ニクソン

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　実にさまざまな情報を短い台詞のなかに詰め込んである台本に感服。ただし、ケネディ暗殺にニクソンが関わったように匂わせているのは、どうかと思う。

　前のめりの姿勢、両手を挙げるＶサイン、ぶきっちょなテープレコーダーの扱い方、猜疑心に満ちた目つき、やりすぎで妙な笑顔など、ニクソンが乗り移ったかのようなアンソニー・ホプキンスの演技はさすがだ。

　映画の中でニクソンはよく自分をケネディと比較する。確かに対照的な二人で、ハンサムでお金持ちでお金持ちのボンであるケネディを人々は希望の光として賞賛するが、（決してハンサムではなく家柄も学歴も劣る）自分には、暗い現実しか見出さず、皆私を嫌うのだと劣等感を募らせる。歴史に「もし」はないというが、もしウォーターゲート事件で辞任に追い込まれなかったら、外交では南ヴェトナムからアメリカ軍を完全撤退させ、中華人民共和国の事実上の承認、内政面では環境保護に尽力した大統領として人々の記憶に残ったかもしれない。

　貪欲な愛されたい欲求は権力欲に姿を変え、大統領になってさえも彼の心は満たされない。そればかりか、誰も信じられずにすべてテープに録音したり、民主党オフィスに不法侵入し盗聴までしてしまう。あだ名がTricky Dick（ずる賢いディック）だったというから人から嫌われる要素はあっただろうが、本人の「どうせ、どうせ」というヒネクレぶりがそれを最大限に助長したように思われる。”本人が「どうせ皆俺のことなんて嫌いなんでしょ、だったら意外性で勝負だもんね、フン」という感じでいては、周囲の人もその人のことを好きになりようがないものねえ〜”と自己啓発書に書いてありそうなことを思った191分でした。
　　
　

ありえない？アメリカ大統領＝世界の覇者？
大統領がやれといったらなんでもやる？

◆ニクソンの弱み
政治の中枢、頂点にのし上がるために、危ない橋を何度もわたってきている。
競馬場で、フーヴァーと彼の長年の副官トルソンに、ニクソンは会う。まだニクソンが大統領になる前の話。
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誰が邪魔か？　ボビーだね、あいつは……母が死ぬ前に税務調査をかけてきやがった。（大統領になるために）どんな汚い戦いも覚悟している。コルソンは女をあばけと言う。ニクソンは、なんかよい情報はないかね、支援してくれ、頼りにしていいか、と言う。フーヴァーは、組織というものはしばしば乱用される、最終的に調整はつくが、時に荒々しい爆発もある　例えば故キング牧師だ　偽善者で下劣な女好きで　黒人を煽動し　反体制の説教をした　時には体制崩壊の危機もあった　
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ストーンらしい、脚色し戯画化し再創造された物語だ。トリッキー・ニクソンは、物語のなかで、告白する。これも、事実と架空の間のうわ言として書いてよいだろう。僕（ニクソン）が、アイゼンハワーの副大統領のとき、キューバ侵攻をＣＩＡを命じたこと、それからボビーとニクソンが大統領選で戦う状況になってからという設定で、ニクソンは語る。腹心のハリー（ジェイムズ・ウッズ）と会話。
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あのホモ男（フーヴァー）らしいやり方だ　私に忠告しに来たんだ　ロゼリのことを？　ギャングでしょう　ただのギャングではない　彼はキューバで“トラック２”に関わっていた　“トラック２”はチリかと　チリ　コンゴ　グワテマラ　イラン　キューバ　緊急行動のある所“トラック２”ありだ　キューバでは“トラック１”が　“ピッグズ湾侵攻だ”　“２”は我々の発想だ　カストロがいる限り侵攻は失敗する　そこで考えた　ほかにカストロの死を願うものは？　マフィアと（南部の）実業家だ　そこで“トラック２”を組織した　最初の暗殺計画は1960年　選挙の前だ　アイクが了承を？　拒否しなかった　私がホワイトハウス側でマフィア側の連絡員がロゼリだった　ＣＩＡ側の一人は　あのバカ野郎のハントだ　
フランク・スタージェスに　あのキューバ人もいた
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「あの馬鹿」と罵倒されているのは、元ＣＩＡ日本支局長のハワード・ハントでしょう。
彼は、「鉛管工」を率いて1972年6月17日にワシントンDCの民主党本部に盗聴侵入事件で逮捕されました。彼は、33か月、服役後、出所した。その後、小説を書いています。
ハントの妻ドロシー、ウォーターゲート事件の捜査中の1973年12月に、航空機墜落事故で死亡しました。
トリッキー・ディッキーは、1974月9日に大統領職を辞任したあと、盟友のジェラルド・フォード副大統領が昇格しました。フォードは次の1976年の大統領で、民主党のジミー・カーターに敗れました。カーターの次は共和党の右派のロナルド・レーガンになり、ニクソンは「示唆」を与え、亡くなりました。その後、大統領は、ジョージ・ブッシュ（父、共和党）とビル（ウィリアム）・クリントン（民主党）とジョージ・ブッシュ・ジュニア（共和党）の３人の大統領の在任中に準備され実行された2001年9月11日の同時多発テロ。
その余震・予備のなかで、バラク・オバマ（民主党）政権が誕生したが、彼は、内政的に保険制度の皆備に着手したが、中座している。外交政策の弱腰は、オバマの弱点だった。これを責める人が多いが、誰にできるだろうか。オバマには、「米国に逆らうものは徹底的に潰す」とは言えないだろう。政権はたえず、前の政権の負債を背負っている。ブッシュ・ジュニアという阿保ボンが幼稚園で絵本を読んでいるときに、重要な話を聴いたが、理解を越えたジュニアの顔に、何を期待できただろう。彼も絵本を読んで、政治家に成りあがったのだ。
米国の二大政権（共和党、民主党）は、今は、トランプになって、崩れてきている。実は、トランプが勝負をしている。

リチャード・ニクソンは、ＪＦＫに苦しめられた大統領だった。
映画「ＪＦＫ」でケネディ暗殺の「陰謀」を描いたオリバー・ストーンは、「公平」にニクソンという憎まれたキャラクターに人間味を肉付けしている。
けれども、ストーン監督・得意の陰謀への肉付けは後半で出てきます。
ニクソンを演じるアンソニー・ホプキンスの名演が光る。
妻の「相棒」パットを演じるジョアン（ジョーン）・アレンもとても良い。
リチャード＝ディック・ニクソンは、米国の負の歴史を背負っている。
政治的なスタートは、赤狩りのマッカーシーの番頭格然として、「共産党」らしき人々を弾劾したときから「悪役」のイメージが始まっていた。
生まれは、西部カリフォルニア州南部で、両親ともにアイルランドの家系であった。
同じアイルランド家系の裕福な東部のケネディ家とは異なり、家はいつも貧しかった。
ケネディ家はカトリックであるが、ニクソン家はクエーカーだった。この映画「ニクソン」では、家の小さな食卓での厳格な祈りの場面が出てくる。兄は肺結核で早逝。弟リチャードは苦学し、司法試験に合格、地元の弁護士事務所に就職し、1939年、独立開業した。1940年、高等学校教師セルマ・キャサリン・ライアン（パット）と結婚した。
真珠湾攻撃が始まり、ワシントンＤＣへ夫婦は転居。終戦後、海軍で兵站業務についていたニクソンは、ペプシコ社の弁護士になり、ペプシコーラの世界進出に協力した。1946年、地元のカリフォルニア州の下院「12」の共和党候補として立候補し、当選。当時「赤狩り」旋風を活動していた共和党上院議員ジョセフ・マッカーシーとともに、「ソ連のスパイ摘発」を行い、全米で有名になった。1950年に上院議員選挙で当選。1952年の大統領選挙で、アイゼンハワー大統領選の副大統領候補に指名された。若干39歳。
ここまでが、「トリッキー」の第１期。
◆アイゼンハワー大統領の副大統領として
ニクソンは1953年1月20日にアイゼンハワー政権（第２期）の副大統領となった。
その後、外交政策で活躍するが、次第に大統領とは、戦争についての政策で齟齬をきたすようになった。元・軍人で大将のアイクと、戦争を資金源にして政治的高踏へ進もうとするニクソンが合わなくなる。映画「ＪＦＫ」の冒頭のアイクの終任演説は、ここを突いている。僕の推定では、ニクソンがキューバへの侵攻作戦（「ピッグス湾」）を始めたのは、この頃だろうと思う。
◆ＪＦＫに大統領選挙で敗れる
1960年の大統領選挙は、民主党のＪＦＫと、前政権・共和党のニクソンは僅差で競り合っていた。この映画で描かれているＴＶ討論会で、正直なニクソンは、キューバ侵攻についてＪＨＫで突かれ、戸惑い口をつぐむ場面があった。ニクソンが策定したＣＩＡの作戦だ。言えない。３年後の暗殺を検証すると、この作戦の失敗はケネディの責任になったことで、キューバからも、反キューバの亡命人からも、革命前のキューバのサトウキビ、フルーツ、麻薬、賭場の権益を得ていた「グループ」からもＪＦＫは逆うらみを買うことになった。
1960年の大統領選で負けたあと、ニクソンは、1962年11月初旬（ＪＦＫ暗殺前）にカリフフォルニア州知事選に負けていた。「あくまで、この映画ではという註釈つき」だが、ニクソンは、このころ、暗殺を計画する「グループ」に接触されている。彼は一応、拒絶する。しかし、弟ボビー（ＲＨＫ）には嫌われていたと思う。彼は、暗殺情報を「黙殺」できる立場には、あった。
◆念願の大統領になる
ニクソンは、出馬を辞退した民主党のジョンソンの「後継」であるハンフリーに勝って、1969年1月20日に、第37代合衆国大統領した。
◆ニクソンは、国務省経由の慣例の政治システムを変え、「ホワイトハウス主導」の積極的な外交を展開し、政治的成果を求めた。それは、国家安全保障担当大統領補佐官のヘンリー・キッシンジャーの交渉能力が不可欠だった。
◆ニクソンの最良の政治成果・最悪の経済政策
ベトナム戦争からのアメリカ軍の撤退を決め、実行したこと。
冷戦緩和外交を一時的に実行したこと。「米中緩和」それに連動して田中角栄は、「日中緩和」に乗った。「ニクソン・ショック」という通貨交換変更によって、世界は経済混乱に陥る。これは、米国主導の勝手な経済変更だった。固定で「１ドル」＝「360円」だったものが、金本位を捨て、完全な通貨変動相場制に移行した。今はその世界だが、当時は、一気に円安になり、オイルショックで疲弊していた化繊会社は倒産した。地力、技術力、特許のある会社は生き延びたが、ない下請けの中小企業は、軒並み倒産した。

古代ギリシャ哲学者・アリストテレスの “人間は政治的動物である” というその言葉に、
すごくあてはまってると思った。

第３７代大統領。

すべてがとてもとても興味深く、のめり込んで鑑賞したものの、
ウォーターゲート事件に関しては、ちょこちょこっと本で読んだことがあるだけだったので、
できれば、ある程度の知識を持って鑑賞したほうが、よりストーリーに入れるかもしれない。

想像で書いたセリフなんだろうけど、ケネディの肖像画に、

“君を見ると理想の姿を見る。私を見ると現実の姿を見る”

と語りかけるシーンは、
２人の関係を簡潔に判りやすく表した、すばらしい言葉だと胸にグサリ。