モリツリ　南太平洋爆破作戦

　イントロダクションからは想像しがたい、味わい深い戦争映画の秀作です。『モリツリ』（原題同）は南太平洋あたりの島か何かの名前と思っていましたが、冒頭の字幕によると、ローマ兵がカエサルにささげた「我死地に赴かん」というラテン語のようです（自信なさげ）。
　１９４２年、亡命ドイツ人マーロン・ブランドは英軍情報部に弱みを握られ、ナチ親衛隊に偽装してドイツ輸送船に乗り込み、破壊工作を行う羽目になる。その輸送船の船長ユル・ブリンナーは、内心ナチに反発しているものの、ドイツ海軍艦長となった息子の立場もあり、内心ある葛藤がアルコール依存となって表れている。
　こうした、心の真実とは裏腹な言動を強いられている二人の緊迫したやりとりが、豊かなサスペンスを生み出しています。

　心にもない言葉、そこから生まれる誤解、ウソに気づく者と気づかない者・・・、ひとつのシーンにいくつもの物語が重層的に表現される。映画の豊かさを感じる瞬間ですが、登場人物の「心の動き」と「身体の動き」が一致しすぎていて、単純な記号めいた一直線の物語しか描けていない映画にはあまり惹かれません。

　輸送船の船倉や機関室の明暗のコントラストの強さ、息苦しいまでの閉塞感の表現は、普通のハリウッド映画とは一線を画します。この作品の監督ベルンハルト・ヴィッキは、ザナックの『史上最大の作戦』のドイツ・パートを担当した人ですが、忘れがたい戦争映画『橋』の監督でもあります。
　戦前からの名優で（この後にもいろいろ有名な作品に俳優として出演しています）、灰燼に帰したドイツ映画界の戦後復興に尽力した人だそうですが、『橋』は、連合軍の反攻に合い降伏間近のドイツの田舎町で、急遽徴用された七人の少年兵の、『プライベート・ライアン』もかくやという壮烈な悲劇を描いた名作です（半世紀前の作品ですが機会があればぜひ）。
　『モリツリ』に見られるハリウッド・エンタテインメントの枠組みと、ドイツ表現主義の流れを組む演出、さらには強烈なインパクトを与えるユダヤ人少女の悲劇。監督の履歴を考えると、より感慨深いものがありました。７０点。

第二次世界大戦時に、日本からヨーロッパへ生ゴムを輸送するドイツ貨物船を、英軍が奪取しようと工作員を送り込むというヴェルナー・ジョーグ・ルーデッキの小説を映画化した異色戦争映画です。
サスペンス性と意外性に富んではいるのですが、どちらかといえば心理戦がメインとなっています。特に、マーロン・ブランド扮する反ナチ思想をもつ男クレーンが、英国情報部から命を受けたスパイであることが、見破られそうになるトークシーンは‘ハラハラ・ドキドキ’です。　結果、見破られるのですが、その場を余裕と貫禄の表情で切り抜けるブランドの演技はさすがです。　
もう一人の主人公がユル・ブリンナー扮するミュエラー海軍大佐で、貨物船インゴ号の船長なのですが、こちらは頑固一徹、こうと決めたらテコでも動かない‘堅物’ぶりがブリンナーに似合った役柄です。
２人とも実に味わい深い。そこに絡んでくるのが一等航海士クルーゼ（マルティン・ベンラート）で、彼はミュエラー船長の直属の部下ですが、思想や考え方の違いから、遂には叛旗を翻し、自ら船長の座を奪います。 ベルリン生まれの典型的なドイツ人俳優です。　そう、ドイツ人俳優といえば、抜群の存在感をみせている俳優がもう一人。ハンス・クリスチャン・ブレッヒです。（私の大好きな俳優のひとり）　６５年「バルジ大作戦」や６９年「レマゲン鉄橋」での名演が忘れがたい。
本作では貨物船の一乗組員の役で、ことあるごとにＭ・ブランド扮するクレーンに協力し、彼を助けます。
やや人間のエゴが強調されすぎたきらいもありますが、これくらいでないと‘心理戦’の効果が薄れてしまいます。
特筆すべきは貨物船の上部構造や、機関室内部の構造が実によく撮られ、シリンダーの動きなど白黒映像と相まって迫力も感じられます。　
紅一点のジャネット・マーゴリンの汚れ役は、役柄とはいえ忍びないですね。　
一瞬ですが、日本軍潜水艦の浮上シーンの記録映像も挿入されているようです。　
ところで、タイトルの「モリツリ」は、古代ローマの戦士たちが戦地に赴く時、カエサルに捧げた訣別の挨拶に由来するものらしく、「死なんとする者」を意味しているそうです。（作品冒頭に字幕紹介が出ます）