リチャード・ニクソン暗殺を企てた男

『タクシードライバー』に似ていますが、凶行に至るまでの過程がこちらの方がはるかに生生しい。
実話だからかもしれませんが、とても痛い。胃袋がきりきりしました。
７０年代、ニクソン大統領のあの時代の出来事ですが、
今にも充分、今の方がかなりリアルにサム・ビック予備軍が世界中に、自分の中にもいるのがわかって不気味さを感じました。

その甘えんぼサム・ビック演じた、というかやりきってしまわれたのがショーン・ペン。
もともとペンさん目的で観たのですが、
この時、４３歳位。
サムの焦燥感が増すごとに深く増え波打つ顔の皺。繊細な演技はもう、どう言ってよいのやら、
金太郎飴のごとく、切っても切っても、どこを切ってもショーン・ペンでした。

自己愛強い、わがままな勘違い男サム・ビック。
彼の言動には思い当たる節が多々あって、
そんな彼が孤独ではないところに痛々しさが増しました。
妻や兄や友人は辟易しながらも、それなりに彼に救いの言葉や手を差し伸べていました。
それに甘えているだけの幼児のような大人、サム。観ているこの身の胸はむかつき胃は痛む。

ラスト、映し出されるだけのサムのTVニュースの前で、誰もそれと気づかず営まれてる日常。
終盤の観せ方は生に生が畳み掛けていかれるようでとても見応えありました。

現代にもありえる実話でしょうが、今はバーチャルな捌け口や、つぶやく相手、場所がたくさんありますから、
サム達は凶行へ至らず部屋の中へとどまることができて、その点いい時代、ですけど、
その分、妻や身内は大変です。別種の凶行の気配が感じられました。

私の好きな「２１グラム」コンビ、ショーン・ペン＆ナオミ・ワッツが元夫婦を演じているので、ふたりがどんなからみを演じてくれるのか楽しみにしていたのだが、とにかくショーン・ペンの演技だけにひっぱられた感のある映画だった。
生きることに不器用で、なにをやってもうまくいかない主人公を演じた、ショーンの演技は一見の価値があると思うけど、誰しも生きていく上では嫌なことはたくさんあるし、それでもなんとか折り合いをつけて生きているもの。それが出来ずに、大統領暗殺という方向にいってしまう主人公には感情移入しづらい。そして、ラストがあまりにもあっけないのも残念。

　憎憎しげな社長とか、現実主義者の黒人とか、美しくて冷たい妻とか、それぞれのキャラクターを演じた役者たちが上手いので、すごくリアリティがある。もちろんショーン・ペンはうまい。ショーンはどんどん上手くなるような気がする。わたしが最初に注目したのは「デッドマン・ウォーキング」だったけど、それ以来、どの作品を見ても熱演しているし、本作でも情けない男を情けなく熱演しているので、あまりの情けなさに同情していいのか腹を立てればいいのか、わからなくなる。

　サムの独白で進む映画は、彼の内面を深く掘り下げていく。彼は「拝啓バーンスタイン様」と呼びかける声をテープに吹き込み、指揮者レナード・バーンスタインに送りつけるのだ。だがその独白は独りよがりで、どこに「正義」があるのか判然としない。ブラック・パンサーに献金もしたけれど、これといって何か政治的主張を持っているようでもなく、やることなすこと行き当たりばったりで、典型的な「ダメ人間」なのだ。

　こういうダメ人間を見ると、わたしは本人への腹立たしさと憐憫の情と彼のようなある意味正直な人間を活かしきれない社会への怒りという複雑な感情を持ってしまう。

　映画を観終わっても何もすっきりしないし、「だからどうなの？」という釈然としない感情がわいたりして、「そんな杜撰な計画、失敗するに決まってるやんか」という冷めた感情が残る。あんまり面白くない映画だけれど、役者たちが上手いので、それなりに見ごたえはあった。

実話をベースにした作品だそうです。劇中、主人公のサムがニクソン暗殺を決意するに至ったテレビ画面（ウォーターゲート事件）が、何度も出てきます。ストーリーは、サムが唯一尊敬するバーンスタインという指揮者に宛てて、手紙を通して自分の心情を吐露する形で進んでいきます。
サムは妻と3人の子供達と別居中で、なんとか元の生活を取り戻すべく、セールスマンの仕事をしています。嘘が嫌いで正直に生きたい彼にとっては、商売の駆け引きが客を騙すことに思えてなりません。「客だって駆け引きはしているんだよ！」と言いたくなるほど、彼の言動にはイライラさせられます。社会と上手く折り合いをつけて生きられないサムは、純粋なのか、不器用なのか？
サムのような人が少なからずいるのだと実感でき、そのような人々が生活破綻者やテロリストになったり新興宗教に走ったりするのかも？と考えたり。
「バーンスタイン様・・・」とサムが語りかける言葉に、サムにとっての真実があります。見終わってなお考えさせられ、元気が出なくなる作品でした。しかし、途中で見るのを止めようとは思いませんでした。

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本作品が興味深いのは失敗していく思考法を見せてくれるからだろう。サム（ショーン・ペン）という男の生涯を見て、ダメ男と言って切り捨てるのは容易い。

だが、うまくいかないのは何故か。そこにはうまくいく筈のない要因ばかり揃っているのだ。出発点も方法も間違いで、この結果は意外でもなんでもなく、ある種必然と言ってもいい。

もう一度、家族と一緒に暮らす。事業を成功させる。その夢は正しいが、それをどうしたら実現させるか、その手段が適切でない。すべては結果しか見ていないのだ。だが、この男にはそれが分っていない。

狭い価値観。嘘を嫌う潔癖性。激しい思い込み。極めて狭い視野で物事を見ている。そして、うまく行かない原因を自分ではなく他者に求めてしまうことの愚かさ。これでは何をやってもうまくいくはずはない。