ジュニア・ボナー　華麗なる挑戦

サム・ペキンパーの作品はバイオレンスが強調されているかのように言われるのですが、どの作品もその背後に感傷的な部分が見え隠れします。この作品はその中でも特にセンチメンタリズムに満ち溢れています。
　そもそも主人公のジュニア・ボナー（スティーブ・マックィーン）こそ、センチメンタリズムに溢れた男です。郷里や家族と言うものに強い執着、愛情を心のうちに抱えながらも自分の好きな事や夢を追い続けるのを止めることが出来ない。そしてロデオの試合に参戦しながら一人孤独に旅を続けている。一見ハードボイルドに見えるが、決して孤独が好きなわけでは無く、その姿や言葉には時に寂しさが現れます。
　ペキンパーはこうした価値観を持った男を深く愛していたのでしょう。いやむしろペキンパーこそがこの主人公と価値を共有する生き方を実践したのではないでしょうか。また主人公を演じたマックィーンも趣味でレースに夢中になっていたそうで、この主人公に大いに共鳴していたといいます。ちなみにマックイーンの死因になった中皮種はこのレースの際に使用していた耐火服やヘルメットのアスベストが原因だとも言われていて、まさに自分の人生を掛けて夢を追いかけた男だったのです。
　そのセンチメンタルに溢れた主人公との対比として兄の存在があります。子宝に恵まれ、実業家でその事業も大きく成功している。センチメンタルとはかけ離れたその合理主義で弟のように感情で流される事なく、父の牧場も低価格で買い上げて転売してしまいます。
　この全くソリも価値観も共有出来ない兄弟ですが、家族としての愛情が無いわけではなく、むしろ根底には家族愛が溢れています。ペキンパーは「家族の愛情に憧れているんだなぁ」と思えます。

　ペキンパー作品としては珍しいファミリー・ドラマなので全体的には地味です。しかし描写にはペキンパーらしさも感じる場面もあります。ブルドーザーで父の牧場が破壊されるシーンはカットバックの応酬で「これでもか」という具合に破壊が行われます。
また興味深いところでは舞台背景となっているロデオですが、この描写や街の風景の描き方がドキュメンタリータッチになっているところです。このあたりはよふかしさんのレビューにもありますがロデオのシーン自体には大きなドラマがあるわけでは無く背景になっていますが、私は家族の物語を主軸として強調するため敢えてドキュメンタリータッチにしてロデオカタログのようにしたのではないかと好意的に考えています。ロデオを知らない私にも「ロデオってこういうものなんだ」というのはよく伝わってきました。むしろこのロデオを背景にしてしまう事によって、別にこれがオートレースでも、アルピニストでも舞台は重要ではなく、「この男の生き様ってやつを観てくれ、これが俺の価値観だ」ということをペキンパーは伝えたかったのではと思います。

　興行的には大失敗に終わったと言うこの作品ですが決して悪くないと思います。むしろペキンパー作品としてのダイナミズムさへ期待しなければ、彼の作品の中でも面白い作品に入ると思います。どちらかと言うとペキンパーがあまり好きではないと言う方に強くお勧めしたい映画です。

　ペキンパーとマックィーンの組み合わせに、激しいアクションを期待すると肩すかしをくう。これは、アクション派、バイオレンス派とみなされることを嫌った監督と主演俳優の思惑が一致してできた、じつに７０年代的なホームドラマなのだった。
　かつてのロデオでならし今なお夢見がちな父親、夫としっくりいっていないが色香を残す母親、現実的で父親や弟のような生き方に批判的な兄。主人公である弟は、やや盛りを過ぎつつあるロデオのチャンピオンだが、なお各地を転々とする浮き草生活。
　地元で年に一度の大会が開かれ、四人の家族が久しぶりに顔を合わせ、喧嘩したり仲直りしたり触れ合って、またそれぞれの道を歩んでいく。そういう静かな家族の数日間を、抑制を効かせた演出で淡々と描いている。
　同じペキンパーの非暴力映画でも、『ケーブルホーグ』はお伽噺だったが、本作はリアル志向。実際の独立記念日のパレードやロデオ大会に俳優を参加させ、それを各所に配置したカメラで追う。自然、手持ちカメラの揺れや望遠によるショットが増え、ドキュメンタリー風である。
　ペキンパーのいつもの主題である「失われていくものへの哀しみ」は、本作では希薄だ。むしろここでは、「変わらないものへの慈しみ」が主旋律となっている。それはまあ、言葉にしてしまうと陳腐だけれど、家族の絆というやつだ。そういうものにしらけない人は、僕と同じようにきっと気に入るんじゃないかと思う。
　ひとつの問題は、ロデオの魅力をほとんど伝えられていないで、ただの背景に過ぎなくなっていること、またひとつは例のスローモーションなどのペキンパーの手法が、本作ではまったく生きていないことだ。複数の場所で同時進行する出来事を同時に見せてくれる、つまりは大状況を俯瞰的に見せてくれる手法と言えるのだが、本作では物語のアクション不在を補うためであるかのように、ロデオの演技の数々を寸断し、散りばめているに過ぎず、それはむしろ後年のＰＶ的手法に近い。
　唯一感動的であったのは、大会の開会式で馬を駆るベン・ジョンソンの入場を捉えたロングのスローモーションだった。アイダ・ルピノなど俳優は素晴らしく、６０点。

本当にいいな、と思える数少ない秀作のひとつです。
マックイーンが抑えた静かな演技ならペキンパーも実に暖かい演出で「ゲッタウェイ」とは全く違う世界です。
１７歳の頃、これを観てから約３０年振りの再会でしたが、色褪せるどころかまた涙・・・

バイオレンスの巨匠ペキンパー監督作品で誰も死なない映画を初めて見ました。

時代遅れな主人公が変わってしまった故郷に幻滅する序盤は、嫌な奴とか出てきて悲惨な事になりゃしないかと心配してしまいましたが、なんとも肩透かしを食らう素敵な登場人物達の素敵なドラマでした。

アメリカ南部、ロデオと、少々マニアックな設定で地味な展開なので一般受けは絶対しないでしょうけど、全然退屈はしないっすよ。

それにやっぱりマックイーンはイイです。序盤のピークを過ぎた冴えない時代遅れのカウボーイが誇りと自信を取り戻していく様がいいです。父ちゃんも兄ちゃんも母ちゃんもいいです。

軽妙なエンタテイメント映画に飽きた人にお勧めの素朴なドラマです。

同時代のアルドリッチやシーゲル、イーストウッド、フライシャー等が持つ厳しさに比べると、やはりペキンパーは甘い。しかし、その「甘さ」が「寛容」「優しさ」と転じてどうしようもなく胸を打つ部分が確かにあるのです。
本作の開会パレードの様子や、酒場でのダンスから乱闘へ到るまでの幸福感はどうだろう。時折興ざめなスローモーションもありますが、これはペキンパーでも特に好きな作品の一つ。