ミッドナイト・エクスプレス

麻薬密輸の現行犯で捕まったアメリカ人が、トルコという異邦の地の刑務所に収監され、酷い扱いを受けるお話。昔観た時に感じた衝撃は相変わらず存在していたが、それ以外の様々な思いを呼び起こすモノも存在していた。

そもそもの、きっかけから気にかかる。
トルコで逮捕されたから厳罰になったのかもしれないが、主人公が犯罪者なのは間違いない。しかも逮捕された後に逃亡も図っているので、この事実の申し開きは出来ない。だから、その事実を棚に上げて、刑務所内の待遇の悪さに不平不満を述べ、本国から助けに来たオトンに泣き付き、賄賂をちらつかせて刑期を減刑させようとする、主人公の態度が鼻についてしまうのだ。それは、豚野郎とトルコ人を侮辱する主人公と、飯がまずくてヒルトンから出られないと現地を揶揄するオトンの態度に、あからさまに表れる発展途上国を軽蔑し軽んじる、“占領国家”である強いアメリカを象徴しているからなのだろう。
当時の国家間の軋轢を臭わせる描写が有り、政治のネタに使われたという事実もあるのだろうが、根底に潜むモノは優越感、現地人に対する差別意識ではないかと感じてしまうのだ。異境の地の風習や宗教感を軽んじる態度は、古くは十字軍から最近では湾岸戦争にまで、歴史の事実として克明に記されている。それを一言で言うと“郷に入っては郷に従え”ないアメリカ人となるのだろう。

オリバー・ストーンの表現は、虐げられる“強いアメリカ”にあり、迫害は受けるが、必ず“強い”のである。強さ故に迫害を受けるのだが、その強さを常に誇示しており、被害と加害の関係が曖昧になり、時に逆転さえしてしまうのである。

でも、そんな矛盾を感じるのはヒネクレ者の私ぐらいなのかも。
後半の表現に顕著な、アラン・パーカーの尖った映像と、懐かしいシンセサイザー音楽が、独自の空気感を醸し出す本作は、全体的な作りを見れば良い映画なので、広く皆様に観賞をお勧めします。
あ、重くてすっきり出来ない映画なんで、念のため。

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タイトルの”ミッドナイト・エクスプレス”とは、刑務所用語で脱獄のことだそうです。従って、深夜特急でのアクションはありません^^;
1970年20才の時、ビリー・ヘイズ（ブラッド・ディヴィス）は、イスタンブール空港で麻薬ハシシの不法所持の罪で逮捕された。
米国から父親が駆けつけ裁判が行われ、懲役4年の判決が出た。刑務所で拷問や虐待に耐え、刑期の残りが53日に迫ったある日、トルコ側は突然再度裁判を行うと言う。
そして、終身刑となるが判事の温情で懲役30年の判決が下される。悲しいことに米国政府は無力だった。ビリーはどうしても納得出来ない。ここは地獄だと怒る。
その後、ビリーは囚人仲間のマックスとジミーと3人で”ミッドナイト・エキスプレス”を決行しようとする。ブロック壁をはがすとその穴から下水道に繋がっていた。。
しかし、ある囚人に密告されてしまい、ジミーが看守に連れ去られた。ビリーは密告者に暴力行為を働き、精神異常者専用第13区に移される。絶望感に襲われるビリー。
そんな時、恋人スーザンが面会に訪れる。アルバムの裏表紙の中にお金が・・・「逃げて帰って来て」と。ビリーは”ミッドナイト・エクスプレス”を実行する。
そして、ビリーは成功する。1975年10月4日夜に脱走しギリシャ入り、その3週間後ケネディ空港に到着した・・・。
★特典にビリー・へイズ本人が登場、セットを見て地獄だった日々を回想したと語る。彼のトルコの獄中での実情を描いた著書は世界中のマスコミと法廷に衝撃を与えた。
その後、映画化され1978年5月18日カンヌ映画祭で公開された。なんと、その43日後、米国とトルコは囚人交換の協定を結んだそうです。
主演のブラッド・ディヴィスは、ゴールデングローブ賞・新人賞を受賞、英国アカデミー賞にもノミネートされた。
脚色のオリバー・ストーンはアカデミー賞・脚色賞、ジョルジオ・モロダーは作曲賞をそれぞれ受賞したそうです。
尚、ディヴィス氏は1991年41歳で没。エイズが原因と言われているが薬物過剰摂取と言う説も・・・。
とにかく素晴らしい作品であることは間違いありません。是非、ご覧になることをお薦めいたします。

公開当時に見たときは非常に衝撃を受けました。アラン・パーカーはショック演出が巧いですからね。映像もシャープだし。シンセサイザーの音楽も良かった。でも何よりも驚いたのは主演のブラッド・デイビスの上手さ。今やおっさんの私も当時はガキでまだそんなに映画を見てなかったのですが、ガキながら演技がうまいなあと感心したのでした。しかしトルコから、当然ながら文句を付けられ、その後の役者人生は不遇に。いい役者だったのに残念です。映画自体もあまり知られないままになっております。いい作品だと思いますけどね。第３者的に事実を描いた映画ではなく、主人公の精神世界を描いた映画として、トルコの刑務所の描写もアリなんじゃないでしょうか。「ディア・ハンター」なども、公開当時は本多勝一が「ベトナム兵はあんな拷問しない」と怒ってましたね。まあそんな文句が出るくらい、見る人の心に届く作品だったということでしょう。００７とかでいかにロシアとか北朝鮮とか悪く描いても誰も問題にしないもんね。

トルコの刑務所には絶対に行きたくない…
そう思わせるに充分な描写。拷問はもちろん、監獄の雰囲気までもが重く暗くのしかかり、徐々に壊れていく主人公の意識に感化されてきます。
永久に出られないかもしれない絶望の中、恋人が面会に来たときの描写が何とも切なく、悲しく、哀れすぎます。

政治的意図が込められた作品との事。
なるほど、事実も描く側によって随分と脚色されて映るなと思いました。
作品紹介にもある記述「ほんの出来心が引き起こした…」この若者の行為を出来心と捉えるか否かで捉え方が変わってきます。
私は、というより多くの日本人は自業自得と見るのでは？
主人公が脱獄できた時は、ほっとしました。が、何か釈然としないものが…
他国で犯罪を犯し、更に殺人をおかして逃げるなんて…。

もちろんこの映画の"悪"はトルコの刑務所でしょう。しかし、反面では主人公に共感できない部分も見えます。
政治的意図のある作品とはいえ、犯罪を犯しながら都合よく引っくり返す大国をも描こうとしていたなら…Ａ・パーカー＆Ｏ・ストーンさすがってとこだろうけど、違うよね（苦笑）

実話である原作をを大きくアレンジしています。投獄の理由になった麻薬が刑務所内で堂々と使われていたり、米・トルコ政府間の問題の生け贄となった境遇がテーマとなっているが、本作では自由への渇望を強調し主題としていますね。
いずれにしろアラン・パーカー監督の最高傑作でしょう。

主人公の自業自得にせよ、あまりの残酷さと悲惨さが皮膚に感じる恐怖といったところ。
心臓の鼓動が効果音で流れるシーンは嫌〜な緊張感が漂い、それ以降も衝撃的な心理描写の連続です。

ラストに主人公が飛び上がる。そのためにそれまでのシーンが存在していると思いますね。
あの飛び上がりが説得力を持つのは、やはりスタッフの好演出があってこそです。

それにしてもトルコの刑務所って、ホントにあんななの？怖いなぁ・・・。

ベースが実話だけあってリアリティもあり、脱獄モノとしては一味違う。
しかし単純に脱獄モノ作品を比べるなら「穴」「ショーシャンクの空に」「アルカトラズからの脱出」「大脱走」「パピヨン」の順で、さらに数レベル下の作品。