ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

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キューバの生まれながらのシンガー、イブライム・フェレール。
深い皺の中にも愛敬のある笑顔が印象的なのですが、ライ・クーダーに見出される前は、靴磨きをしていたとか・・・
音楽は続けていたものの、食べていけなかったからだという。

９２歳のギタリスト、コンバイ・セグントは、いつも帽子と葉巻は手放しません。ダンディな彼は「６人目の子作りに励んでいるところさ」などと笑っています。
名前は忘れてしまったのですが、歩く姿はよぼよぼなのに、いざピアノに触ると凄い。

かつてキューバで一世を風靡した老バンドマンたちが、ライ・クーダーの呼びかけのもとに集まり、再びキューバ音楽を奏でる。
彼らにはストーリーがある。
一人一人が、音楽観、人生観を持っていて、それぞれが語る人生は、決してハッピーとはいえないのかもしれないけれども、陽気に歌い楽しそうに演奏している姿は、とても幸せそう。
豊かさって何なんだろう？と考えさせられてしまいます。

スペイン風のはがれ落ちた建物や、道路、決して豊かとはいえないハバナの町並み。
あまり描かれたことのないハバナの横顔と、若くはないのに彼らの光輝く目と、キューバ音楽と相まって素敵です。
忘れられた往年の名プレイヤーたち。なかなかカッコイイ。

喫茶店で聞こえてきた男女の会話。

　「お勧めの映画はある？」
　「『ブエナ・ビスタ』がいいよー。あたし、すっごい好きー」
　「オレ、あれ観てて寝ちゃった。」
　「うそでしょ？あの映画で寝れるなんて信じられなーい！」

そんなに「！」マーク付きのテンションで押す映画か。
どこに感動したか言ってみろー！と問い詰めたいものだ。


この映画は、カーネギーで行われたライブ映像と、メンバーへのインタビューが交互に流れる形で進む。
メインボーカルのおばちゃん、おばちゃんと呼ぶには、かっこよすぎのおばちゃん。
彼女に対するインタビューは街を歩きながら行われる。
街を歩きながら、街に聞かせるように、自分の持ち歌を歌ってみせる。
その歌に、街にいるフツーのおばちゃんが呼応するように歌い出す。
そして、即興の掛け合いを演じる。
歌が密着してる街って感じで、この場面はよかった。

けど「！」をつけるテンションになることはない。
その無理矢理のテンションが似合わないのは、あの南米の暑さのせいかもしれない。

ブエナビスタはどこに出ているの？

キューバに実在した音楽クラブ「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の名を冠したバンドの演奏と収録の模様に、バンドメンバーの過去を語るインタビューシーンを重ね、更にはキューバの町並みとそこで暮らす市井の人の慎ましい生活風景をも被せ、全てが混然一体化して、観る者の魂を浄化するかの安寧をもたらすドキュメンタリー作品。

バンドの音楽の多くは男女や生まれ育った土地への愛情を帯びた詩で、それはキューバという国の持つ反骨精神と共に生きた、過酷ではあるがここでの暮らしに誇りと友愛を持つ人々が、生命のリズムを音楽として表現したのではないかと思う響きを感じる。
彼等は幼き頃より音楽と共に生き、それは音楽家の家系であったり歌好きの両親に育てられたりしたとかではあるが、共に持つのは音楽が好きだという単純な理由。しかし、その多くは生活の困難に音を奏でることをやめ、つつがなく生活を送るための日銭を靴磨き等の雑役に求めることを余儀なくされる現実を送っていた。そこにアメリカのギタリストよりレコーディングの依頼が入り、散り散りになっていた彼らは再び集うこととなる。それは天からの恵みのようではあるが、彼等の音楽を愛する魂が呼び込んだ、まるで宿命であるかの再会となるのだった。

彼等の音楽は世界的にヒットし、カーネギーホールでコンサートを開催するまでの人気を博す。それは彼等の音楽が多くの人の共感を得たことで、彼等の歌に貫く愛情、彼等の土地と共に暮らす人々への賛歌が万人に届いたからである。ゆったりと時に強く刻むテンポは、波のようであって生命の脈動とも感じられ、この心地よさがすっと胸に沁み込んでくる。
彼等の演奏風景は常に笑顔に満ちていて、それは音楽が呼び覚ます楽しさに喜びが溢れ出すかの光景となり、見ているこちらにもその楽しさが伝わり自然と笑顔になってしまう。
そこに被さるのはインタビューでの彼等の過去と、原色に溢れ色彩的には賑やかではあるが寂れた佇まいを持つキューバの町並みで、それらの相乗が鑑賞に深い余韻を生むのであった。カラフルな塗装が剥がれ朽ちかけた建物と、彼等の顔に刻まれた深い皺に、歴史と哀愁と執着と誇り、それらが混然とした気高き愛情を感じてしまうのだった。

何度繰り返し見ても飽きることはなく、その度に感じる込められた愛情は、民族音楽として万人の持つ当り前の精神に触れてくるのです。
それに癒しを受け、日々消耗して足りなくなる、元気と愛を充電してくれる良い作品と思います。★４．６個。

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ライ・クーダーといえば、同じくヴェンダースの「パリ・テキサス」の粘ったいような伸びやかなようなスライドギター。
彼がキューバ旅行で出合った音楽に魅せられ、忘れられた往年のミュージシャンを集め結成したバンド。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」

元々ラテンミュージックに興味もないし、最近の高齢者映画にいささかうんざりしていたのに、何気なく手に取ってしまった本作。
一曲目からガツンと来た。
好きな女に会いに行く男の歌
何しろ80才や90才のミュージシャンが
「涎が出るほどお前が欲しい
干しサトウキビをどけて座らせてくれ、あの子に会うまでこの身がもたぬ」だもんね。色っぽくてドキドキそして人生が見えてジーンとする。
ああ、こんな時、音楽を語る言葉を持ってないことが、ものすごく悔やまれる。彼らの体から音楽がほとばしってる感じ。

革命・共産主義のなかでの音楽活動は山有り谷有り、苦労が多かったことを思わせるのだけど、ハバナの雑然とした街や、暮らしを見せ「厳しい時代だった」というものの、誰も不遇を決して愚痴らない。
変な例えだけどいくらいい音楽でもNHKの懐メロ番組で苦労話のナレーションつけて歌ったんでは、そんなに感動しなかったと思うのよね。心置きなく奏でられる事に至福を感じているかのようで、返って胸がジーンとした。質素で風爽としている。オープンカーやサイドカーつきのバイクもヴェンダースらしく風を切って、心地よさを運んでくる。いいわあ。

こんな風でまるでご紹介にもならないのだけど、とても素敵な時間を過ごせましたので。
是非見て下さい。聞いて下さい。どうぞ。