氾濫

若い若尾文子にドッキとした俺

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イントロダクションに「原作者・伊藤整自身が映画化不可能と述べた長編小説を」とありますが、もっとリアルな人間が描き込まれた小説なんでしょうかね。映画は90分少々の時間にまとめるために人間描写はかなりデフォルメされています。華道のオカマ先生・伊藤雄之助、ピアノの家庭教師・船越英二なんてところは、ほとんど漫画的とも言って良いほどにその最たるもので、重要な役所を担う青年技術者・川崎敬三に至っても出世のためには手段を選ばない人間の一面性しか描写されず、シリアスなドラマと言うよりもナンセンスなコメディという感触さえ漂います。川崎敬三・若尾文子の映画館でのデートなどはほとんど痴漢の触り方ですし、寿司屋の二階で往復ビンタで張り倒して言うこと聞かせちゃうし。(^^;)　一方、主役の佐分利信は鈍重で寡黙な人物描写で、テーマ音楽と相まって重苦しさを引きずっています。
饒舌な川崎敬三と寡黙な佐分利信との対比がもちろんテーマの表現ですし、狂言回しに描かれる脇役たちがテーマを形作りますが、それとは別に、このコメディとも思える脇役達のデフォルメされた軽さと、重苦しい佐分利信の描写の対比も演出の狙いなんでしょうね。昭和30年代半ばの何処か薄汚れたような情景や暗部を効かせた照明も、このコメディのような描写とミスマッチングを奏でますが、何かそこに風刺の一面としての演出効果を狙ったのかもしれません。デフォルメした人間の中に見るドライな感触と、日本映画的な重苦しくねちっこい感触をミックスさせた中で新たな感覚を狙ったのかもしれませんが、私的にはそれが功を奏したとは思えないんですよね。
ラストシークエンスでは、研究室に戻った佐分利信の笑顔と、社長令嬢を射止めた川崎敬三の笑顔が直結もされ、佐分利信の中に内在する欲望も並列として扱われ、人間の欲望の深さが改めて強調されますが、演出的な不協和音に対する収束は最後まで成されません。全体的にはなんだか煮え切らない違和感を非常に感じる作品でした。
もしかして、その収束の無さも「氾濫」ですか？(^^;)

ちなみに、DISCASの製作年度は1956年となっていますが、増村監督9作目の作品で1959年の誤りです。年間4本のペースで作ってるんですね。(^^;)

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それぞれが、現状に不満を持ち、どこかでその鬱憤を晴らそうとしている。全篇にわたって流れる音楽が、その心情を表しているようで、もやもやした雰囲気を醸し出しています。
お金のための研究ではなく、純粋に研究をしたい男（佐分利信）。
仕事一筋の主人に愛想を尽かし、他に楽しみを求める妻（沢村貞子）。
出世のために女を利用し、女に手の早い男（川崎敬三）。
利益のために、研究者に敬意を払わず、お金だけ払って働かせる社長。
一人一人が不平不満を言って、好き勝手な事をしていたら、世の中は成り立たない。現状に満足して生きることも、人生を過ごしやすくする一つの方法だと思わせる映画でした。

５０年も前の映画なんで、一瞬おとなし目な作品と思ったけど、ほんと人間の欲望がまざまざと見えてきて、結構見入ってしまいました。
今だったら、もっとストレートに表現するかと考えたら、リメイクしても面白いもんになると思う。
でも、よく考えたら５０年前。でも今も当たり前に社会的現象としてある事を思うと、今も昔もそんなに変わってないのかな？と感じさせられました。

　工業用の特殊な接着剤を発明し，一介の技師から重役にまで上り詰めた真田佐平。しかし，この出世によって，家族や彼の周囲の人間はすっかり変わってしまい，みなが彼の金目当てで近づいてくる。しかも，さらなる研究成果がどうも見込めないとあれば，すぐさままた見捨てるような現金さで。

　そんな中，十数年ぶりに再会した愛人と，再び関係を取り戻した真田は，そこにいまだ変わらぬ愛，最後の安らぎの場を見出すのだが・・・。

　金の卵を産まなくなればあっさり捨てられる技術者の悲哀。自分がのし上がるためだけに女を替えていく，若い貧乏研究者・種村のどす黒い野心。学問とビジネスが交差するシビアな世界を描いている。

　原作には，接着剤の発明に至る間での涙ぐましい努力がもう少し詳しく書かれていたような気がする。