アモーレス・ペロス

愛というものは厄介だ。
時に人を狂気に駆り立てる。かと思うと生きる支えになったりもする。


この『アモーレス・ペロス』は3組の登場人物にまつわる愛の物語です。

その3つの愛憎劇が事故と犬でパズルのように徐々に結ばれています。
このあたりはイニャリトゥ監督の得意な部分で『21ｇ』や『バベル』と似ています。

ガエル・ガルシア・ベルナルが主人公を演じる最初の話は
とにかくスピード感に溢れていて、とてもエネルギッシュ。
言ってみれば攻撃的な愛の形を表現しています。

事故により人生が来るってしまうスーパーモデルが登場する話では
少し映画が落ち着きます。
ここでは崩れていく、あるいは変容していく愛が描かれます。

そして3話目はあるきっかけで浮浪者のような生活を送る
初老の男の話で、かなり複雑な愛の形が描かれています。
強いて言えば見守る愛と言えるかも知れません。

この映画では犬が多く登場し、それぞれ重要な役割を果たします。
人間それぞれの愛が状況などによって変化するのに対し、
人間と犬の間の愛情、特に犬の飼い主に対する愛情は変わることがなく
その対比が人の心の描き方にコントラストを与えています。

私は1話目と3話目が好きなのですが、この1話目と3話目は
コフィという名前の犬で繋がっています。
3話目の中で登場する人物がある人物を殺さなかったのは
コフィが起こした出来事が原因だったのでしょう。
この出来事をターニングポイントして初老の男の人生が再び動き出した。
そう考えると3話目は実に深みのあるストーリーで惹きつけられます。

躍動感から深みまで、ひとつの作品の中で幾重にも楽しめる
素晴らしい作品だと思います。

たった１本の映画で「最もホットな映画を作る男」の評をさらったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の壮大なデビュー作。
冒頭、メキシコシティの猥雑な街角を猛スピードで走り抜け衝突する２台の車。その衝撃的な瞬間に偶然居合わせた３人の全く異なる人生が交差する。
憎みあう兄弟、罵りあう夫婦や家族、すぐそこにある犯罪とその代償…犬のように激しく切ない叫び声を上げながら、それでも人々は消え入りそうな愛だけを心の支えに絶望を乗り越えて生きていこうとする。針で刺されるような痛みを感じながら、それでも私たちは生きていくしかないのだ。本作は、涙を流すことすら陳腐に思えるほど衝撃的な「再生」の物語であるといえるだろう。
ちなみに、スペイン語圏ロックの第一線アーティストたちが本作にちなんだ曲を提供したサントラも衝撃的。作品中には使用されていないカフェ・タクーバ他のミュージック・クリップが特典映像に収録されているのが嬉しい。

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ガエル演じる兄嫁（兄は暴力夫）に恋する青年は、貧困の中で闘犬賭博に身を投じて儲けたお金を兄嫁との逃避行を夢見て蓄えていく…、割りと典型的貧困生活。二番目のトップモデルの女性は人気絶頂の中、一話目の事件で起きた交通事故に巻き込まれ足を失う事になる（失わずに済んだかもしれないのに）こちらはかなり裕福な階層。三番目の老いた殺し屋は、ホームレス同然の生活をしているが、と、ある理由で今の生活になっただけで元々は大学教授である。

このようにあらゆる階層の人間がメキシコの街を舞台に絶妙に絡み合い、擦れ違ってゆく。この過程がオムニバスなのに良く出来ていて「あれは、あの為の伏線だったのか」と、思わされる事多々あり、です。犬を媒体にして関連の無い人生が本人達の意識を他所に引寄せあっていく過程はお見事です。

三つの話は確かに暗く、切なく、絶望というよりはやり場の無い哀しみに溢れている。でも、それが人生というものでしょうか？捨てたくても、辞めたくても、消してしまいたくても一日一日が過ぎていく。また、新しい一日が始まれば捨て場の無い人生を抱えて生きていかねばならないのが人間だ、と考えさせられた。

登場人物達の行動は一見愚かかもしれないけど、誰もそれを笑えない。昼間の乱雑で活気溢れるメキシコ・シティの描き方と、ラストシーンの夜のあの暗さ…、描き分けの対比からも感じ入るものがある。

トップモデルの女性が自室から自分が使われていた看板を見上げるシーン…、ガエルのラストの哀しみでも怒りでも投げやりでも無い瞳。これらから何を感じ取るかは見る人それぞれだと思います。

只、見終わった後は不思議とイヤな感触は残らなかった、寧ろ「生きる」という事のやり場のなさ、それでも生きなければ何も起こり得ないという矛盾…、中々に考えさせられる良い作品だった。
ガエルの出世作としても頷ける出来栄えです。

一つ、動物の死骸が苦手な方は要注意です！

数年前に、この作品を見た時は、衝撃の方が大き過ぎて、正直、しんどい作品だな〜〜と、尻込みした覚えがあります。
その後、様々の作品を鑑賞し、人生も少し経験が増えた(おばさん経験だから、劇的という訳ではないが・・・)、今、見直すと、新たな意味で感慨深い作品となりました。
時間軸交差の作品が、数多く見られる最近ですが、この作品もまた、その先駆をいっていたと言えるでしょう。
レビューアーの皆さんが、多くを語ってみえますが、好みが分かれる１本ですね。
大きな事故の場面にいき合わせた、三人のそれぞれの人生模様。なかなか、自分の思うようには行かないのが、人の一生でしょう。しかし、そこから、また新たな道を歩み続ける。
哀しいけど、これも又、人生ですね。
二度目鑑賞後の感想でした。

５月末に、大量にカウント下さった方、驚きました。お礼を。
図らずも、また二位に返り咲いてしまいましたが、順位よりも、こうして毎日このサイトにレビューが書けることを、幸せに思っています。ラヴァース様。いつでも、逆転お待ちしています。

好みの問題と言ってしまえばそれだけだけど、私は好きですね。こういう映画。１度目は圧倒された感じ。今回は、同じ監督の「２１グラム」を観て非常に気に入ってしまったので、もう１度観てみたのですが、３つの話を別々にしてもっと掘り下げてもおもしろいのではないかと思いました。次の作品もガエル・ガルシア・ベルナール主演だそうなので、期待しています。