死亡遊戯

「死亡遊戯」（1978年、香港、カラー、105分）。

早逝したから天才として歴史に名刻できたのか、もっと生きていてくれたら、さらに素晴らしい映画を作ってくれたのか……。
この映画の見どころは、ブルース・リー本人が出演しているアクション場面のみ。

ブルースは、「ドラゴンへの道」（1972）のあと、この映画の主要な格闘場面を撮影したが、唯一の傑作「燃えよドラゴン」（1973）の米国資本のオファーが入り、中断させて、「燃えよ」の撮影に向かいます。
「燃えよ」の撮影後、配給前に、彼は、薬物死します。「燃えよ」の世界的な大成功をみる前でした。
世界は彼に注目し、彼の香港時代の作品「危機」「鉄拳」「道」が公開され、ヒットしますが、「燃えよ」ほどの衝撃はありえません。この「死亡遊戯」は、前作とは異なり、未完成フィルムを使った補完成作品ということです。さらに劣化した別作品に「死亡の塔」があります。

「燃えよ」と同じ、ロバート・クローズ監督を起用。「燃えよ」で重要な役を演じたボブ・ウォール、情けない役を演じたジェフリー・ウィークスも出演しています。ドラマ部分は、情けないほどにつまらないですが、
「ドラゴン怒りの鉄拳」（1972）の撮影、最後の撃たれる場面で、真の弾薬が使われ、主人公が死んだことになるということは面白いと思いました。ブルースの実子・ブランドン・リーが、1993年、「クロウ／飛翔伝説」の撮影中、銃撃シーンで、模擬弾を腹部に受け、失血死したことを思い出したからです。

さて、肝心のアクション場面ですが、見事です。
残念ながら、筋肉の筋いっぽんずつが見える「燃える」の上半身裸体ではなく、タランテイーノ「キル・ビル」で引用された黄色いつなぎのジャージを着ています。
塔の最上層にいるのは、「ハキム」という長大な男ですが、演じるカリーム・アブドゥル＝ジャバーは218センチのプロ・バスケット選手です。カリームは、スティーヴ・マックイーン、ジェームズ・コバーンらとともに、米国時代、ブルースの格闘武術「截拳道（（ジークンドー）」を学びました。
身長差50センチの格闘は見物ですが、最上階に到るまで、ブルースは、多くの敵と闘います。
最初の韓国棒術の赤鉢巻の知れ者との赤と黄のヌンチャク合戦。容赦ない殺し方が続きます。
沖縄空手の男との武器なき熱戦。
リーは、よくここまで、アジア、北米の武道家を揃えたを思います。

死後に補完されたこの映画は、おそらく、ブルースの企図していたものとは異なっていたように思います。
世界武道の交感というものが、彼の本来のテーマであったと思いますし、彼の純真な性格から推測すれば、
自分が考案した「截拳道（（ジークンドー）」の素晴らしさ、無敵度を証明したかったのではなかろうか。

この映画をブルース自身が完成させていたら、彼が生きていたら、どんなことになっただろうと思います。夢のまた夢。

ブルース・リーさん、小柄ですね。
この映画のハイライトと言える、最後の20分間のシーンを、
撮影しただけで彼は死亡したそうです。
その20分間のファイト・シーンが出色です。

敵の住宅へ侵入した主人公のビリー(ブルース・リー)が階段を一階ごとに上がって行きます。
各階に敵がいて、一人一人と対決して、やっつけて行きます。
ブルース・リー、細いです。背が低いです。
筋肉も貧弱です。
黒人の元プロバスケット選手は、ビックリするほどデカかった。
倍はありました。
技はまるで無かった。
4人の首をへし折って、最後の敵へ！！
ところが爺さん、屋上からぶら下がってるのですよ。
ビリーはロクに手を下さずに、爺さんは落下して行きます。
途中、ネオンをなぎ倒しながらの落下で、ネオンが華々しく火花を散らす。
派手なエンディングです。
ここだけで十分に楽しい。

代役は似ても似つかない。
整形手術をしたとか・・・元の顔に戻るか？
とか見え透いた嘘が楽しい。
それにしても14年後には息子のブランドン・リーが、
空砲の筈が実弾で、撃たれて死亡します。
重ね重ね惜しいことです。

甚だストーリーに重きを置く映画ではない。
ブルース・リーの戦いのシーンを見たい人にとって
長い後半の時間は至福の時かもしれない。
が、んー。ヌンチャク振り回していてもそれを武器として
使用するようには見えないし、顔を見せたくないと言った
割には月明かりに見え隠れしていたり・・・。
意味の分からないマネキン・・・。
真剣になればなるほどおかしく見えてくる。

これはアクション映画というジャンルではなく
完全にコメディ映画に属するべき作品です。
ブルース・リーの死後に
生前撮影されていた未公開フィルムと
これまでの作品で使用された様々なカットと
新たに代役を使って撮影された
ほぼ８割強の部分をパッチワークした
商魂猛々しい苦肉の「死後新作」
冒頭から笑かしよる
あの手この手を駆使して
ブルース・リーが演じているように見せるのですが
代役だということは一瞬で丸わかり
体つきも違えば
佇まいも別人だし
何より顔が明らかに違う。
しかしそのあの手この手が面白い。
学芸会か、高校生の自主映画かというレベルの
苦肉の策が面白い。
そしてそこから中盤は
明らかに別映画のブルースのカットが挿入され
背景なんてべらんめいな思い切りの良さで
全く切り抜けられてないのに
切り抜けてる感だして物語は進み
代役とわかる場面は
もういいじゃんという諦念が見えるような潔さで
似せることを放棄し
ラストのブルース本人の格闘シーンへ繋がります。
ここまでくると
そこまでの流れが大いなるフリとなって
本人の格闘シーンですら
お笑いと感じられるほどに
こちらの気分は仕上がっているのです。
ブルースの独特な「アチャ〜〜」って声も
怪鳥の鳴き声のように感じられ
おかしさを誘発するのでした。
そして観終わると
一体誰の主演映画を観ていたんだろうと思うほど
ほとんど本人は出てこないのでした。

こんな作品が
日本でだけはヒットしたという現実。
それは逆説的に
日本人は笑いのセンスが
世界各国より優れているということを
証明しているのかもしれません。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

まだ公開もされていないのにワーナー・ブラザース上層部は「燃えよドラゴン」の大ヒットを確信し、他社からはＭＧＭが、空手の黒帯だそうなエルヴィス・プレスリーとの共演話も出てくる。ワーナーの社長テッド・アシュリーはブルースと複数年契約をして「燃えよドラゴン」をシリーズ化したかった。しかし、この頃ブルースは過剰なストレスにさらされ、げっぞりやつれてしまう。そんな最中、１９７３年５月１０日、香港でゴールデンハーベストのスタジオ内でブルースはめまいと頭痛に襲われトイレで倒れてしまう。呼吸困難で痙攣を起こしたそうだ。緊急で病院に運ばれるが診察の結果は「脳浮腫（脳膨張）」と推定された。一時意識も失っていたが、徐々に意識が戻るが、余談を許さない状況だった、という。彼は倒れる前にハシシ（大麻）を摂取していた事が分かる。ロスで検査を受けた彼に意外な健康証明書が出てくる。「君の体は１８歳並だ」と云われたそうだ。この診断結果に安心したブルースは過労とストレスのせいだ、と思い込む。香港に戻ったブルースは以前、愛人関係だったベティ・ティンペイという女優と関係が再熱する。この時期、００７映画「女王陛下の００７」1本で降板しているジョージ・レーゼンビーから「死亡遊戯」に出演を要望する連絡が来る。たった1本だが一応“ジェームズ・ボンド”俳優なのでレイモンド・チョウとブルースは承諾する。この時期、ブルースは素行がおかしくなってきていた。かつて組んで、すったもんだの監督、ロー・ウェイが新聞でブルースを未だに侮辱していたそうで、懲りずにハシシを吸い続けていたブルースはスタジオでハイになっていた状態の時にロー・ウェイが来ている事を知り、激昂して彼にケンカを吹っかけていき、以前から売れてきて安全の為に護身用にベルトに隠し持っていたナイフを抜いて、ロー・ウェイに突きつけたそうだ。警察が介入する騒ぎになってブルースに、間違いを認めて二度と脅したり危害を加えない、という誓約書の一筆を書かされる。しかし、マスコミに、このことがバレて、彼は「ロー・ウェイを殺すのにナイフなど必要ない。指二本で充分だ」とコメントしたそうだ。彼はその後もいらいらして激しやすくなる。そして、遂に7月２０日、彼の最期の日がやってくる。朝、彼は自分に続々と申し込まれる映画、アニメ、出版、広告の申し込み等の契約に関する内容の手紙をタイプして代理人に手紙を投函したそうだ。その後、ゴールデン・ハーベストのスタジオに行ってジョージ・レーゼンビーに会い「死亡遊戯」の打ち合わせをした後、ハシシをスタジオの重役一人とたしなめて彼の昼食の誘いを断り、上記の愛人、ベティ・ティンペイのアパートに行って“昼の情事”にふけるつもりだったらしい。そうした後に、その日にレイモンド・チョウがブルースから、彼女のアパートに来てくれと、いう電話連絡を受ける。「死亡遊戯」に出演したがらない彼女を、チョウに説得してほしかったらしい。この日は、うだるような暑い日だったそうだ。チョウが訪れてからブルースは「死亡遊戯」のアクションを二人の前で見せたそうで午後７時半になる頃、彼女のアパート内でブルースが頭痛を訴える。これから夕食をレーゼンビーとする予定だった三人は、結局、チョウが先に行ってる、として去り、ブルースと彼女がアパートに残って彼は鎮痛剤を服用してベッドで横になったそうだ。その後、既にレーゼンビーと合流しているチョウから、アパートの彼女に連絡が入る。彼女は、ブルースはまだ寝ているが、起こしてみると、そっと寝室に入ったそうだ。小声で呼び掛けたが、目を覚ます様子がない。突然、強い恐怖に駆られ、彼を揺すぶって「ブルース、ブルース」と大声で叫んだそうだ。彼が亡くなった場所が愛人のアパートというのもヤバかった。当初は自宅で妻リンダと一緒に居た時に無くなった、とチョウ等は画策する。しかし、こんな応急対策はすぐバレた。怪しんだマスコミはわずか３日で救急車の記録を見つけ、運転手を突き止め、愛人のアパートに辿り着く。苦しい言い訳は、今度は二人は愛人では無く仕事の打ち合わせで、アパートに居た、に修正する。この本はこの新しい説明が３０年間持ちこたえた、と書かれている。マスコミはこの死因について、ありとあらゆる憶測を書立てる。麻薬、薬物、セックスやりすぎ、暗殺、毒殺。死亡原因を調査する死因審問が始まる。彼が以前から大麻の常用者なのは伏せられ、ごく最近彼が吸っていたのを知った、という展開になる。結局、一番有力な説は熱中症となった。確かに現在では室内でも、熱中症で亡くなる例は有名になったが、当時はまだ未開分野だった。彼は元々暑さに弱く、ストレス、睡眠不足、体重減、少し前に汗かきを見せない様に脇の下の汗腺を切除していた。最期にあともう1回、この本について書きたい。