狼よ落日を斬れ

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「狼よ落日を斬れ」は三隅研次の遺作。この作品の後にもTVドラマの「必殺仕置屋稼業」でメガホンを握るが、映画はこの作品が最後になる。「座頭市シリーズ」「眠狂四郎シリーズ」「子連れ狼シリーズ」などのプログラムピクチャーを得意とする作家だったが、最後の作品は上映時間が2時間半を超え大物役者がたくさん出演したいわゆる大作ものだった。この作品の前後ではTVドラマしか作っていなかったことを考え合わせると、なにやら因縁めいたものを感じる。薩摩藩士の人斬り半次郎の異名を取り後の桐野利秋として西南戦争で死に至るまで西郷隆盛の右腕として活躍した中村半次郎(緒方拳)、新撰組の沖田総司(西郷輝彦)、新撰組同様の京都の警護に当たった旗本で構成された見回り組の伊庭八郎(近藤正臣)、そして架空と思われる語り部であり主人公である杉虎之助(高橋英樹)の四人を中心人物として、さらには辰巳柳太郎(西郷隆盛役)や田村高廣(幕府の隠密頭役)等も中心的な役柄を演じているため各々の見せ場を作らねばならず、また物語も波瀾万丈に富んでいるのだから、三隅研次もこれまでの作品とは勝手が違ったのでずいぶんと戸惑ったのだろうと思う。でも、さすが制作本数が百本近くあるベテランの職業監督だけあって、会社側もしくは観客の要望と思われるものを満たしながらも、三隅研次らしさを失わない手堅く端正な作品に仕上げている。作品の制作・位置付け上、氏の作品の中でも屈指の傑作という感じではないのだが、日本家屋や江戸の町並みを効果的に使った、つまり幾何学的な構図を前面に押し出したフレーミングや大胆な省略と物語の進行との帳尻の合わせ方などまさにプロの仕事と言うべきものだろう。またこの作品における殺陣の美しさも特筆に値すると思う。アップは控えめにロングを主体に撮影された殺陣は、まるで居合いの型を見ているような美しさがある。と言っても全ての殺陣が美しいわけではなく、田村高廣と高橋英樹のそれが美しい。田村のそれは板妻譲りと言うことなのだろうか?

”夢は咲き　夢は散る
夢は舞い　夢は逝く
坂道のぼれ　泣かずにのぼれ
高く　高く　高く
いつか夢が　きっと夢が
そこに吹いて来るまで”　（夢が吹く頃/さだまさし）

『五稜郭』の主題歌の歌詞で、ドラマの内容と合わせ大好きなフレーズです。
国の将来を考え自分の意志を貫こうとする男たちの生き様は魅かれるものがあり、
倒幕側、佐幕側それぞれに魅力的な英雄がおり、その人物の魅力が幕末時代劇の醍醐味だと思っています。

主人公の無外流　杉虎之助に高橋秀樹さん、
心形刀流　伊庭八郎に近藤正臣さん、
示現流　中村半次郎に緒形拳さん、
天然理心流　沖田総司に西郷輝彦さん。

4人の男たちの活躍・交流を軸に、激動の幕末をなぜか池田屋事件から描かれています。
いきなりクライマックスとも言えなくはないのですが、そこは158分の長編ですので山場は他にもたくさんあります。
逆に、作品自体にシマリがなくなってしまっているようにも感じますが、
4人共に魅力的に描かれ、豪華キャストにより演じられている為、さほど作品の長さも苦にならず一気に鑑賞できました。

唐突なラストに少々びっくりもしたのですが、最後のシーンを見るにつけ、
主人公の恩師である池本茂兵衛が杉虎之助に託したセリフが、池波さんの伝えたかったことなのかもしれないなぁ〜
とも感じました。

それにしても、ホラー映画ばりに殺害シーンがエグイし、黒猫と沖田総司の逸話の再現も相当コワい。
監督さんの作風なのかもしれませんが時代劇と油断したら、怖かった〜（しばらくは黒猫を直視できないかも）

おそらく原作は長いもので、とてもわずか2時間半の映画では描ききれなかったのだろう。どの編も中途半端な感じがして。
時代の変革の中におかれた男女のそれぞれの運命がもっと詳しく描かれてほしかった。
多分原作はそのあたりが詳しく描かれ、醍醐味のある面白い話なのだろう。
映画ではなく、連続テレビドラマとして作った方がよかったのかも。

緒形拳の演技が素晴らしい。

少し総集編的な感じがするなど難がない訳ではないですが、自分にとって完璧な作品・満点の時代劇が存在するとも思っていないので、それを前提とすれば良い作品でした。見応えありました。コキおろすのが好きな人にとっては批判点が多々あるのでしょうが、ごく一般の時代劇ファンなら楽しめると思います。「狼よ落日を斬れ」なんとも格好良いタイトルだなぁ、さすが天下の池波正太郎。と思っていたら原作のタイトルは違うので、誰がつけたタイトルなのでしょうか、松竹の宣伝部の人？池波正太郎がやはりつけた？知っている人がいたらレビューのついでに教えて下さい。時代劇ファンの中では常識かも知れませんが。