薄化粧

この作品は僕が二十歳の頃公開された作品で、テレビでも何度か放送されていたような気がするのだが、何故か観たことがない。観た記憶がないのだ。だた、うっすらと松本伊代が出演していたということだけは何故か記憶に残っていた（笑）。この作品も先日お亡くなりになった緒形拳さんが主演しているということもあり、レンタルすることになった作品である。個人的にはそれほど印象に残っていない作品だったが、久しぶりにギラつく緒形拳さんの演技を堪能することが出来た作品だった。彼のこのギラついた演技は映画「鬼畜」「復讐するは我にあり」以来である。彼の演技の魅力はこのギラつき感である。またそれとは裏腹な優しさをも魅せることが出来るという俳優としての能力の高さに他ならない。若い頃の彼には悪い人間がよく似合う（＾＾；。男としての肝の太さ、懐の深さ、迫力、優しさ、女好き、残虐さ、身勝手さなどの人間としての全てを見せつけてくれる。金を手に入れ、人を見下し、手当たり次第に女に手を出し、気に入らなければ殺し、自己中心的で身勝手極まりない男を演じさせたら彼の右に出る俳優はいない。

僕はこの作品を観たとき、映画「復讐するは我にあり」の殺人犯、榎津巌を思い出さずにはいられなかった。彼と同じ種類の人間なのだと思ったのだ。この作品は実話がベースとなっている。実際にあった事件を元に原作が書かれており、こんなおぞましい事件が実際にあったこと自体驚きに値するが、犯人である坂根籐吉（緒形拳）の人間として持っているだろう残虐性を改めてみると背筋が冷たくなるほどの恐ろしさに囚われてしまう。彼が犯した罪は自分の妻と子供を殺害し、自分を裏切った女を発破で爆死させた罪である。そして逮捕され留置所で自殺を図り、失敗に終わり、それにも懲りずに脱走を図り、逃亡生活が始まり、ねぐらを変え、仕事を変え、刑事に執拗に追われながら、女を変え、女に溺れて逮捕されるまでをキッチリと描かれている作品となっている。最近この手の身勝手な人間が増え、関係のない見ず知らずの人や親、子供を簡単に殺す事件が増えているのかもしれないとさえ思わせる作品だった。

緒形拳と女、特に美しい女がよく似合う。それは緒形拳が男のフェロモンをプンプンと撒き散らしているかのごとき男だからであろうと僕は思う。男なら一度は緒形拳にあこがれるのではないかとさえ思えるほどだ（＾＾；。同性の僕から見てもとても魅力的な男だし、憧れだ。何事に対しても肝が据わり、自分の欲望に素直でそれでいて男ならではの弱さを女を前にしてさらけ出せるその姿のいずれもが憧れである。だからこそ彼のそばには美しい女が必要なのである。今作では色々な女優さんが出演されているが、中でも内藤ちえ役を演じた藤真利子が一番かもしれない。僕は彼女の演技が好きだ。美人だとは思わないがその情に溢れる演技がとても好きなのだ。彼女は幸薄い女を演じさせれば天下一品である。陰のあるどこか幸薄い女がとてもよく似合う。派手か地味かと聞かれれば彼女は地味な部類に入るだろうが、それがまた男心をくすぐるのだ。この内藤ちえ役は彼女にはぴったりだと思った。情に厚い女は仲がいいときは問題ないが別れるときは大変だ（笑）。ふられるのなら問題ないがふる場合はなかなか別れられないということに陥りやすいからだ。主人公であり殺人犯である坂根籐吉も彼女の情の厚さにはまり、自分の首を絞めてしまい自滅の道を歩む羽目になるのだ。

また坂根籐吉の妻である坂根ふくみ役を演じた浅利香津代はその嫉妬に狂う妻である女を見事に演じきり、地所テル子役を演じた浅野温子との喧嘩シーンは壮絶を極めた。またその嫉妬の演技は緒形拳演じる坂根籐吉の男としての身勝手さを際だたせ、見事に緒形拳を引き立てていたのは素晴らしかった。彼女が殺されるシーンは妙にどこにでも起こりそうな気がして生々しくとても恐怖を感じた。そして僕が今でも好きな浅野温子（笑）。彼女はそのどことなく都会的な美しさでやっぱり僕を魅了した。彼女はやっぱりこの手の作品では愛人がよく似合う。松本伊代に関してはかなり無理したというか頑張ったと言っていいのではないだろうか。当時かなり無理していたのではないかと思わずにはいられない。

この作品は緒形拳なくしてはあり得ない。彼のあの独特の目つき。あの目つきがなければ成り立たない。彼独特の彼しか出せないキラつき感。それが全てだと思う。緒形拳が若かりし頃の彼特有のギラつき感を是非とも堪能して欲しい。

なぜか、アメリカで見た
アメリカに全然合わない映画。
すごく日本的だと思う。

とにかく、これぞ映画！
という力作。人間の業が満載、
目も覆わんばかりの本音炸裂でした。

女優たちも色々な表情を見せ
すっごく肉感的で人間的。

究極的なまでの
自己本位（小さな欲望にまっしぐら）は
誰しもが持っている業なのだろうなー。

うーん、怖い怖い。

五社英雄監督作、他のも見よう！

松本伊予がこんなところに！結構上手でした。
緒形拳も若い！浅野温子も！
いろんな人の貴重な映像と言う点では見ものでしたが、果たして、映画としては。。。
主人公はどう考えてもひどい男で、どう言い訳しても同情できませんし、見終わっても、テーマがわかりませんでした。人間は強欲で、自分勝手なものである、ということなのか？

緒形拳の悪人役がはまっています。
緒形拳が好きな人には面白いと思う。
そうで無い人も楽しめるとは思います。
人の欲深い部分が良く出ている。
最後はありがちな感じがしますが・・・

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　映画全体がまとまり切れなかったというか、クライマックスの連続、冒頭から民家の爆発シーンをもってくる、のような場面展開が逆に全体としての印象を薄くしてしまった感を受けました。回想シーンですら時間軸が前後する展開はわかりにくいですし。
　原作は昭和２５年、四国別子銅山で実際に起こった事件をもとに書かれた西村望の小説。緒方拳もたいへんな集中力で主人公、鉱夫の坂根藤吉の、その場その時の感情を表現していましたが、はたしてこの主人公がどういう男だったのか、どこまでも卑劣で冷酷な殺人鬼か、業を背負って孤独な逃亡生活を続ける惨めな犯罪者なのか、いまひとつはっきりしない。
　とくに前半、「蛇のように」陰険な目をした自己中心的で凶暴な男としての坂根を演じる緒方拳が圧倒的だったので、後半“マドンナ”ちえ（藤真利子）と知り合ってからの変貌ぶりが不自然に見えてしまいました。「復讐するは我にあり」の榎津巌が突然、「鬼畜」の竹下宗吉に変わってしまったかのような。やっと心安らぐ女に巡り会えて改心したと解釈するには描写が浅すぎる感じがします。

　しかし「化粧する」という行為を取り上げたのは面白いと思いました。藤真利子が情事の後戯れに眉墨（アイブローペンシル）で緒方拳に眉を描いてやる。この坂根という男は眉毛が極端に薄くそれが蛇のように不気味な印象を与えていたのですが、別人のような顔になる。以降自分でも眉を引いて逃亡生活を続けます。幼い少女とのシーンにはハラハラしましたが、化粧が人間を変えたのでしょうか、胸を撫で下ろしました。「生きるために人は心で化粧する」というのが予告編の惹句でしたが、坂根も「きれいだ」という感情を知り、欲望剥き出しのままだったのが人目を気にし装うことを覚えて初めて、人間としての生きる道を歩み出したということなのでしょうか。薄幸の女、ちえがそれを教えてくれた。しかし執念の追跡を続けた刑事真壁（川谷拓三）はついに坂根を捉える。

　私的には前半の人非人ぶりで徹底的に押し切り筋を通して欲しかった。落盤事故の遺族との補償交渉のため会社から預かった金を横領し、それをちらつかせて浅野温子、宮下順子、松本伊代とものにしていき、妻子を手にかけ、自分を袖にした松本伊代一家を爆殺する坂根の狡猾、卑劣、色魔ぶり、冷酷、残虐、虚無には凄まじい迫力がありました。息子を殺そうと山に連れ出すシーンには、その場面は描かれていないのですが、背筋の凍るような殺気と人間ここまで悪に堕ちることができるのかという、絶望感が漲っておりました。「改心」という難しいテーマは盛り込まず悪のエネルギーで終始していたら「復讐するは我にあり」並みの作品になったと思うのですが。