ヨコハマＢＪブルース

　松田優作がかっこいい。数々の主演作でも、一、二を争うかっこよさだ、と思う。
　遊戯シリーズや金狼とは違って、スタイリッシュ。でもかえって、長身と手足の長さが際立って美しいと感じる。
　傑作『野獣死すべし』のように狂気ではなく、静かで、ハードボイルドな優作だ。ひげもいいなあ。
　酒場で歌うブルース、もし女性だったら、惚れちゃうな。そして優作の早すぎた死が残念でたまらなくなる。

　なんかただのファンですね。
　気を取り直すと、ややベタですけれど、ハードボイルドの定型をきちんと描いて、赤面しないで見られる珍しい日本映画だと思います。ヨコハマと松田優作とブルースという、日本離れした取り合わせが良かったのかもしれません。
　工藤栄一は同時期に、『野獣刑事』『逃れの街』といった胸が痛くなるような激しい物語の、光と影にこだわった作品を発表していたと記憶しますが、中でも本作がもっとも完成度が高いと思います（もちろん『十三人の刺客』『大殺陣』といった傑作には及ばないかもしれませんが）。
　また本作は優作の監督作品『ア・ホーマンス』にも大きな影響を与えていると思います。よく話が分からない、台詞が聞き取れないなどの評判も耳にしますが、テレビ『探偵物語』の軽快さとはまた違う、優作の探偵ぶりをぜひ一度。７５点。

　が、如実に表わされたのがこの映画ではないですか。垢抜けていて（諦）、張りのある(意気地)、色っぽさ（媚態）。映画のなかで松田優作が存分に発散する魅力は九鬼修造の定義する「粋」そのものじゃないか、とファンの欲目も手伝って、思ってしまった。人生を諦めたような虚無感を胸に抱きながら、巨大組織に一人で立ち向かう意地を見せ、女に対してそして驚くべきは男に対しても、強烈な色気を発するBJこと松田優作はほんとうにかっこいい。セリフやしぐさのちょっとした間のはずし方なんてとても粋です。一歩間違えれば嫌みなナルシズムになりかねない危険な、それゆえ病みつきになる味わい。この人にしか出せないぞくぞくする魅力爆発の、逆に言えばそれだけで保っている映画でした。優作映画で色気ではこれがマックスかもしれませんね。

　優作の歌う「横浜ホンキートンクブルース」が聞けたのも大きな収穫でした。エディに比べるとワイルドで男っぽく、シルクに対する麻布といったところ。（簡単に言えば歌がヘタ）でも彼の存在自体がブルースだからいいんです！横浜の観光名所も随所に出てきます。山手のドルフィンから夜の黄金町ガード下飲食店街まで登場させるサービスぶり。荒涼とした埋め立て地が広がりランドマークタワーのない懐かしい昔の横浜です。

　それにしても映画にあふれるゲイテイストには正直驚きました。埋め立て地で明くんと戯れるシーンなど妖しさいっぱい、ボーイズラブ好きのお姉さんにもおススメできる、かどうかは微妙ですが・・。

優作のくぐもった低い声は魅力的ですが歌う時のはりのある高音もなかなかステキでした。ヨコハマ出身のブルースシンガー柳ジョージをちょっとおもわせて、柳ジョージは好きで何枚かアルバム持っているので久しぶりに聴いてみました、ブルースの定型をきっちりこめて作った日本語ブルースもやっぱりいいなと、優作の歌は柳ジョージばり・・・なんてそれは柳ジョージに失礼というものです。

早朝のハマのドヤ街寿町、手配師のまわりを囲む労働者の群れを背に歩いてくる優作のかっこよさ、金もなく車も持ってないから歩く歩く、海が見えてマリンタワーを左に坂道を上がってくる優作、きまってる。
黙って椅子にすわっているだけで、トイレの壁を息荒げて蹴り上げているだけでその足の長さが目立って様になっている男、優作の後に優作なし、邦画界におけるハードボイルド作品で演技して違和感なく虚無を抱えてひたすら優しいこの男のキャラクターの欠落は、皆幼児化してゆくような今の時代になって更に埋まりません。
若くして逝ってしまったせいか年月を経れば経るほど、松田優作はスクリーンの中で輝いてゆくみたいな幸せな想いをもたらしてくれた作品でした。

監督は、工藤栄一（1929〜2000）。主演は、松田優作（1949〜1989）。

横浜は、ヨコハマというカタカナ書きが、様（サマ）になる都市だ。

僕が初めて泊まったのは、「エスカル横浜」というホテルだった。
ホテルというほどのことのない、洒落た建造物。
「当館は、海運や水産、港湾に従事する皆様の為の施設です！」とＨＰに書かれているが、
他業界のサラリーマンでも、観光の家族でも、格安で泊まれる。

いつも出張に行くときは、「サウナ」「大浴場」をキーワードに、選ぶ。
「エスカル」が、合致した。
サウナは、三人定員の狭いものだが、ある。
もともと、船乗りや、港湾労働者の皆さん、海に関わる仕事をしている人のために作られた施設。
ホールを入ると、床にコロンブスの方位図が埋め込まれ、顔を上げれば、側壁に船のハンドル（舵）が掛けられている。
つまり、船乗り気分満点の旅館なのだ、（洋室もあり、和室もあり。）

立地が良い。「みなとみらい線『元町・中華街駅』�B番出入口すぐ横」。
　
中華街には３分。山下公園にも３分。外人墓地には15分、港の見える丘までが10分。
赤レンガ倉庫までは、20分。

当日、僕は、午後４時ころ、チェックインした。商用が早く済んだ（済ませた）からであった。

大浴場で全身を伸ばし、サウナに入り、水風呂に入り、しばらく「ぼけ」っとする。
これを３回くりかえすと、６時過ぎていた。
山下公園まで歩いていった。決して動かない「氷川丸」を見た。悲しいね。
若者が、サザンの歌を歌っていた。「出来過ぎだ」と思った。彼は「秘密のデート」を歌った。
出来過ぎだった。それから、中華街に行った。
あの金襴の大きな門に沿ってある、ビルのような「大飯店」に入ってはいけない、路地に横入り、小さな食堂に入った。
おばさんが疲れている店は駄目。おばさんの眼を見て、がちんとした「光」がある店の変な料理、求むべし。
豚胃（トンガツ）炒め、豚足の煮込み、もやしの蝦じゃん炒め、鳥皮唐揚など、「大飯店」」では食べられぬ変わった料理を食べた。全部、美味く、安かった。

「ヨコハマＢＪブルース」（1981年、東映、カラー、112分）。

私立探偵は、失踪した美少年・明（あきら）の行方調査を依頼される。

優作の歌唱が堪能できる映画。これを、公開時、関西の地方都市の映画館で、見た記憶がある。

彼は、口に物を挟んだような歌いから始める。「ジャスト　ロンリー　ロンリー　ロンリー」　

優作は、原田芳雄に憧れた。芳雄は、歌が本当にうまい役者、ブルース歌手だった。

二人とも死んでしもたが、お前らの声が、徹夜した今朝、うるさいよ！

ずばり、優作ありきの作品です。
内容的にはたいした事ないと思います。