緋牡丹博徒　一宿一飯

悪人は悪事の限りを尽くす。それだけにことさら緋牡丹のお竜の優雅さが栄える。

賭場での緊迫感、悪人との立ち回りでの“女お竜”の姿があまりに美しい。
この凛々しさは、あの小雪でさえ足元にも及ばないでしょう。
鶴田浩二の存在感は流石。『仁義なき』より若い頃の菅原文太の悪人役の渋い容姿も観ることができます。
“男”でなくなった西村晃を一途に愛す白木マリの直向きな心。
お竜さんにベタ惚れの若山富三郎、山城新伍と玉川良一がユーモラスな味を添えています。
『キャプテンウルトラ』（古〜）でアカネ隊員役だった城野ゆきの悲壮感漂う演技もとても魅力的です。
昔、東映太秦映画村で見つけ、「わぁ（仮面の忍者赤影の）幻妖斉や幻妖斉や。サインして。」と押し寄せたが、「しない」と一言、その言い方も幻妖斉だった天津敏も一流の悪役ぶりを発揮しています。

純愛ドラマの流行る？今の時代だからこそ、ぜひ女性の方にも観ていただきたい逸品です。

　以前スクリーンでみたときは悪くない、装飾華美な第一作よりぜんぜんいいとおもったんですがね。
　ひとはすきに映画をえらんでみるわけですが、じつはそれいぜんに映画にえらばれている、そんな感覚は映画を好きな（愛する）ひとにはおなじみのものでしょう。ひとの瞳、思考などそのときどきの個人的、時代的状況に左右され、たいして映画は他者の顔としてじつにさまざまな表情をかくしている。映画は写真ではないですから、一枚の画面にまんべんなく視線をはわせて私有化するなんてことはできない。本質的に、映画は逃れさる幾重もの表情をもつ、気になるだれかsomebodyです（とはいえ写真もそんな謎めいた表情をもつとバルトはいっていますが）。ストップモーションで画面の細部に眼を凝らすことは、早廻しして筋をおうのとおなじ、基本的に徒労です。もっとも映画に感動することなど最たる、甘美なる酷薄なる徒労なんですが。いずれにせよ、ある作品をけなしたり断罪、罵倒するには、むろん賞賛もおなじことですが、あるしゅの覚悟がいるでしょう。優劣などない、好きか嫌いかだけだなどと無節操なことをいいたいのではありません。じぶんの瞳がとらえたもの、思考したものもまた限られた枠ととぼしい光に明滅したイマージュであり、映画の本義からすればなんとも貧相たらざるをえないそれを、本義の映画がつきくずしてくれる、あらたな拡がりや、じぶんの閉塞（統制）をおしえてくれるという、更新される体験の強度においてまちがいなく優劣はあるのです。その修練の場は映画史とよばれもするでしょう。
　なにがいいたいんでえ。ようするに『一宿一飯』はかなりな凡作だなあ。基本的に好きな作品＝おすすめできる作品いがいここにしるさないときめているんだけど、わたしはこの『緋牡丹博徒』シリーズにえらばれているんだから、ちょっとぐらい悪口を披露してもいいかってことで。
　監督鈴木則文は名脚本家でもあります。『トラック野郎』シリーズのかれの脚本にはほれぼれします。下品なネタやギャクが伏線、あやとなって、てんでばらばらな拡散する逸話が、突如収束力をもって頂点をむかえる。これいじょないケレンみをおびているので、ほとんど出鱈目と紙一重なんですが。たとえばこの『緋牡丹博徒』シリーズを名実ともに輝かせたのは加藤泰と山下耕作監督の諸作ですが、めだなぬ縁の下にいたのは脚本家鈴木なのです。で、そのかれの最初にして最後の本シリーズの監督作が『一宿一飯』というわけです。だがかれはもともと秘した情念、画面にしみわたる情緒なんて無縁なひとで、任侠のがまんなんてけちくさい、ちんけな倒錯劇ぐらいにしかおもっておらず、お竜と鶴田の制御された任侠的情愛よりは、たとえば不能にされた男西村晃とそのマゾヒズムの奉仕先である白木マリの倒錯した夫婦関係なんかをついつい魅力的にえがいてしまったりする。悪役天津敏も物語にたいして関係なく、ふたりをいびりまくって輝くわけです。若山富三郎もかなり下品で、やもめのジョナサン（『トラック野郎』の文太の相棒愛川欣也）ぐらいにうっとおしいぞ。
　とはいえ、お竜が緋牡丹の刺青をあらわにして城野ゆきの自裁をとどめる場面（観世音さんのレビュー）や、廃屋で鶴田に、ドスよりお針がお似合いだぜと、あるしゅの求愛をうけてお竜がふりきるように立ち去る演出などむろんわるくなくって、本筋の物語展開の収束力のなさ、クライマックスの不出来をおぎなってあまりあるといってもいいかもしれない。でもまあ、シリーズ中一番だめではないかとおもうのは、一作目どうようお竜はじつに厚化粧で、鶴田の抑制のきいた演技をうけてたって記念碑的一作目よりはいいんだが、やはり後のみごとな微細な演技をしるいまとなっては。悪一本道の天津敏（ホントニ！？さんの「しない」の彷彿ぶりに感動）とその飼い犬元士族文太の造形がわるくないだけにおしい。
　留美子さんがいうように一作目には勝てなかったか、いや勝ったか。でも「チトやりすぎ」って評は鈴木則文って男へは褒めことばになってしまうので、やりきれなかった若き鈴木の不本意の一作といっておきましょうか。
　『華岡清洲の妻』で小姑の不治の病をまえに、救う手だてのない雷蔵が「医学は奥が深いのう。おれもまだまだだ」なんてかんじの慨嘆というか昂揚のセリフがありますが、あれは増村の声なんでしょう。本作二度目の鑑賞でわたしも同感、あくびまじりにだけど。
　

１作目の鮮烈な衝撃と比べると少し手ぬるい。鶴田浩二と高倉健のキャラの違いのせいか。鶴田浩二は今では気恥ずかしい位の「二枚目」なのだ。そのかわりダークな部分を狂犬のような菅原文太が担っている。藤純子は今作でも美しいが柔術はチトやりすぎ。話自体も親の仇の1作目と違って他人事だから気持ちが入らないのかな。

肌に墨はうてても心に墨は誰もうつこつはでけんとよ。