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若尾文子を、アイドルから日本映画史を飾る大女優の道へと導いた傑作。恐ろしいまでに強い愛に生き、遂には狂気へと陥っていく美しい女を、若尾文子が全身全霊で演じきる。登山中の3人の男女を襲った事故。1人の男の死…それは妻による夫殺害という恐ろしい事件だったのか?女は、生き残ったもう1人の男を心から愛していた…。人の心にそそり立つ疑惑の絶壁を大胆かつ絶妙に描いた増村監督の代表作。
若尾文子を、アイドルから日本映画史を飾る大女優の道へと導いた傑作。恐ろしいまでに強い愛に生き、遂には狂気へと陥っていく美しい女を、若尾文子が全身全霊で演じきる。登山中の3人の男女を襲った事故。1人の男の死…それは妻による夫殺害という恐ろしい事件だったのか?女は、生き残ったもう1人の男を心から愛していた…。人の心にそそり立つ疑惑の絶壁を大胆かつ絶妙に描いた増村監督の代表作。
製作年: |
1961年 |
---|---|
製作国: |
日本 |
収録時間: | 字幕: | 音声: |
---|---|---|
91分 | ||
レイティング: | 記番: | レンタル開始日: |
D*DABP1143 | 2007年07月21日 | |
在庫枚数 | 1位登録者: | 2位登録者: |
5枚 | 0人 | 0人 |
収録時間:
91分
字幕:
音声:
レイティング:
記番:
D*DABP1143
レンタル開始日:
2007年07月21日
在庫枚数
5枚
1位登録者:
0人
2位登録者:
0人
DVD
収録時間: | 字幕: | 音声: |
---|---|---|
91分 | ||
レイティング: | 記番: | レンタル開始日: |
D*DABP1143 | 2007年07月21日 | |
在庫枚数 | 1位登録者: | 2位登録者: |
5枚 | 0人 | 0人 |
収録時間:
91分
字幕:
音声:
レイティング:
記番:
D*DABP1143
レンタル開始日:
2007年07月21日
在庫枚数
5枚
1位登録者:
0人
2位登録者:
0人
約35,500
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明朗快活なアイドル女優から実力派女優へと大きな変貌を遂げた、若尾文子の転機となる代表作です。「女経 第一話 耳を噛みたがる女」以降、アイドルとは言い難い役所をこなしてきてはいますが、主役として突き抜けたという意味ではやはり本作が大きな転機となる作品ではないでしょうかね。クライマックス、雨に濡れた和服姿で笑みさえ浮かべ、下から見上げるように佇む姿は鬼気迫るものがあり、名シーンと謳われるのも納得できるところだと思います。DVDには若尾文子のインタビューも収録されていて、このシーンが撮影初日であったことが明かされます。一本の映画の中でその全てを集約したカットがこのショットだと思いますし、裏返せばこのショットのトーンが映画の全てのトーンを決めるという意味で、意図的な香盤だったのかもしれませんね。
物語は夫を殺した妻・滝川彩子(若尾文子)に殺意があったか否かを争う裁判劇で、回想シーンを交えながら進行します。これもまたインタビューで、増村監督は法廷シーンでは若尾文子に黒っぽい着物に身を包むことを要求したと明かされますが、これも非情に納得できるところで、愛されたいと願う内に秘められた燃えさかるような女の情念を描きたかったんでしょうね。絶えず伏せ目がちで下から見上げる、あるいは振り返るというショットが意識的に使われていて、彩子の満たされない愛情の行き場を求めた視線が彷徨います。
裁判の判決は(ネタバレ自己規制)ですが、有罪であろうが無罪であろうが、そんなサスペンスを超越した人間ドラマが作品の神髄です。愛されたいと願う女の情念、またその情念が発するエネルギーが大きすぎて、幸田修(川口浩)は受け止めることが出来ません。幸田修ならずとも、前述したクライマックスの鬼気迫る姿で職場に現れる女を、男は受け止めることは出来ないと思いますが、愛されたいがために愛する気持ちはどんどんエスカレートして行き、そのエネルギーが大きくなりすぎて尚更受け止めてもらえなくなる擦れ違いは虚しさを際立たせます。ラストカットではカーテンが閉じられ、シルエットが映し出されますが、一片の救いもないラストカットにしばらく張り付け状態になってしまいました。
また作品の大半を占める法廷シーンですが、「くちづけ」のレビューでも触れた人物や物を大胆になめ込む手法が多く見受けられます。もちろんこういった手法も増村監督の専売特許ではないのですが、増村監督の場合そのなめ込み方というのが大胆で、時には画面中央に大きく人の背中を捉え、左右の小さく空いたスペースで芝居を見せたりもします。本作でもなめ込みの圧迫感が演出上の効果をもたらしていますが、この作品以降こういったナメによるマスキングの効果を狙ったショットが著しく増えてくるのも増村作品の特徴で、若尾文子ばかりでなく増村保造としても一つの転機となった作品じゃないかと個人的には思っています。法廷シーンというのはとかく人物の動きがありませんし、それまでの増村監督が得意としてきたイマジナリーの変化を使った効果を狙いにくいところもあり、それ故に新たに突出してきた演出手法でもあるのかなと思ったりもします。
「愛して欲しかっただけなのに」そんな妻の告白(呟き)が虚しい圧迫感を残します。愛されたいと願うが故に、女は受動的ではなく能動的であったと思います。これもまた女性の自立の姿でしょうね。しかし能動的でありすぎるからこそ受け入れてもらえないというジレンマ。男と女の関係は微妙なバランスの上に成り立つ物だけど、彩子の愛するが故の行動を素直に受け止められない男・幸田修の自尊心にも同感でき複雑な感覚が残ります。
増村監督作品、全57本を全て見直したわけではありませんが、本作は増村作品の中でも5本の指には入る傑作ではないかと思いますし、お奨めの1本です。
このレビューは気に入りましたか? 14人の会員が気に入ったと投稿しています
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と言ったら真面目なレビュアーに怒られそうですがわたしの正直な感想です。
若尾演ずる若妻がシーンを重ねる度に成熟した凄みのある美しさを増していきます。
和服用のアップのヘアスタイルに水着姿・・サスペンスが意外に希薄な法廷シーンながら検察に追求されいたぶられ取り乱す姿・・薄暗い和室の襖にすがりながらヒックヒックと嗚咽する・・タイトなスカートにエプロン姿で男にむしゃぶりつく・・
そのまんまの濡れ場ではないのに官能的で、若尾の可愛らしさもふくんだ強烈なエロティシズムが比類なきと言ってしまいたいくらいです。
若尾と増村が企んでスクリーンに滴らせた女の情念は、男の観念の中の女とか、女そのものとかどうでもよくて一切を超えて迫ってきます。
わたしのような中年女性が、自分探し(訳分からん)がテーマの作品に触れるより
本作の狂気にあぶられるほうが余程アンチエイジングに効きそうですが。
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あなたはこの問題が解けるだろうか。絶壁を登攀する一本のザイルにつながれた三人が事故にあう。一番上の男は岩にしがみついて下のふたりをささえている。宙づりの真ん中の女は上から下からのザイルの締めつけで失神しそうだ。一番下の男はただ宙づりでなすすべもない。あなたは真ん中の女だ。救助を待つ余裕はない。十分もすればあなたは失神する。それをまたず上の男が力つきるかもしれない。あなたはナイフをもっている。あなたはどうする。
選択肢はみっつしかない。なにもしない、ふたりの選択にまかせる。おそらく三人とも落下する。あるいは、ザイルの上を切る。上の男だけを救う。さいごが、ザイルの下を切る。下の男を見殺しにしてじぶんも生きる。女ひとりなら上の男はひきあげてくれよう。
愛という観念は、絶壁で絶体絶命の宙づりになった真ん中の女のようなものだ。ザイルの下を切れば自己愛(エゴイズム)、上を切れば自己犠牲だ。愛とはそもそも、この命ガケの力学をはらんで本質的に過剰なのだ。愛は奪い、あたえる。そこに等価交換なんてない。キリストの受難をおもうまでもなく、究極的には絶対的な神への愛が問われる。信じたからといって奇跡の羽根がはえるわけではない。そもそも日本の風土、社会、歴史に絶対的な神はいないから、ひとつの決断を支援する声などききようがない。
増村の答えはこうだ。下のザイルを切れ。じぶんを救え。そしてじぶんを救った以上、のこるザイルを運命の糸とみなして上の男を、自己愛以上の渾身さで愛せよ。愛せぬのなら、あの絶壁で宙づりの中間にいたときに選択すべきだったいまひとつのことを、つまり上のザイルを切れ。それこそ神に支援されぬわが愛の作法である、と。
ラスト、雨に濡れそぼった女の姿はもうすべてをしめしている。これは意志をみなぎらせた姿だ。上から下へと落下する雨にうたれた彼女は上から下へと落ちる水滴をしたたらせてたたずむ。愛の力学に生きる女にとって、傘のような躊躇などなんのたすけにもならないのをしっている。ザイルが切れたら落ちるだけだ。いままさに上の男がザイルを切ろうとしている。だったらじぶんでザイルを切るのだ。
これはだれがなんといおうと愛おしく、雄々しい行動だ。こんな窮極の葛藤、決断を二度しいられた女を若尾文子がみごとにえんじる。そして上の男の不決断の葛藤を川口浩もみごとにえんじている。若尾文子は川口に懇願する、だが別れが必然としると、壁に、手すりにすがりながら一階へとゆるやかに落ちてゆくしかない。
若尾文子は壁ぎわの女だ。彼女は非難の視線(人目)にさらされる。世間(街)も、法廷も、そして自宅でも、壁ぎわでひっそりとたえるしかない。おまえには高い壁の刑務所がお似合いだ、と。高層アパートの部屋こそ、彼女にとって防壁をめぐらせた愛の家となるはずであった。だがあくまでも人目を気にする川口にはそれにたえられなかったのも当然であった。かれは絶壁で窮極の決断をしなかった、できなかった男だ。
そもそもこの問題は、下の男小沢栄太郎がしくんだのだった。小沢の計画ではじぶんが上の男となり、川口を下の男として、妻であり不貞をしていると疑念する若尾に、残酷な選択をさせるつもりだったのだ。上を切れるものなら切ってみよ、と。じぶんが下の男になったのは皮肉だが、かれもまた愛の観念に生きたことはまちがいない。
かように徹してロジカルな脚本を壁、背中を前景にはいした構図のなか、増村は若尾をもって追求する。若尾はおそろしいまでに体現する。増村も戦慄しただろう。絶壁は法廷であり、ハイキーな空、街であり、ようするに全編である。
あなたは増村のつきつけるこの難問をどう解く=切るだろうか。ありえない問いだという声も、増村は用意している。冒頭、それらしく空の光線をたしかめてカメラをまわす男、視線をなげかけるものども、マスコミ、大衆だ。かれらはほどよいリアリズム、俗情で愛の観念をもてあそぶだろう、と。むろん、こんな問いは解きようもないのだ。わたしたちは残された十分間を永遠として生き迷うほかないのだ。そうではなかろうか。
追記、あの愛の家はのちに、『清作の妻』『赤い天使』で実現する。増村=若尾のなんという追求力かと感嘆せざるをえない。が、愛の家で川口の変心をかんじた若尾の、すがりつくセリフ、身ぶりのひとつひとつがもうなんというべきだろう、哀切、悲痛、官能的で畏怖。ああこわいかお。ザイルの細かな繊維がぷつん、ぷつんと切れていく。
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※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。
妻は夫を、殺意あって殺したのか、緊急避難として殺したのか。
戦災孤児で苦学生の教え子をレイプして(傷物にされた=結婚するしかなかった貞操観念の時代に)むりやりに嫁にし、秘書としても女中としても使い倒す親子ほどに年の離れた汚いオッサンにでも、夫だったら貞節を尽くさなければアカンとされていた……それが昔の女の貞女の道。アホか。
若くて、美しくて、聡明で、でも孤独で惨めな生活を送ってきた女が、二枚目の若い男に同情を向けられて、狂ったように愛を燃え上がらせ、彼の愛を求める。
愛に慣れていない人間の愛の、周囲のことなど何も考えていないアンバランスさ、火の玉のような愛の狂気が、やっぱり増村だね!
このレビューは気に入りましたか? 2人の会員が気に入ったと投稿しています
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ユーザーレビュー:12件
投稿日
2007/08/25
レビュアー
ケチケチ※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。
明朗快活なアイドル女優から実力派女優へと大きな変貌を遂げた、若尾文子の転機となる代表作です。「女経 第一話 耳を噛みたがる女」以降、アイドルとは言い難い役所をこなしてきてはいますが、主役として突き抜けたという意味ではやはり本作が大きな転機となる作品ではないでしょうかね。クライマックス、雨に濡れた和服姿で笑みさえ浮かべ、下から見上げるように佇む姿は鬼気迫るものがあり、名シーンと謳われるのも納得できるところだと思います。DVDには若尾文子のインタビューも収録されていて、このシーンが撮影初日であったことが明かされます。一本の映画の中でその全てを集約したカットがこのショットだと思いますし、裏返せばこのショットのトーンが映画の全てのトーンを決めるという意味で、意図的な香盤だったのかもしれませんね。
物語は夫を殺した妻・滝川彩子(若尾文子)に殺意があったか否かを争う裁判劇で、回想シーンを交えながら進行します。これもまたインタビューで、増村監督は法廷シーンでは若尾文子に黒っぽい着物に身を包むことを要求したと明かされますが、これも非情に納得できるところで、愛されたいと願う内に秘められた燃えさかるような女の情念を描きたかったんでしょうね。絶えず伏せ目がちで下から見上げる、あるいは振り返るというショットが意識的に使われていて、彩子の満たされない愛情の行き場を求めた視線が彷徨います。
裁判の判決は(ネタバレ自己規制)ですが、有罪であろうが無罪であろうが、そんなサスペンスを超越した人間ドラマが作品の神髄です。愛されたいと願う女の情念、またその情念が発するエネルギーが大きすぎて、幸田修(川口浩)は受け止めることが出来ません。幸田修ならずとも、前述したクライマックスの鬼気迫る姿で職場に現れる女を、男は受け止めることは出来ないと思いますが、愛されたいがために愛する気持ちはどんどんエスカレートして行き、そのエネルギーが大きくなりすぎて尚更受け止めてもらえなくなる擦れ違いは虚しさを際立たせます。ラストカットではカーテンが閉じられ、シルエットが映し出されますが、一片の救いもないラストカットにしばらく張り付け状態になってしまいました。
また作品の大半を占める法廷シーンですが、「くちづけ」のレビューでも触れた人物や物を大胆になめ込む手法が多く見受けられます。もちろんこういった手法も増村監督の専売特許ではないのですが、増村監督の場合そのなめ込み方というのが大胆で、時には画面中央に大きく人の背中を捉え、左右の小さく空いたスペースで芝居を見せたりもします。本作でもなめ込みの圧迫感が演出上の効果をもたらしていますが、この作品以降こういったナメによるマスキングの効果を狙ったショットが著しく増えてくるのも増村作品の特徴で、若尾文子ばかりでなく増村保造としても一つの転機となった作品じゃないかと個人的には思っています。法廷シーンというのはとかく人物の動きがありませんし、それまでの増村監督が得意としてきたイマジナリーの変化を使った効果を狙いにくいところもあり、それ故に新たに突出してきた演出手法でもあるのかなと思ったりもします。
「愛して欲しかっただけなのに」そんな妻の告白(呟き)が虚しい圧迫感を残します。愛されたいと願うが故に、女は受動的ではなく能動的であったと思います。これもまた女性の自立の姿でしょうね。しかし能動的でありすぎるからこそ受け入れてもらえないというジレンマ。男と女の関係は微妙なバランスの上に成り立つ物だけど、彩子の愛するが故の行動を素直に受け止められない男・幸田修の自尊心にも同感でき複雑な感覚が残ります。
増村監督作品、全57本を全て見直したわけではありませんが、本作は増村作品の中でも5本の指には入る傑作ではないかと思いますし、お奨めの1本です。
投稿日
2007/09/03
レビュアー
横浜のタマ※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。
と言ったら真面目なレビュアーに怒られそうですがわたしの正直な感想です。
若尾演ずる若妻がシーンを重ねる度に成熟した凄みのある美しさを増していきます。
和服用のアップのヘアスタイルに水着姿・・サスペンスが意外に希薄な法廷シーンながら検察に追求されいたぶられ取り乱す姿・・薄暗い和室の襖にすがりながらヒックヒックと嗚咽する・・タイトなスカートにエプロン姿で男にむしゃぶりつく・・
そのまんまの濡れ場ではないのに官能的で、若尾の可愛らしさもふくんだ強烈なエロティシズムが比類なきと言ってしまいたいくらいです。
若尾と増村が企んでスクリーンに滴らせた女の情念は、男の観念の中の女とか、女そのものとかどうでもよくて一切を超えて迫ってきます。
わたしのような中年女性が、自分探し(訳分からん)がテーマの作品に触れるより
本作の狂気にあぶられるほうが余程アンチエイジングに効きそうですが。
投稿日
2008/04/20
レビュアー
kobarou※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。
あなたはこの問題が解けるだろうか。絶壁を登攀する一本のザイルにつながれた三人が事故にあう。一番上の男は岩にしがみついて下のふたりをささえている。宙づりの真ん中の女は上から下からのザイルの締めつけで失神しそうだ。一番下の男はただ宙づりでなすすべもない。あなたは真ん中の女だ。救助を待つ余裕はない。十分もすればあなたは失神する。それをまたず上の男が力つきるかもしれない。あなたはナイフをもっている。あなたはどうする。
選択肢はみっつしかない。なにもしない、ふたりの選択にまかせる。おそらく三人とも落下する。あるいは、ザイルの上を切る。上の男だけを救う。さいごが、ザイルの下を切る。下の男を見殺しにしてじぶんも生きる。女ひとりなら上の男はひきあげてくれよう。
愛という観念は、絶壁で絶体絶命の宙づりになった真ん中の女のようなものだ。ザイルの下を切れば自己愛(エゴイズム)、上を切れば自己犠牲だ。愛とはそもそも、この命ガケの力学をはらんで本質的に過剰なのだ。愛は奪い、あたえる。そこに等価交換なんてない。キリストの受難をおもうまでもなく、究極的には絶対的な神への愛が問われる。信じたからといって奇跡の羽根がはえるわけではない。そもそも日本の風土、社会、歴史に絶対的な神はいないから、ひとつの決断を支援する声などききようがない。
増村の答えはこうだ。下のザイルを切れ。じぶんを救え。そしてじぶんを救った以上、のこるザイルを運命の糸とみなして上の男を、自己愛以上の渾身さで愛せよ。愛せぬのなら、あの絶壁で宙づりの中間にいたときに選択すべきだったいまひとつのことを、つまり上のザイルを切れ。それこそ神に支援されぬわが愛の作法である、と。
ラスト、雨に濡れそぼった女の姿はもうすべてをしめしている。これは意志をみなぎらせた姿だ。上から下へと落下する雨にうたれた彼女は上から下へと落ちる水滴をしたたらせてたたずむ。愛の力学に生きる女にとって、傘のような躊躇などなんのたすけにもならないのをしっている。ザイルが切れたら落ちるだけだ。いままさに上の男がザイルを切ろうとしている。だったらじぶんでザイルを切るのだ。
これはだれがなんといおうと愛おしく、雄々しい行動だ。こんな窮極の葛藤、決断を二度しいられた女を若尾文子がみごとにえんじる。そして上の男の不決断の葛藤を川口浩もみごとにえんじている。若尾文子は川口に懇願する、だが別れが必然としると、壁に、手すりにすがりながら一階へとゆるやかに落ちてゆくしかない。
若尾文子は壁ぎわの女だ。彼女は非難の視線(人目)にさらされる。世間(街)も、法廷も、そして自宅でも、壁ぎわでひっそりとたえるしかない。おまえには高い壁の刑務所がお似合いだ、と。高層アパートの部屋こそ、彼女にとって防壁をめぐらせた愛の家となるはずであった。だがあくまでも人目を気にする川口にはそれにたえられなかったのも当然であった。かれは絶壁で窮極の決断をしなかった、できなかった男だ。
そもそもこの問題は、下の男小沢栄太郎がしくんだのだった。小沢の計画ではじぶんが上の男となり、川口を下の男として、妻であり不貞をしていると疑念する若尾に、残酷な選択をさせるつもりだったのだ。上を切れるものなら切ってみよ、と。じぶんが下の男になったのは皮肉だが、かれもまた愛の観念に生きたことはまちがいない。
かように徹してロジカルな脚本を壁、背中を前景にはいした構図のなか、増村は若尾をもって追求する。若尾はおそろしいまでに体現する。増村も戦慄しただろう。絶壁は法廷であり、ハイキーな空、街であり、ようするに全編である。
あなたは増村のつきつけるこの難問をどう解く=切るだろうか。ありえない問いだという声も、増村は用意している。冒頭、それらしく空の光線をたしかめてカメラをまわす男、視線をなげかけるものども、マスコミ、大衆だ。かれらはほどよいリアリズム、俗情で愛の観念をもてあそぶだろう、と。むろん、こんな問いは解きようもないのだ。わたしたちは残された十分間を永遠として生き迷うほかないのだ。そうではなかろうか。
追記、あの愛の家はのちに、『清作の妻』『赤い天使』で実現する。増村=若尾のなんという追求力かと感嘆せざるをえない。が、愛の家で川口の変心をかんじた若尾の、すがりつくセリフ、身ぶりのひとつひとつがもうなんというべきだろう、哀切、悲痛、官能的で畏怖。ああこわいかお。ザイルの細かな繊維がぷつん、ぷつんと切れていく。
投稿日
2020/04/09
レビュアー
せいちゃん※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。
妻は夫を、殺意あって殺したのか、緊急避難として殺したのか。
戦災孤児で苦学生の教え子をレイプして(傷物にされた=結婚するしかなかった貞操観念の時代に)むりやりに嫁にし、秘書としても女中としても使い倒す親子ほどに年の離れた汚いオッサンにでも、夫だったら貞節を尽くさなければアカンとされていた……それが昔の女の貞女の道。アホか。
若くて、美しくて、聡明で、でも孤独で惨めな生活を送ってきた女が、二枚目の若い男に同情を向けられて、狂ったように愛を燃え上がらせ、彼の愛を求める。
愛に慣れていない人間の愛の、周囲のことなど何も考えていないアンバランスさ、火の玉のような愛の狂気が、やっぱり増村だね!
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