アメリカン・スプレンダー

「アメリカンスプレンダー」というコミックの主人公ハービー・ビーカーの話ですが、ハービーご本人（ご本人はかなりの悪声で、ナレーションが聞き取りにくかったのが難点）と俳優が演じ分けている上に、コミックも組み合わされているので、一風変わった作品に仕上がっています。ハービーはさえない中年男なのですが、彼のシニカルな視点がおもしろいです。
ハービーを演じているポール・ジアマッティの演技がなかなかです。我が家の娘が彼の出ている「ビッグライアー」が好きで、よく観ていますが、あのなかの全身真っ青な彼の印象が強すぎて、こんなシニカルな演技ができる人だとは思いもしませんでした。今年のアカデミー賞作品賞候補にもなっているSidewaysにも出演していて、今後注目の俳優だと思います。

これまた冴えない自分の日常を描いたところが奇想天外。
こんな話がコミックになるの〜？と、疑問を感じつつ、どはまりしてしまいました。７０年代から現在までのサブ・カルチャーを描きながら、彼自身がその実体験者でもあるのだから。
これまで描かれたサブカル像とは、似ても似つかぬカッコ悪さ。
本人自身も映画に登場、原作の絵も画面に挿入されるが、これがまた、なかなか面白い！
演じるポール・ジアマッティが、本人以上に本人らしい好演で？？
まさに共感の持てる異色ヒューマンドラマでありました。
噛めば噛むほど味のでる作品といえるでしょう。ぜひご覧を。

おしゃれなジャケット写真。
実存するハービーと、アングラコミックの存在。
個性的な役者と、いやがおうにも興味をそそるストーリーの解説。

これは期待できるミニシアター系の映画なのねっ！　とわくわくもので借りて、鑑賞開始。
おお。
期待通りにさえない主人公。ただそこにいるだけで、この存在感ってすごいわあ。しかも音楽がめちゃくちゃかっこええやん！
スタイリッシュな映像の切り方で、コミックと映像が同居していく画面もおしゃれ。ほくほく。

…と、３０分ぐらい経過した時点で。


うとうとうととととと。



ありゃ。今日は疲れているのかしらん。
明日じっくり見ましょ。
で、翌日。
ほうほう、こういう展開ね。本人も出てくるよ。やっぱ変人っぽいなあ。この絵好きだなあ。うんうん。
で。

うとうとうととととと。


なんなんざんしょ。
いろんな条件が申し分なくそろっているはずなのに
結局3日かかりました。見終わるまでに。

おしなべて評判がよかったので、ほかのかたがたは居眠りなどこかずに、楽しく面白く鑑賞されたのでしょうか。
映画館ならまだよかったかな。
「興味深い」という感想を残しつつ
「楽しい」とか「面白い」なんていう場所からはかなり離れたところに存在する映画でした、私にとっては、ね。

　この映画をヨシとしない人、それは真っ当で正常な社会人だ。そして最初から、思いっきり引き込まれた私の様な人間は…え〜と、むにゃむにゃ…。　

原作コミック『アメリカン・スプレンダー』は、『男おいどん』『どくだみ荘』に、現代のブログ表現をプラスしたような、世間や日常を思いっきりハスに眺める男のストーリーだ。このむさ苦しい世界がなぜかオシャレに見えるのは、全編に流れるジャズのおかげ？コルトレーンの「My Favorite Things」など、粋な選曲。　

ポール・ジアマッティのキャスティングは絶妙というしかない。これほどにハービー・ピーカーを具現化し得る人間がいるとは。あの常に不満たらたらの顔、ギョロ目、おそろしくだらしない体型、全てがそのままだ。本編に出てくる「ハービー本人」の方が、逆に役者っぽく見えたりして。『サイドウェイ』の時のダメ男ぶりとは、明らかに違うから、ちゃんとダメ男の役作りをしてるってことが分かって感心する。

病院の資料係とはいえ定職も、立派に広い部屋もあって、奥さんだっていたんだから、彼の人生は全然マシに見える。「ダメ男カテゴリー」というのも実はかなり広範で、ハービーの人生に共感を得る層は案外少ないかも。そのわずかな層と、そんな彼が如何にして成功を勝ち得たかに興味がある層、そのわずかな人達の為にこのストーリーはある。

『LATE SHOW with DAVID LETTERMAN』のフィルムは、実際の映像？作り？（デビッド・レターマン自体を見たこと無いので…）いやぁ、おもしろそう。日本でも原作者とかは癖のある人が多そうだから、「裏徹子の部屋」なんかやったらいいかも。

栄光は儚かったものの、少なくとも彼の人生には立派な意味付けが出来た。途中、真っ当に主婦になった同級生から「あなたがうらやましいわ」と言われ、戸惑うシーンがある。人とは何か違う人生、何かが出来た人生と思えること、それは幸せなことなのだろう。もっともハービー自身は、そんな意識も薄く、今日もまた、不満たらたら顔をしかめているのかもしれないが。

怠惰な空気感は期待通り。

もうちょっと映画と実際の映像が分れていた方がよかったような気はしたがそれだけにハービーには親しみが湧くし、人と成りが分かりやすい。

私はジョイスとのなれそめの下りが「ほんとかよ？」って感じで一番おもしろかった。
結構ファンの期待を裏切らない生き方してるんだなぁと。

俳優の選び方なんかもうまいしハービーに興味がある方は是非！