愛と死の記録

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　幸雄（渡哲也）が愛する和江に（吉永小百合）に被爆者であると告白するシーン、見上げる原爆ドームの枠しか残っていない天井は、二人に立ちはだかる非情な運命そのもの。さらに黛敏郎のクラシック調の音楽がかぶさり異様な迫力がありました。デートの場所は平和公園、「にんげんをかえせ」の峠三吉の詩碑がさりげなく映し出され、平和記念式典の実写映像に鳩が舞い、原爆病院の長い廊下はほの暗い。

　当時大ブームになった「愛と死を見つめて」の男女逆バージョンの純愛ものと見せかけて、随所に硬質なメッセージを感じるので調べたところ、大江健三郎の「ヒロシマノート」のエピソードのひとつを劇団民芸の大橋喜一と小林吉男が脚色したそうです。吉永小百合自身も著書「夢一途」のなかで「良い映画」になったと喜び、さらに映画から原爆ドームの全景とケロイドの映像がカットされたことに怒っているということでした。原爆の朗読劇を続ける契機はこの映画にあったのでしょうか。

　とはいえ、蔵原惟繕監督の画面構成はアクション映画のよう。スピード感あふれシャープです。オートバイの疾走、病院へ向かうタクシーの走り、霊柩車の車内、そしてラスト、救急車の疾走。動く場面がとても多い。ヒロインもよく歩きその表情をハンディカメラが刻々と捉える。吉永小百合は文字通り熱演しています。俯瞰の映像とロングショットも効果的で切れのよいリズムを感じました。雨に降られたツーリングデートの後、橋の上で抱擁する二人の傍らを機関車が行き過ぎるところなど、唸るほど美しかった。病院の屋上に白い洗濯物がはたはたと飜るさまにも、不吉な予感のようなものが象徴されていました。難病ものにありがちないかにも泣かせようとする演出が皆無なのがなにより。泣かせたいのではない、訴えたいのです。

　もちろん、原爆という兵器の非人間性について。たとえ生き残ったとしても強い放射線を浴びた影響がいつ出現するかと怯えていなければならない。結婚したり子どもを作ることをためらい、そのうえ社会の差別にもさらされかねない。愛する人を奪われるだけではない、自分の未来も奪われるのです。「幸雄さんは愛されてはいけんかったの」という和江の言葉は重いものでした。病院長の滝沢修に「私たちは原爆のことを何も知らない」と言わせているのは、今でも通用すると思います。ＪＯＣの臨界事故で治療にあたった医師が「医学の無力を感じた」と語っていたのを、以前Ｎスペで見たことを思い出しました。 幸雄の後を追った和江は、世の偏見や打算に純愛で打ち勝ったわけですが、死につつある彼女を見送る二人の共通の友人、藤井、なんとほっそりと若い中尾彬が演じている、は「ちくしょう！」と叫んでいます。和江もまた、被害者なのです。

　オバマ大統領にもぜひ見ていただきたい。

ガツンときます。

予備知識なしで、“愛と死“とあるけれどいつもの青春純愛ものだろうと思い込んでいたら予想は見事に裏切られ、凄い衝撃を受け、観終わった瞬間から、そして今もなお私の心にあらゆるシーンが忘れられずに残っています。
はっきり言って、甘く悲しい、感動に涙するというような種類の作品ではありません。
１９６６年、戦争から、そして原爆が落とされて２０年が過ぎ、もうあまりそのことが人々の口端に上がらない頃、「これでもくらえ」とばかりに投げ込まれた大きな鉄のかたまりのようにも思えました。
『愛と死をみつめて』の大ヒットに続いて、二匹目のドジョウを狙って企画されたとの事。吉永小百合・浜田光夫のコンビのはずが、クランクイン直前の事故で急遽、新人の渡哲也が選ばれたとか。でもかえってそれが功を奏しているのかもしれません。
あの一見体格がよく健康そうに見える若者がどうして死の恐怖と闘わなければならないのか。
愛し合う二人の仲を理不尽にも引き裂こうとする現実。抗うことのできない恐怖が映画全体に満ち満ちています。

つらくなってきたので
ここでちょっとミーハー的なお話を。
この共演後、二人は急接近したが周りの反対に遭い、やむなく悲恋に終わったとか。
お似合いのカップルなのに…
そして、私はあの『時雨の記』やその他共演時での渡さんの嬉しそうな顔が忘れられません。
幸せそうな２ショットでした。

吉永小百合が渡哲也と初共演した作品です。

「原爆詩の朗読会」などの吉永小百合の平和活動のきっかけとなった作品です。

主演二人が、前半の若々しい元気な姿と、そのあとの悲劇的な姿が対照的で、その迫真の演技力が光ます。ぜひ見ていただきたいです。

みてもらいたい