法と秩序を確立するには、まず第一に、○○を1人残らず打ち殺すべし　」と、弁護士、鉄道経営者、歯医者、知事と対象を変えてムチャクチャな暴言を繰り返します。

もちろんギャグですし、本作の反逆のテーマは痛快なんですが、ジェシー・ジェームスの反逆者、アウトローの伝説はちょっとシャレにならなくなってきたように思います。

ジェシー・ジェームスらは列車強盗の際、KKKの扮装をしていたと言われます。
1915年の『　国民の創生　』、1925年出版の『　ジェシー・ジェームスの盛衰　』そして1936年「　風と共に去りぬ　」の出版・ベストセラー、1939年その映画化と大ヒットでの南部復権ブームの流れの中に、彼らの伝説は見て取れます。

一方で、大資本・中央政府への反逆者の映画をつくるハリウッド映画人は反共・保守派にとっては警戒の対象だったでしょう。
その伝説を題材にした映画は諸刃の剣だったのではないでしょうか。

過激で痛快な本作に対し、続編『　地獄への逆襲　』はそのレビューにも書きましたように、おとなしいトーンになったのは、そうした危うさがあったように僕は思うのです。

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善人が悪へと転がり落ちる軌跡と、その末路は、大変苦く悲しい。異色の西部劇と言える。

再生不能で評価できない。こんなバカな！！