狼よさらば

　７４年の作品なんですね。ウォーターゲイト事件で国に対する国民の信頼が揺らぎ、オイルショックで経済が停滞し始めたころ。不況で治安が悪化、でも警察なんてアテにならない、っていう社会状況を反映してる作品なのかなと思いました。
　
　家族が暴漢に襲われ、妻を失った主人公ポール（Ｃ・ブロンソン）。良心的反戦主義者を標榜し、朝鮮戦争出兵時も医療班に所属していたという男が、連続殺人者に変貌していく様は恐ろしくも哀しい。事件直後、心の傷を癒して来いという上司のはからいでアリゾナ出張を命じられるポール。ところが、その地は今もなお開拓時代の価値観が息づいており、そこで出会った仕事仲間とのふれあいの中で、彼は自分の中に眠っていた“何か”に気づく。

　ハンターだった父から譲り受けた魂が、くすぶっていた怒り−暴力によって大切な家族がめちゃめちゃにされた不合理に対する無念さ−に呼応したのはごく自然のことだ。この仲間が話す銃の効用（？）、「自分の身は自分で守るのが当然、銃が犯罪を抑止し街の平和を守っている」という理屈は銃社会アメリカの根底を支えていると思える。こういうセリフを聞くとどうにも生理的な嫌悪感を覚えるが、後半、ポールが街のゴロツキをばんばんやっつける時には、胸がスッとしてしまうのもまた事実なのだ。

　この映画は私刑を賞賛しているのではないが、主人公ポールと同様に私たちの心の奥底に潜んでいる“何か”を揺さぶる。毒をもって毒を制するという主人公のとった方法は、明かに社会のルールを逸脱する行為であり、その意味で「悪」なのだが、世の中にはびこる様々な不条理を目にしている私たちは、心情的にはそこに「正義」を見てしまう。もちろん全面的に賛成はできないけれども、心のどこかで彼を応援してしまわないだろうか。

　終始バランスよく賛否両面の主張を描いていたこの映画が、最後の最後でああきたのは「やっぱりな」と合点がいってしまう。内心、忸怩たる思いを抱えつつ。

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　チンピラに奥さんを殺されたお父さんが夜な夜な銃を持って自らに突っかかってきたチンピラたちを射殺していく話。

　法律で裁けない悪を個人の手で裁いていいのかという問題をありつつけれども、エンタメとして悪党を射殺すると気持ちがよさも感じてしまう何とも居心地の悪い映画でもありました。次々に街のゴロツキを射殺していって大衆たちが「幻の狩人」と熱狂していくという大衆の怖さも描いていて面白かったです。

　とはいえ平凡なお父さんが次々と射殺していくのとかどういう成長何だろうと思ってしまいますが、そこはチャールズ・ブロンソンだから。という理由で許されちゃう映画でした。

　そして妻殺しの犯人たちと出会うことなく終わるというのが衝撃の映画でした。

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のっけからやたらとお洒落なジャズサウンドが流れる。音楽は誰かと思ったらハービー・ハンコックなんですよ。カッコいいわけだ。全編に渡ってこのジャジーでメロウなサウンドが心地よく、復讐劇としてのじめっとしたテイストを微塵も感じさせない。チャールズ・ブロンソンの作品を見たことがないとは言わないけれど、久しぶりのご対面。男性レビュアーさんが、ポールの心の機微に呼応していらっしゃるのを読んで、なるほど勝王さんが「ブレイブ・ワン」をフェミニズムを引き合いに出していらっしゃるのが納得、という感じ。というのも、私にはポールがあまりに硬派な男で、実のところ感情的な部分ではあまり入り込めなかったからなんです。強盗に妻を殺され、娘が植物状態になっても、あの落ち着きようって、どうなんでしょう。これって、やはり女性としての目線なんでしょうかね。

でも、ケリの付け方がすばらしいです。なるほど、社会とはそんなものだと皆が納得するようなエンディングです。本作も「ブレイブ・ワン」も共に同じ問題定義をしているわけですが、「ブレイブ・ワン」はそこに個人的な感情を介入させてしまった。そこが、賛否両論を起こしている最も大きな点だと思います。本作では、ポールの個人的な感情も、ポールを追いかける刑事の個人的な感情も、あまり大きなウェイトが占められていない。もしかしたら、ポールが妻の死を嘆き悲しみ、復讐に燃えるような感情的な描写を出してしまうと、観客は否応なしにポールの味方になってしまう。それを避けるために、あのような硬派な演出にしたのかも知れません。「ブレイブ・ワン」とは対照的にからっからに乾いた作品。でも、だからダメかというと、そうではなくて、このドライな感じが本作の持ち味のように感じられました。例のジャズサウンドもあって、ニューヨークという街そのものを見事に捉えた秀作だと思います。

　この映画と「ブレイブワン」はほとんど同じようなストーリーですが、見終わった後の印象はまるで違います。両者を見比べると、７０年代と今の時代の違いを感じてとても面白いです。
　米国社会の秩序が崩壊しつつある、と米国人が考えていた時代の映画。最初に見たのは子供の時で、テレビ放映でしたが、非常にショッキングでした。市民社会からどんどん逸脱していく男の孤独と不安、そして興奮を、ブロンソンが実に繊細に演じています。それはプロレスを進化させてＵＷＦを立ち上げた前田日明の「選ばれし者の恍惚と不安」とも通じる感情でしょう。この映画にはそんな「時代の変化」が確かに物語として描かれており、その物語にブロンソンが己の実存によって血肉を通わせた名作です。ただのアクション映画ではありません。でも、ただのアクション映画として見ることも出来ます。
　「ブレイブワン」を見て違和感を持たれた方には、是非この映画をお勧めします。

チャールズ・ブロンソンの映画は約４０本ほど観ました。　その中でマイケル・ウィナー監督と組んでいるのが本作を筆頭に、７２年「メカニック」、７３年「シンジケート」、８２年「ロサンゼルス」、８５年「スーパー・マグナム」等です。
両者が組んだ作品を観ているだけに、本作も期待どおりの出来栄えです。（大満足）　　私はブロンソンの出演している映画は、‘むづかしく考えず、単純な気持ち’でいつも観ています。　そのほうが作品を楽しめます。
この作品の原題「ＤＥＡＴＨ　ＷＩＳＨ」を聞いただけでポール・カージーの名前が浮かぶのは、そう、シリーズとなっているからです。�Uが８２年「ロサンゼルス」、�Vが８５年「スーパー・マグナム」です。　シリーズとしては�Wの８８年「バトルガンＭ−１６」、�Xの「狼よさらば/地獄のリベンジャー」と続くのですが、ウィナー監督と組んでいるのは�Vまでの３本です。
愛する妻を殺され、娘を植物人間同様にされた男の復讐、やり場のない怒りをどこにぶつけるのか。　町のチンピラを社会悪として次々に殺していく様は、映画だからなせる技とはいえ、マスコミも肯定のニュアンスで報道し、いつしか全米の期待を一身に集めるヒーローとなるのです。捜査を指揮する警部までもが、彼を捕まえる気が失せるのですから．．．。　そうです。映画だから．．．です。
‘映画に出ているＣ・ブロンソンが実に渋くてカッコいい’それだけなのです。