蛇の卵＜特別編＞

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近代ドイツの歴史を少しは知っていると楽しめる作品なのではと思います。『ミュンヘン一揆』がキーワードになるのでしょうか、この時代の、第１次大戦敗北の債務に喘ぐ衰退した国家における、庶民の救済を叫ぶ姿と富裕層の狂騒的なバカ騒ぎとを交互に写し、それはどちらも恐怖に支配された人の姿であって、それらを等しく描いて恐怖の根源をあぶり出そうとした作品なのでしょう。この時代では未だ芽生えたばかりの悪意、後に世界を業火で焼き尽くすその悪意が生まれ育ち始めた姿を、蛇の卵として表現したのだと思います。

物語の始まりは、あるサーカス団員の死。その男の元妻と弟が、事件として扱われる男の死に様に振り回される姿を、狂騒的とも幻想的とも捉えられる描写で表します。一応は兄の死の原因を追う弟という筋書きなのですが、同じくサーカス団員で失業中の弟は日々酒を煽る無為の日を過ごしていて、その彼のやけっぱちな生き方にすさんだこの時代の風景を絡めた展開となっています。弟の生活を気にかけて親身に世話をやく兄の元妻は、弟を守ろうとする母なる存在から恋人へと移ろうのですが、毒気に侵された社会の中でも保ち続ける正気が、苦難に喘ぐ民衆の良心として描かれているように感じました。
物語にはミステリー色も少しは感じるのですが、それは物語の牽引役でしかなく、終末感漂う社会を幻想奇譚として表現することに重きを置いているようです。

大不況に職を失い生活に困窮する市民。この世の憂さを晴らす金満家の異常なまでの狂騒。台頭するナチズムの暴力。終盤はっきりする異常な人の実験が、これら全てを包容しているようです。俯き歩く群衆シーンに狂騒的なジャズ音楽を挿入する導入部が、全てを語っているように思えてくるのでした。
監督の奔放なイマジネーションの映像化は、物語の進行を妨げやや散漫な印象も持ちますが、語りたいことは伝わる、狂気を帯びた熱気を感じる作品でした。★４−

まずは英語の作品っていうことにびっくり。
リヴはノルウェーの人だから　想像以上の言語力の持ち主のようです。
今までの作品と違って　豪華なのにもびっくり。
この作品でも　ある出来事をきっかけに　崩壊していく男を
描いています。

でも　「恥」のあの感覚は　どこへ行ってしまったのでしょう。

正直　「狼の時刻」でも　オバケ屋敷のような印象が強かったし、
この作品もまた　キワモノ映画ギリギリ。

ユダヤの一言でで凝縮されるストレスなのか、
兄姉の裏側なのか
彼らの死、愛なのか
それとも　奇妙な事件と　その裏の思想なのか
なぜに蛇の卵のタイトルにしたのか
何を一番語りたかったのか　疑問だらけ。

力強い巨大な筆で書きなぐった　
書のようなストレートな　強引なまでの吸引力。
あれが　観たくてたまりません。

　これも、“日本のいま”と奇妙に符合する感触を覚えた、あくまで個人的にですが、不気味な映画でした。
１９７７年の作品。特典映像によりますと、脱税容疑?!で逮捕されて激怒し（逆ギレのような気も）祖国スウェーデンを去ってドイツ、ミュンヘンに居を移したときに製作されたそうです。
ディノ・デ・ラウンティス、ホルスト・ヴェンラントというプロデューサーに出会い、潤沢な資金を得て大がかりなセットを作り、アメリカの俳優デヴィッド・キャラダインを迎えて英語で撮られました。
　ベルイマンの映画は、一点集中、人間の愛憎を異様なまでの執拗さで凝視し、まるでレンズで光を集めて燃え上がらせるように、人のこころが壊れるさま（人格崩壊）を描くことが多いのですが、本作はちょっと異色です。
ドイツの１９２３年、ワイマール共和国のベルリンを舞台にした歴史モノ、個人の人格崩壊とともに破局に向かう時代全体の不安、焦燥、絶望を描いたベルイマンにしては、大がかりな映画です。散漫だという意見もあるようですが、ハリウッドのサスペンスホラーのような趣、ラウンティスがハンニバルシリーズのプロデューサーだというわけでもないでしょうが、があって面白かった。いつもの舞台俳優とは異なるキャラダインの映画的なアクションも、リヴ・ウルマンの厚化粧のキャバレーの踊り子役も新鮮で、見応えがありました。

　第一次世界大戦に敗北し社会は混乱、タバコ一箱が４０億マルクにもなってしまったハイパーインフレ下のドイツ、ベルリン。
　貧困と失業、これから先どうなるのか、希望はまったく見えない。政府は決定的に無力だ。大衆の不安と裏返しの期待は、強い指導者を求め、急進的な政治勢力が台頭する。退廃的な享楽に耽る人々がいる一方、街角ではユダヤ人を標的にした暴力が公然と見られるようになり、右翼の青年たちは「天誅」を気取る。
そんなベルリンで“サーカスの綱渡り芸人”、ユダヤ系アメリカ人、キャラダインは唐突な兄の自殺に出合い激しく動揺、酒浸りの日々を過ごしていた。兄の元妻でキャバレーの踊り子ウルマンはそんな義弟を心配して一緒に暮らし始めるのだが・・
　１９２３年１１月という設定が絶妙。ヒットラーのミュンヘン蜂起の時である。知られるように蜂起は失敗、ヒットラーは捕らえられしばらく獄中にある。
しかしその時「蛇の卵」は産み付けられ、確実に孵化に向かっていったのだと、映画は語る
「少し考えれば誰にでも未来はわかるはずだがね。蛇の卵だ。薄い膜を通して、はっきり見える。完成された蛇の姿が」
実際１０年後の１９３３年、ナチスは選挙で勝ちヒットラーの政権が誕生する。
後出しジャンケンのようですが、避けられない将来の破局を、じっと待っているしかないという社会全体の焦燥感、絶望感、閉塞感を、サーカス芸人キャラダインの人格の崩壊と同時進行で描くベルイマンの構想はなかなか見事だと思いました。
「雨に濡れた敷石から恐怖が立ち上っている。誰もが知らぬ間に毒気を吸い込んでいる。症状は脈の乱れとわずかな吐き気だけ」
暗い時代の到来の予感と、それが避けられないとの絶望感を生理的に表現したナレーションにも、なぜか胸がざわつきました。大震災に原発事故、不安は高まる一方なのに頼りにならない政府。大丈夫か。まさか「蛇の卵」がどこかでひっそり孵化を待って眠っているのではなかろうかなどと。

　ライザ・ミネリの「キャバレー」よりもっと濃厚に退廃的な気分を表現したキャバレーやバーの場面、警察や病院の建物の悪夢の中の迷路のような佇まい、ベルリンの路上の暗さ、不潔さ、血糊、内臓、道具立ては素晴らしく、主人公と一緒に追い詰められ息苦しくなります。
ただし秘密の心理実験のエピソートは多少唐突な感がありました。

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特典映像でリブ・ウルマンが語っていたように、初めてふんだんな資金によっての映画製作で、巨匠ベルイマンも混乱していたのではなかろうか？
ヒトラー台頭前のドイツをセットで作り出したという美術に圧倒されるが、そこで起きる事件は視点が揺れ動いており、理解しにくい。

カラー！英語！だったのでまだマシでしたが、やっぱりワケわからないまま眠ること２回。カラーはきれいでしたね。リブ・ウルマンはうますぎて、何作か観てるとあきるな。