暗殺

俺はヒットマンを知っている！私生活が謎だ

　奇しくも、以前にレヴューした工藤栄一監督の『大殺陣』と同年の作品である。あの映画も６０年安保の影響が見られたのだが、本作にも動乱の時代としての幕末との重ね合わせが窺える。
　特に主人公に清川八郎を据えたのは、彼が尊王攘夷運動と幕府との間で巧妙に（本人はそう思っていただろう。）泳ぎ回って野望を遂げようとした姿と学生運動の先鋭化とセクト間の抗争など混沌とした社会の動きとのリンクとでもいう側面も感じる。
　面白いのは、清川八郎を描くのに本人の行動ではなく彼に関係した人々の言葉により、その人物像をあぶりだすという方法である。しかし、それは清川という人物のくっきりとした像を結ぶことを目的としていないように見える。
　というのは、彼を評する言葉が語る人物ごとに異なるからである。例えば、幕吏に追われる発端となる目明しの首を切断するという事件であるが、ある人物は清川が十分に人を斬った経験があると言い、ある人物は畳水練だと言う。さらに彼が殺しを楽しむ異常者だという証言があるかと思えば、人の命を大切にする人間だという言葉もあって、次第に清川八郎という人物の輪郭がぼやけていくようにできている。
　この映画に出てくる主要な人物は皆、何かにとり憑かれているようにも見える。木村功演じる佐々木只三郎も道場で清川と立ち合い、二度の敗北から清川を殺すことに異様な執念を見せる。主人公の清川も、幕府と尊王攘夷の志士との間を駆け巡って幕府の資金を使って尊王活動を行うというアクロバティックな陰謀を実現する。
　それにしても豪華な面々である。主役の清川八郎に丹波哲郎、その妾に岩下志麻、ナレーションと松平主税守に岡田英次、坂本龍馬に佐田啓二、山岡鉄太郎（鉄舟）に穂積隆信、他に私の好きな日下武も寺田屋事件の薩摩藩の武士として出ている。蜷川幸雄が出ているそうなのだが今の顔しか知らいないので探しきれなかった。あとまだ売り出したばかりだろう竹脇無我が出ているが、先生と呼ぶ清川にあっさり斬り殺される若い武士という役で、あまり為所がない。
　それから、ひとつ気になったのが登場人物が二人称で呼びかけるときに、よく「君」という言葉を使うことである。この言葉は本来、長州訛りで彼の地では「君」「僕」という言葉を使っていたが、これが全国に広まるのは明治以降であろうから、特に幕臣である山岡鉄舟が使うのはおかしいと思う。考証を知っていて学生運動との重ね合わせの効果のために故意に使っていたというのなら別だが。
　断ち切ったようなラストも気に入った。ちょっと規格外の時代劇だろう。

清河八郎が主人公って渋いなと思って借りて見ました。
映画の出来自体はそまあれなりという感じですが、清河八郎が丹波哲郎という配役だけは非の打ち所がないほど素晴らしい。

丹波哲郎の名前に引き寄せられるように借りましたが、古い邦画ですよね。最初の20分ぐらいで飽きてしまいそこで終了となりました。