風の絨毯

飛騨高山の祭り御輿（屋台）を飾る、ある「絨毯」を巡る物語。イランのスタッフが撮っているせいか、冒頭の日本パートになんだか妙な違和感があるが、舞台がイランへ移ると、それが気にならなくなるから不思議だ。

興味のあるなしで相当左右されるだろうが…この映画、絨毯が織られ始めると、俄然面白くなってくる。母親がチームリーダーとなって、一族が総出で作業を行う、家内制手工業の見本のような絨毯織りプロジェクトなのだ。
デザインはターラムと呼ばれる表に写され、それを読み手が読み上げ、織り手がその色のパイルを入れ横糸を通す。その熟練の指先。ずっと見ててもいい感じだ。むしろ、その技法・製法にもっと触れて欲しかった気がする。（それじゃドキュメントになっちゃうか）　ふたりが記念に入れたパイルは、見逃されたのか、図案の一つと理解されたのか。それとも…？

一年はかかるサイズの絨毯を２０日間で織る為に、二人の織り手が交替を繰り返して、昼夜を問わず作業を続ける。主に携わるのは女性達だ。その脇で仮眠をとる交替の人達。並行して糸を染める人、乾かす人、買い物に走らされる男達。そういう手工業的な現場の姿に、私は何とも言えない愛しさを感じてしまうのだ。

同時にさりげなく進行する日本の少女とイランの少年のほのかな恋は、子供特有の、なんだかいつの間にやら仲良くなってました、という感じの描写がリアルだ。少女役の柳生美結（現・みゆ）の演技慣れしていない堅さが、この役にマッチした。子役って、巧過ぎると嫌味になるからなぁ。


むしろ特典映像にある、少年が撮影後も柳生のことが忘れられなくて来日してくる話の方が、普通の映画っぽかった。撮影時は素朴だった少女が、日本ではファッションモデルとして華々しく活躍しているという現実。なんだか少年の身になって、切ない気持ちになってしまう。

　１人の日本人のために、一致団結して絨毯を紡いでいく過程、それでいて色の微妙な違いを許さない素朴な職人気質みたいなものには心打たれました。
　ただ、日本人父娘の描かれ方には、ちょっと合点がいかない部分も…。「そもそもこんな異国の地にわざわざ娘を連れてくるか？」とか「娘が行方不明になったらもっと発狂寸前になるだろう」とか・・。まあ映画ですから、それを言ったらお終いよ的な小さな違和感なんですけどね。

　そして実は私がホントに泣けたのは特典映像。。
　サクラ役の柳生美結ちゃんに本気で恋しちゃった、ルーズべ役のファルボ君。映画のプロモーションで来日した際、１年ぶりの再会を心待ちにしてたファルボ君と、日本でそれなりに多忙な毎日を送ってる美結ちゃんとの間に、かなり大きな気持ちのギャップみたいなのがあって、痛々しいというか…映画がキレイに終わってただけに何か寂しかった。ある程度予想してたけど、やっぱり現実って残酷よね、みたいな（涙）。これ、わざわざ特典に入れなくてよかったんじゃないですかねえ？
　イランへと帰る飛行機の中で、美結からもらったオルゴールを耳に当ててる寂しそうなファルボ君の姿が、何だか映画よりも鮮明に心に残ってしまいました（涙）。

絨毯ってあんな風に織っていくのですね。なぜあんなにペルシア絨毯が高いのかが分かりました。

それにしても、さくらと少年の目の美しいこと！
あのように潤んだ透き通るまなざしを見られるだけでも、見てよかったなぁと思いました。
必死に覚えた日本語で、「ぼくはあなたを食べたい」（あなたが好きと言いたかったのに）というシーンや、さくらを見つめる少年のまなざしにきゅうとなりました。

イラン映画といえば、「運動靴と赤い金魚」しか見たことがないのですが、この作品もよかったです。

特典映像も楽しめました。

ペルシャ絨毯、なんと！手織りですよ。
ひと織りひと織り、丁寧に、かつ素早く毛糸を織り込んで（結び込んで？）いく作業は、まるで神の手にかかったようです。
図面を読み上げていく人が傍らにいて、歌のようなそのリズムに合わせて、織り手が二人で織りあげていくのです。
そして出来上がったその絨毯のなんて素晴らしいこと。
果たしてそのお値段は？・・って値段のことばかりが気になりました。うん百万円なんでしょうね、きっと。

母親をなくした少女さくらとその父・マコトの心の再生の物語です・・と言ってもそれほどのドラマはありません。
手違いから１ミリも織られていなかった絨毯の出来上がりを待つ間に、イランの日常が綴られていきます。
縦糸が切れてしまったときに、リーダーの女性が言います。
「糸は切れてもいい、でも心の糸は切ってはダメよ」
その言葉がとても印象的でした。
そして言葉は通じずとも、さくらと現地少年との心が通い合う様がいいですね。
二人の友情の証はそっと絨毯にこめられ、祭屋台の上で永遠のふたつ星のように光ます。

あと、とても気になるシーンが・・
それは、三国連太郎さんが演じる中田金太なる人の非常識な態度。
あの人の人柄を表すための演出なのでしょうか？
お通夜の席でお悔みを言うよりも先に絨毯のことを切り出す、お焼香するときの下品な座り方、座布団を足で踏みつけてからよっこらしょと胡坐をかいてのお焼香（仏教だから胡坐もありなんでしょうが、常識では考えられない！）、そんな態度が気になりました。
常識人であるならあんな振る舞いはしませんね。
そんな非常識な人のためにあんな豪華な絨毯を寝ずに作ったイランの人たち、何だか日本とイランの関係のように思えてしまった次第です(≧◇≦)！

少女の父親誠の描き方が今ひとつで
全体に物語の求心力の足りなさを感じました。

イランの風物は大変新鮮でした。

絨毯商のアクバルや絨毯作りを依頼されて忘れていた爺さまなど
結構胡散臭げで、ちょっぴりユーモラスで、根は誠実そうで憎めません。
「少女の髪どめ」のときの建設現場の親方みたいでした。