ワイルド・アパッチ

居留地から逃亡したアパッチの追跡劇をじっくりと描く、サスペンスフルなウェスタンです。
　あからさまな表現こそ少ないものの、すでにマカロニ・ウェスタンを経験した時代のものですから、やや重苦しく、きれいごとで済まないハードな展開に手に汗にぎることになりました。
　バート・ランカスターは、やはりアルドリッチと組んだ西部劇でのガンマンやインディアン役とはうってかわって、アパッチの生態を熟知し、騎兵隊を導く案内人といった役どころ。
　その知識と経験で、やはり才に長けたアパッチのリーダー、ウルザナと頭脳戦を繰り広げることになりますが、その駆け引きの面白さが本作の大きな魅力のひとつです。
　また、天候や地形を利用した双方の作戦がよく分かるのは、監督の手際のよさというべきでしょう。
　作品成立の背景についてはまったく知識がありませんが、諸般の事情からウェスタンが作りにくくなっていた時代の作品です。
　ランカスターとアルドリッチは、そういう時代でも（実話を元に！）面白いウェスタンをつくり得ることを証明したかったのではないか、そんな気がしました。８０点。

ちょっと期待が大きかったため少し物足りなさはありました。
あと10分ほど延ばしてお互いの地理的、空間的関係やら把握できるようにしてあると良かったかな。
でも、西部劇が好きなら十分に楽しめる映画でしょう。
マッキントッシュが寡黙でつまらないことを語らないのがいいですね。ラストもなかなか。

冒頭の野球の場面が興味深かったですね。
時代的にはなんとかつじつまが合うんでしょうが、西部劇で野球のシーンを見たのは初めてだと....多分。

同じくバートランカスターを擁した自作“アパッチ”を逆の視点から描いた本作。
アパッチも悪くないんだけどね、間違いなくこちらの方が面白いです。

ウルザナ率いるアパッチ軍とのかけひきがエキサイティングな追走劇が、青年少尉を中心とした心理ドラマも絡んで展開する。
その中でアルドリッチの陰惨な一面も非情な暴力描写（行為ではなく結果だが）として多く現れます。
単なる娯楽追走劇という印象はありません。

物語の緩急のつけ方、身体の躍動感、そして男心を刺激する演出、このあたりのさすがの力量でしょう。
アルドリッチの他の多くの作品と同じく、是非とも男性に観てもらいたい作品です。

途中ケ・ニ・タイを含むアパッチの顔が判別出来なくて混乱した部分もあったんだけど、その辺りはおいらの集中力不足でしょうか。
まぁ全てを総合して、傑作と言ってよい作品だと感じます。

星４，５

「ベルクルス」とは打って変わったアルドリッチらしい不穏不逞な異色西部劇。
「マンディンゴ」でフライシャーが奴隷制度というアメリカ史の恥部を暴き出したように、先住民を征圧して形成されたアメリカという国の、憎悪と暴力に彩られた血まみれの凄惨な歴史を語る。虐殺、死体損壊、拷問、レイプ、目を覆いたくなるシーンがけっこうあるので注意されたい。
でもこれは実話だということ、牧師の息子のデヴリン中尉ではないけれど、神はご自身の似姿として人間を作ったのではなかったか、と嘆きたくなる。
物語はシンプル。アパッチ族の戦士ウルザナ（ホフキン・マルティネス）が仲間を率いて居留地から出奔した。このままでは白人が襲われる。若いデヴリン中尉（ブルース・ディビソン）に率いられた騎兵隊が追跡する。斥候として同行するのはアパッチに詳しい中年男マッキントッシュ（バート・ランカスター）とアパッチ族の通訳ケ・ニ・ティ（ホルヘ・リューク）。狡猾なウルザナは騎兵隊を翻弄し入植者を惨殺、ついに二手に分かれた騎兵隊の一方を全滅させることになるのだが…
最初はアパッチ族の残虐描写の激しさに、ポリティカル・コレクトネスを著しく欠いているじゃないかと反発した。そもそも先住民の土地と生活を奪ったのは白人ではなかったのか。抵抗するのは当然だ。この映画には侵略者・略奪者としての白人の姿はあまり描かれていない。
しかしデヴリン中尉がケ・ニ・ティになぜアパッチはあんなことをするのかと問う場面で、反発は驚きに変わった。
アパッチは「相手からパワーを奪うために殺す」「殺すのは男だけだ、パワーが大きいから」「相手が苦しむのを見ていればパワーが得られる（拷問の理由）」
女・子ども・老人ばかりの居留地で淀んだ空気を吸っていたウルザナは、新しい血が、パワーが欲しかったのだ。
とても共感はできない。でもあり得るかもしれない。血に陶酔するこの気風はニーチェが言うディオニソスの祭礼の興奮に似ている。アパッチには彼らなりの考え方、美学があるのだろう。野蛮はあるいは高貴に通じるのかもしれない。ホルヘ・リュークの信じられないほど美しい顔立ちを見ているとそんな気分になってくる。
そしてウルザナも気高い最後を遂げる。アルドリッチはもしやこの野蛮の高貴に秘かに惹かれるところがあったのかもしれない。
白人もまた復讐にかられて死体損壊をし、クリスチャンの中尉はいつでも上から目線で先住民を見下していると、映画はさりげなく伝えてもいる。物語は単純であってもそこに盛り込まれている精神は単純ではない。わかりあえないから憎み合い、殺し合い、憎悪と復讐の連鎖は永遠に続く。それでいいのか。
この映画、ベトナム戦争に対するアルドリッチの異議申し立てだという解説をいくつか読んだ。
肯ける。アパッチの戦士はどこか、「地獄の黙示録」でカーツ大佐を感動させた非情に徹底的に戦い抜くベトコン兵士に似ているからだ。地の利を知り尽くした狡猾な戦いぶりも同じ。命を惜しまぬ攻撃はアメリカ兵にとっては理解しがたくそれゆえ恐怖の対象であったのだろう。残酷な行為とスピリチュアルな行為が一体化したアパッチへ白人がいだいた恐怖と似ている。理解できないから憎悪し恐怖し殺戮を繰り広げる愚かさを警告したかったのだろうか。
バート・ランカスターは「山猫」の老貴族のようだった。滅びていく運命、アパッチも自分も、を悟って若いデヴリンを認め励ます。こちらも立派な最期だった。
そして私が一目惚れしたホルヘ・リュークの、出自はどうあれ契約した仕事は果たすという潔い態度もよかった。

感想･総評：追う者、追われる者の駆け引きは面白い

対象年齢：高校生以上（残酷場面あり。Ｈ場面はないが、それらしい表現はあり）

食事中に見られるか：やめた方がよい