ドラゴン　危機一発

100万人も会員もいて、レンタル一枚は、ねーだろ

この当時の香港映画は、シナリオが２ページくらいしかなく、セリフなどは撮影現場で監督がアドリブ的に決めていたらしい。ハリウッドから帰国したブルース・リーはそのあまりのお粗末さに腹を立て、監督やプロデューサーとはケンカばかりしていた、というような話を４０年前の『スクリーン』だったか『ロードショー』だったかで読んだ。
『燃えよドラゴン』に熱狂した当時の私は中学生で、この映画も劇場で観たが、あんまり面白いとは思わなかった。身体も顔も健康すぎて、死ぬ間際の病的な異様さがないのである。この映画のブルースは、まだヌンチャクも覚えてないし、アチョーというかけ声も一本調子で迫力がない。
これを観た黒沢明は、たしか、こう言ったそうだ。
「これって映画なんですかね・・？」

ブルース・リー主演映画の中ではあまり評価の高くないこの作品ですが、私の中では最高傑作です。

日本での公開はシリアスな「燃えドラ」の方が先だったので、この映画のコミカルな演出が不評とは言わずとも大きなクエスチョンマークとしてファンに残ったことは想像に難くありません。
しかし、ここで見せるリーの初々しさ、笑顔、コミカルな演技には他の作品では見ることができない魅力が詰まっています。朝帰りが見つかったリーが逃げる際の小走り、あれはあれでとんでもない身体能力だと思います。

リーのアクションは明らかに他の俳優とレベルが異なるため、全体にマヌケな雰囲気が漂っています。逆にこれがシリアスなドラマであれば、目も当てられない作品になっていた可能性もありますが、結果としてコミカルな演出に助けられ、リーを浮き立たせることに成功しています。

本作はバンコクおよび郊外ロケ。しかもBGMがキング・クリムゾン。「エマニエル夫人」にも少なからず影響を与えているのではないかと推測されます。

「燃えよドラゴン」（1973年）の大ヒットのあと、ブルースは死んでいたが、香港製作の主演映画が３本、日本でも公開されました。

●「ドラゴン危機一発」（ロー・ウェイ監督。1971年公開。日本公開は1974年４月。）
（原題: 唐山大兄、英題: The Big Boss）

●「ドラゴン怒りの鉄拳」（ロー・ウェイ監督。1972年公開。日本公開は1974年7月。）
（原題: 精武門、英題：Fist of Fury）

●「ドラゴンへの道」（ブルース・リー監督。1972年監督。日本公開は1975年1月。）
（原題：猛龍過江、英題：The Way of the Dragon）

1年間に、春、夏、正月とたて続けに日本公開されたのですね。
（自分もせっせと映画館に通ったものでした。２回以上、見ました。）

ブルース・リーの映画に何を求めるか。
�@ 裸の格闘のパフォーマンスが第一。
�A その格闘へ至る動機（復讐など）が明確であること。
この２点で、「燃えよドラゴン」は最高なのです。

「死亡遊戯」（1978年）という未完の映画も、�@の点が図抜けていて、観る価値があります。
（４作で評価するなら、「燃えよ」「怒り」の次です。）

「怒りの鉄拳」は、日本人が悪者であるが、これは仕方がない。
ドラマとしては、３作で、復讐に高まるストーリーと、格闘がシンクロしている。
ノラ・ミャオという女優の魅力も、この映画に華を添えているのです。

「ドラゴンへの道」「危機一発」は、どちらも、駄作であるが、パフォーマンスにおいて、
チャック・ノリスが相手であり、ダブル・ヌンチャクが唯一みられる映画であることから、
「道」を採ります。

では、「危機一発」が最低か……そうなのですが、魅力はあります。

ブルースの体型の変化。
健康なときのリーを見られる、唯一の映画。
この映画のときの彼は、実に健康的な筋肉質です。
ここから、３年間で、いかに、「燃えよ」のあの筋肉ひとすじまで見える体に至ったか。
この過程に、病的なものを感じます。
しかし、その不自然の果てに「燃えよ」という映画をつくったのだから、彼は、命をかけて、一作の映画にパフォーマンスを結実したと言えるでしょう。

「危機一発」のときは、太って見える。
ただし、蹴りや突きの速度は、並大抵のものではない。
（「燃えよ」の速度が異常なのです！）

ドニ―・イェンという格闘家にして名優が、
ストーリーは全く別ですが、
「新・ドラゴン危機一発」（原題「新唐山大兄」）
「ドラゴン怒りの鉄拳」のリメイク（原題: 精武門）
をつくっています。
ドニ―・イェンは、体型、顔、技もちがうが、本当にブルースを研究していて、正統な継承者であると思います。

純朴な青年の雰囲気を残しつつ、怒りを
爆発させると凄まじいという対照的な演出を
作った作品なのだと思う。
あまり、カンフー映画に関心が無いのだが、
ブルース・リーの名前を知っていても作品を見ていない
のに反省し、視聴。
よく分からないが、あの後で吹き込んだ「アチョー」とか
いう掛け声が妙に浮き足立って気になったが、それが魅力？
情に厚い人たちの良さは伺えた。