昭和残侠伝　唐獅子牡丹

何年ぶりだろうか？私が東映仁侠映画を見たのは、あの70年安保闘争の真っ只中であった。当時、エンディングと同時に、万感の拍手が映画館に響きあっていたのをいまだに覚えています。そのような現象は、あの当時を除き無かったのではないだろうか。
いま、久しぶりにこの映画を鑑賞して、３０数年経過しても日本人の感性が全く変わらないことを改めて発見できた。何本見てもストーリーは同じ。雪の舞い散る冬空に、男同士の相合傘。義理と人情秤にかけりゃ、義理が重たい男の世界。まるで、歌舞伎を見るように、いや何回見ても心に響くすばらしい世界を改めて確認できた、すばらしい1本である。また、はまりそう。

しがない任侠レビューアーのムーンでござんす。

今回、健さんは、弟分の津川雅彦さんの義理のため、ある組長を手にかけます。務めから帰るとその組は傾き、美しい未亡人三田佳子さんの子供、ぺぺ穂積にしたわれて、影になってその組を助けようとします。
以前見た「唐獅子仁義」の方がシリーズでは後ですが、ここでも宇都宮の大谷石採石場が舞台です。
石切り場というのは、屋外アクションには向いていますが、二回も使われるのは、その他に何か事情でもあるんでしょうか。爆発シーンは爆片がカメラにまでぶつかってきて、かなり危ない撮影してます。

三田の未亡人は、健さんが仇とは知らず、親切にほだされて段々と好きになっていきます。祭りの場面での後れ毛をなで付けるしぐさは、色っぽくて、健さんも自分の立場を呪ったかもしれません。いずれ自分が亭主を殺した男だと告白し、三田さんが驚くシーンがあるのですが、そこがこの作品の山場ではないでしょうか。
もちろん、最後には健さんは斬り込みに行くのですが、ドラマとしての山はここだと思います。

池部良さんは、忘れた頃に大陸浪人から帰ってくるのですが、そもそも組を飛び出したのは、好きだった三田さんが組の（健さんに斬られた）親分と結婚したからで、今回、出番は少なめです。

残念なのは敵の組。人数やキャラはいるのですが、全然憎らしくない暗躍ぶりで、あまり切り込みに行くモチベーションが上がらない。動機が弱すぎます。
もちろん最後は行く訳ですが、途中で待っている池部さんのほうが理由の正当性では上です。今回に限っては健さんが助っ人です。

koburouさんもおっしゃっているように、道行きの美しさは、今まで見た中で一番ですし、傘の中での二人の無言の情交は一番長く、ねちっこいです。池部さんが健さんの肩の雪を、わざわざ傘を持ち替えて手ぬぐいで払うところなど、歌舞伎の男女を連想する程の色気。その後の、雪の一本道を二人で歩くシーンの美しさのためだけにこの作品を見ても悔いは残らないでしょう。
斬り込みのシーンでは、その流れか、池部さんの死に際はかなりエロい。昔、三島由起夫が「切腹」という小品で死に際のエロチシズムを描いた事がありました。池部さんの悶絶シーンは、なんだか女性のそれを連想させます。

そして、最後の子供とのお別れシーンは、もろ「シェーン」です。このためにペペ穂積がいたのかというくらい。
物陰で三田さんが涙をこぼして見送っています。

健さんは、雪の一本道をひとり去って行きます。

今回の重箱の隅
その１、いたるところ設定が甘過ぎる。例えば三田さんが芦田紳介さんの事務所へ見積もりを持って行くところ。既に敵の組は妨害活動しているのですから、一人でのこのこと貧血気味になりながら行くのは無理がありますよ。車くらいお乗りなさい。
その２、敵の組で一人だけスーツきている兄さん。昭和前半にしては着こなしが今と変わらずおしゃれ。
その３、それに比べ、池部さんのツイードはサイズが大きすぎ。この頃は太ってたみたいですね。登場シーンでは若山富三郎さんかと思いましたよ。

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　第二作、佐伯清監督。シリーズ中の傑作のひとつ、といいたいのはシリーズ屈指の高倉と池部の道行きがみられるからだ。そしてなんといっても三田佳子がいい。だが物語の粗もめだつ。いや致命的かもしれない。だがわたしは擁護する。マキノの傑作『死んで貰います』をこえるシリーズ中第二位。

　本作が堂々たるシリーズ最高傑作といえないのは、悪役陣の造形が失敗しているからだ。悪の親玉水島道太郎がただの悪でない、たたきあげの強情さをえんじる。人間味といえばいいが、このスタンスが活劇の構図をゆるくしている。その手下たちはただの愚連隊だ。とくに山本麟一には失笑するしかない。かれに悪役はにあわない。むしろ善人芦田伸介が裏で糸をひいているくらいの救いない状況でこそ、斬り込みがきわだつのだ。クライマックスの石切場でのアクションはシリーズ中いちばんできがわるい。
　ついで『シェーン』を翻案した設定、子役を高倉と三田佳子のあいだにおいたことも物語の緊密を減じている。子役はふたりをひきあわせはする、だがどうじに情愛の緩衝地帯になる。男女のあいだでふみこまないのはもとより佐伯の限界だが、三田が秘された色香をみごとにかもしているだけになんとも惜しい。斬り込みのあとの、子役と高倉の、というか三田と高倉の別れは『シェーン』の無残なパクリだが、王道「沓掛時次郎」をゆけばよかったのだ。最後に三田と高倉がたがいの恋情をたたっきる、あるいはきれないかをきちんとえがくべきだった。
　三田佳子は組頭だった夫を殺したとのちにわかる高倉健への恋情をつのらせてゆく。幼子をかかえながら、細腕でなんとか石工の組をきりもりしつつ、敵の妨害で疲労をこくしていくなか、謎の男高倉の陰ひなたの助太刀をうける。雪花石膏のようなすべらかな美貌、とくにその横顔の美しさはひときわだ。ゆるやかだがしっかりとした滑舌もすばらしい。なぜ、となんども問う。高倉はいいよどむ。そしてついに、義理での刺客で夫を殺したことを告白する。三田は絶句し、身じろぎもできずに表情をこおらせ、ただひとすじ涙をつたわらせる。高倉が逃げるようにきえたあと、激情を子を抱いてあらわす。みごとな演技、演出だ。
　いっぽう高倉健もまた、贖罪をこえて恋情をつのらせ煩悶しているのだ。名のって愛される資格がないと告白したあと、チンピラあいてに激情をアクションでぶつける。
　さらに池部良だ。かれもまたかつて三田を思慕して組をはなれ、そしていまなおそれを秘しつつ満州から帰郷した男だ。物語の終盤でようやく登場するかれだが、組頭殺しの高倉と果たし合いをいどむ場面、はじめてまみえたふたりのみごとな緊迫感ある対峙へ、病身の三田がかけつけて泣きくずれておしとどめる。物語にふかくうめられて、けしてもうこれ以上展開されない三角関係なのだが、なんともやるせなく、佐伯のときに無闇につっぱしる扇情主義的映像に艶をあたえている。
　そしてラストの道行きだ。シリーズ中第一位のものだ。物語では二度目の出会いの、果たし合いを棚上げしたふたりが、雪もようの鄙びた道をゆき、橋のたもとで歩みをとめ、ひとつ傘のなかでたがいの名をよびあう簡潔なセリフと眼差しを交錯させたアクションで、傘を軒下三寸として仁義をきって渡世の名のりをあげかつ、どうじに五分と五分の兄弟盃をかわしたかのような、これ以上ない濃密な男と男の関係がいっきに燃えあがる。むろんふたりのあいだにはかなわぬ三田への恋情がしずかに脈打っている。女のために散るのだ。
　いかにも佐伯らしいロングとクローズ、俯瞰と超ローアングルをカッティングするファナティックな映像世界だが、どくとくな抑制美がある。それがシリーズ中白眉の道行きをうみ、三田佳子の演技力ある美しさをみごとにみせる。とくに三田がはじめて物語に登場する、墓場での高倉と子役がたわむれている画面、その左隅から彼女のもつ白い花束でしずかにフレームインしてくる呼吸は、演出の手練れマキノをこえて息をのませる。あるいは高倉健が三田の夫菅原謙二と対決する場面、斬った瞬間、とつじょガード下を通過する汽車の音響と光の鮮烈さもすばらしい。加藤泰だってこうはきまらない。高倉の弟分津川正彦もよい脇役ぶりだ。物語的には不首尾がめだつが、あるいみそれも佐伯らしい一端と首肯して、シリーズの傑作といっておきたい。

義理と人情を秤にかけりゃ、義理が重たい男の世界・・
全編を通して、任侠道に生きるやくざと、非道なやりかたをする新興悪徳やくざとの縄張り争いを描いており、我慢に我慢を重ねたすえに、男の友情で結ばれた二人（高倉健さんと池部良さん）がラストで悪徳一家に殴りこむ。
毎回、お互いに肩を並べて殴りこみに行く道行のシーンが楽しみで、健さんが唄う主題歌「唐獅子牡丹」がバックに流れて劇場内の雰囲気は最高潮に達する。
「昭和残侠伝　唐獅子牡丹」の道行シーンは雪の背景が美しく、シリーズ屈指の出来栄えである。主題歌「唐獅子牡丹」の歌詞も、作品によって、少しずつ違う凝りようもお楽しみ。
他に三田佳子さん、菅原謙二さん、津川雅彦さん、芦田伸介さん、三島ゆり子さん。
悪徳やくざにはベテラン水島道太郎さん、山本麟一さん、今井健二さん。
今の若い人には馴染みが無いでしょうが、何れも主演級の豪華演技陣です。
監督はシリーズ生みの親、佐伯清さん。
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高倉健に感動した