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その独特の映像感覚。冒頭から張り詰めた緊張感でグイグイと物語に引き込まれていきます。とても不思議な魅力がある映画です。

映画の題名のπ（パイ）。文系の私の頭ではとても理解できない不思議さ。無理数、超越数であり小数点以下は無限に続くそうだ。一見なるほどと思うが良く考えるとコンパスで円を書くと当たり前のことだが円が書ける。でもそれを数字で表そうとすると近似的には表せても正確には出せない。以前何かの拍子に物を際限なく半分にするとどうなるのかと考えていた時と同じように頭が痛くなる。知り合いの大学教授にその時は尋ねたのだがどういう説明を受けたかまったく覚えていません。おそらく理解できずにいたのでしょう。
主人公の知人の数学者はπを研究するうちに216桁の数字に行き着く。また主人公は株価の法則を探るうちに同じく216桁の数字に遭遇する。この216桁の数字がこの映画のキーですが、いったい216の数字とは何を意味しているのでしょう。映画の中では宗教家は「神の名」といい、主人公の恩師の数学者は「死」を暗示していました。「216桁」は諸説を見ると獣の数字666（6×6×6）を意味しているのではということです。またこの666という数字もかなりおもしろい数字のようで三つの数字、(216, 630, 666)はピタゴラスの定理を満たし、書き換えると(6・6・6)(6・6・6) + (666-6・6) (666-6・6) = 666*666になったり、円周率の最初の144(=(6+6)(6+6))桁の数字の和は666だったりと、ちょっとこじつけくさい感はありますが謎の性質が数多くあるそうです。

この映画別に数学に興味の無い人でも大丈夫です。「ビューティフル・マインド」や「グッドウィル・ハンティング」のような感動のヒューマンドラマではないサイコな天才数学者のサスペンス。この映画を見ればあなたの脳も刺激されること請け合いです。

モノトーン映画時代の”ノイズ感覚”を上手に操り、不安感や、時間感覚をたたき壊す、斬新な手法の映画だ。自作のスーパーコンピューターで、株式操作をするという設定がバカバカしくてあきれたが、その安っぽさに一貫したものを感じられ、却ってこの作品の魅力になっている。（第一、右から左に流れる株式チッカーを眺めて「俺は株の動きが読める」とか言わせるなんて、バカとしか言いようがない。サイエンスフィクションとして見ると多くの視聴者に怒りを買いそうだが、ファッションとかサウンドという面でみれば許せるのかもしれない。）
今、レビューを書きながら、この作品のライナーノーツを読んだのだが、「サンダンス映画祭最優秀監督賞」などを受賞していることに驚いている。どうやら創造を絶する低予算でこの作品を作り上げた功績が表されているらしい。

この世の中に存在するもの全て、数字に置き変えられるって、普通の数学者でも思ってるんじゃないかと思う。解明することで、自分が神の領域に達する「快感」は、なにものにも変えられないんでしょうね。そんな感覚を暴走させた男と、それを利用しようとする人間達のサスペンス、本当に精神的に迫りくる感じがしました。この映画の公開時期、何者かによって、路上に”π”のマークが氾濫したのもうなづけます。

数字を操るものが、世界を制するという発想が面白い。今まで体験したことのない世界です。「マトリックス」の主人公もそうでしたが、今世界制覇を果たせるのは、政治家でも宗教でもなく、数学オタクかパソコンオタクなのでしょうか？（どちらにも疎い私は、世界制覇の可能性ゼロ。）元文学少女の私は、世界はそんなに割り切れるものであって欲しくないなあという気もしないわけではないですが…。

あえてモノクロというのが潔い、というか確信犯的な映画です。画面の切り口がどこも美しく、観賞用としても十分に耐えます。筋としてはちょっとキてるというか、終わった後でスッキリする類の作品ではないように思えるのですが、芸術性に触れる気持ちで味わうのには楽しめる映画ではないかと。ホラーではない癖にある意味とっても怖い「撮り方」もぜひ見てみてください。(笑)