炎のランナー

「走る」ことの歓びを、究極的に表した作品です。

「走る」ということは何一つ道具類を使わずに出来るスポーツ（≒遊び）であり、二足歩行となった人間が、根源的に動物の歓びを感じられる行為だと思うのです。その表現として、リデルのランナーズ・ハイの様な行為が挙げられます。
一方、エイブラムズは必要以上に人間的に描かれていて、二人の対比が、仲間の言動を巻き込みつつ、この物語が展開していきます。


古き良き「グレートブリテン」の雰囲気が漂う画像と、「ヴァンゲリス」の胸に響く音楽が共鳴して、極めて質の高い物語となっていますで、過剰なサービスを望む方は御遠慮ください。

　初めてこの映画を観たのは１８の時。すごくジ〜ンとして胸が打たれました。ヴァンゲリスの音楽は美しいし。今でもあのテーマ曲を聴くと胸が熱くなります。
　今回、若かりし頃の感動をもう１度！と思って観てみました。でも、残念ながらあの頃の興奮はなかったです。一体どこに胸を打たれたのか？これが歳をとるということなのでしょうか。
　歳をとらないと分からない映画もあれば、若い時でないと心に染みない映画というのがあるのでしょう。この映画は私にとっては後者に当てはまりました。だから、若い人に絶対おススメの映画です。

1981年(イギリス)アカデミー賞作品賞受賞。

2度目の鑑賞なのですが、今回は素直に心に沁みました。
ブレーレイですので、特典映像は20年後の同窓会映像が付いてました。
監督のヒュー・ハドソン。撮影のディヴッド・ワトキン。
主役のハロルド・エイブラハム役のベン・クロスほかの出演者たちが自由にエピソードを語る形です。

これを聞けたのは大きかったです。
この場にもう1人の主役リデル役のイアン・チャールソンが居なくて不思議に思いました。４０歳で早逝しているのですね。

ハードル競技の練習に、シャンパンを使ったエピソード。
ハードルのバーの片隅にシャンパングラスを置き、倒さないように
ハードルを越える練習シーン。
実際には無数のシャンパングラスを壊したし、シャンパンに至っては6ケースを消費したそうです。

映画に戻ります。
1920年代のケンブリッジ大学を舞台に、多くの学生たちが出場した
1924年のパリ・オリンピック。
映画は2人の学生に焦点を絞ります。

リトアニア出身のユダヤ人の父親を持つハロルド・エイブラハム。
もう1人は宣教師の家庭に生まれた信心深い、エリック・リデル。

エリックは１００メートル走の予選の日がキリスト教の安息日の日曜日に組まれたことから、出場を辞退します。
このことは大事件になり、王様やオリンピック理事たちの強い説得にもリデルは応じません。
そこを救ったのはアンドリュー卿。
２００メートルを制したアンドリューが４００メートル走に出場の権利を譲ってくれます。

ユダヤ人ということで有形無形の差別を受けていると自覚する
エイブラハムは、当時では珍しい専任のコーチとトレーナーを雇います。
これもユダヤ人の財力を利用したアマチュアらしからぬ行為と面白くなく思う者もいます。
こともあろうかそのコーチがイタリア系の半分アラブ人のサム・ムサビーニなのです。
しかしムサビー二役が生粋のイギリス人俳優、イアン・ホルムなので、笑ってしまいました。

結果的はエイブラハムは100メートル走競技で金メダル。
リデルも譲られた400メートル走競技で金メダル。

この映画の主人公は実在の人物です。
リデルの優勝は仲間に肩車され、祝福されたものでした。
対するエイブラハムの優勝は、記者のインタビューを受けるだけの寂しいもの。
ラストのテロップでも、エイブラハムの死亡年月日を記すだけでしたが、リデルが伝道師として赴任先の中国で亡くなった時は英国民全員が喪に服した・・・と、あります。

これはなにもエイブラハムがユダヤ人だからだ・・とは私は思いません。
人間には日向に立つ人と、日陰に生きる人と2種類いるからです。

本人たちが望んだ生き方だと、思います。

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レビューを見て思わず涙しそうになり、ずいぶん前のことだし自分の記憶がおかしいのかと再び見る気になりました。なんだ、やっぱりめちゃくちゃ面白いじゃないですか。興奮しすぎて途中で何度か休憩する始末。安心、安心、まだボケてない。好みは人それぞれ、僕はとても好きです。

純然たるスボーツものというより、スポーツをする人間のドラマといった映画です。
社会と戦うために走るユダヤ人、エブラハムス。神のために走るスコットランド人神父、リデル。
最初の方でプロのコーチが「果たし合いだ」と言うところがありますが、この二人の対決をベースに当時の社会状況、人間を描いていきます。地味かも知れませんが、細部がとても丁寧でイギリス映画らしく静かに進むところが好きです。イングランド人の嫌らしいところも拝めます。
神の法に従い安息日の競技を拒否したリデル、イギリス国教会の神父だったら悩まずにすんだんでしょうか。
チームメイトの貴族であるアンディーがなかなか良い。エブラハムスの彼女の相談に親切に応対しつつ、僕にとってはお遊びだなんてうそぶき、彼女が帰るとハードルにシャンパンを注いだグラスを載せ練習をする。そしてオリンピックで_______。儲け役ですね。

当時の社会状況やらスポーツのアマチュアリズムなどの知識があるとより楽しめると思います。
イギリスには青白きインテリなる概念は存在しない、というのを子供のころ読んで驚いたことを思い出します。『貴族たる者はがんがん知識を身につけ、がんがんうまくて栄養があるものを食べ、身体を鍛え上げ、精神肉体ともに労働者階級を圧倒すべてものである、という思想があり、かたや労働者階級は長時間にわたる過酷な労働と貧しい食事により貧弱そのものの肉体でしかなく、太刀打ちできるはずはない』といったところでしたでしょうか。
アマチュアリズムの起源には、貴族による労働者階級の排除といった側面があります。

競技や練習の場面、素人目にはとても良く出来ているように思えました。
その技術指導をしたといわれるトム・マクナブ（確かオリンピックの陸上競技チームのコーチ経験者）が「遥かなるセントラルパーク」というフィクションを書いています。アメリカ大陸横断マラソンのお話で、とんでもなく面白いものです、お奨めです。もう一つ文春文庫から出ていますがこちらも楽しい作品でした。（お奨めするものを間違っているな）。
同じイギリスでは騎手だった「競馬シリーズ」のディック・フランシスなんかもいるし、なにか文化の厚みというものが感じられますね。

　神の祝福を受けるために走るという感覚は私にはちっとも理解出来ないことである。ここらへんが外国映画を観て勉強させられたり、歯痒かったりする。でも、ヴァンゲリスの音楽に乗せて走るランナーたちのタイトルバックは大変美しく崇高なもの。この映像だけで、映画の中身をすべて語っているようだ。で、ここだけで理解したような気分になるわけ。宗教上のことは感覚で分からなくとも。