冬の華

オープニング、晴れた海辺で高倉健演じる加納は裏切り者である男、松岡を殺す。その横では殺された松岡の幼い娘、洋子が屈託なく笑いながら走り回っている。なんと哀しいシーンか。

倉本聰の泣きのシナリオ。立てたコートの襟が雪で濡れる。高倉健が演るとこんなにも凛とした美しい映画になる。

これは破滅していく男の物語なんかじゃない。
どこまでも男である事を貫き通す男の物語だ。

異色のヤクザ映画で、降旗監督、脚本は倉本聰。
1978年作品。

組を裏切った兄貴分を刺殺して15年服役して出所した日の、
加納(高倉健)から、始まります。
殺した兄貴分には幼い娘がいて、加納はその娘(池上季実子)が17歳の今日まで金銭的援助を、贖罪として続けています。

「ブラジルのおじさま」として文通を続け、少女は心から
慕っています。
このあたりの加納の罪の意識・・・会いたいのに会えない、そして決して名乗れない。
もどかしいです。
何と亡くなった出演者が多い事でしよう！！

高倉健、池部良、小池朝雄、夏八木勲、小林亜星、岡田真澄、
小沢昭一、峰岸徹、三浦洋一、大滝秀治。

そして間もなく「シャガール」を深く愛する組長(藤田進)が、
関西系の組に惨殺されます。
因縁を付けられただけで、殴り殺す加納(高倉健)の変貌が
怖かったです。
結局は若(北王子欣哉)を助けるために、加納は裏切り者を殺す事に。
「ガキが、いるんだ・・・」と命乞いする兄貴分を。
またしても子供のいる父親を殺してしまう。
そんな映画です。
健さんは格好良かったです。

「冬の華」（1978、東映、カラー、121分）。
監督は降旗康男、脚本は倉本聰、撮影は仲沢半次郎、音楽はクロード・チアリのギター音楽と、チャイコフスキー「ピアノ協奏曲１番」。
横浜の「東竜会」幹部の「加納秀次」（高倉健）は、組を「関東連合」に吸収させようと画策した兄貴分「松岡幸太郎」（池部良）を海岸で刺殺。「松岡」は最期に「見逃しちゃくれねえか、長いつきあいじゃねえか、ガキがいるんだ」と言う。（この言葉は映画終盤で別の人物からも出ます。）「秀次」は旭川刑務所で服役。15年を経て出所、舎弟「南幸吉」（田中邦衛）が準備した横浜のマンションに着く。「東竜会」に挨拶へ行った彼は組の変化に驚く。親分「坂田良吉」（藤田進）はオークションでシャガールの高額な絵画の落札に夢中。幹部連も外車に乗り高級クラブで豪遊、15年前の「任侠」はなかった。
「秀次」は自分が殺した「松岡」の娘「洋子」（池上季実子）を、「南」の手配で「ブラジルにいるおじさま」として支援をしてきた。「秀次」は「洋子」の手紙にあった馬車道の名曲喫茶「コンチェルト」で、彼女が好きと書いていたチャイコフスキーの「ピアノ教協奏曲１番」が今流れている曲と知り、17歳の「洋子」を見つめた。
稼業から引退したい「坂田」は「シャガールはいいんだあ」と言い、「秀次」に組の相続を頼むが、「秀次」は父（大滝秀治）の説得で堅気になることを決めていた。そして「坂田」は謀殺される。「坂田」の息子「道郎」（北大路欣也）は、陸自幹部隊員だが、復讐を誓い、「秀次」を頼る。「堅気の息子を組の抗争に決して巻き込まんでくれ」という親分の遺言を守り、「秀次」はその任侠の役割を果たそうとする。組内に裏切者がいることが分かる。彼を慕う現・旧の舎弟──「南」（邦衛）、「花井喜一郎」（小林稔侍）、「ミナケン」（峰岸徹）、「立花道夫」（夏八木勲）、「山本武彦」（寺田農）らが集結する。喫茶「コンチェルト」で、「秀次」は「洋子」に全てを打ち明ける手紙を書き始めたが、突然「洋子」が店に入ってきて筆が止まる。「洋子」と交際する舎弟「竹田乙彦」（三浦洋一）を部隊から排除、堅気になることを誓わせる。そして、「道郎」の気が済む形で、彼の目前で「敵討ち」を見せる。「秀次」にはまた長い監獄生活が待っていた。
「任侠」は認めるが、「仁義なき戦い」から始まる東映の実録路線を、健さんは嫌ったということです。
クロード・チアリのギターが、横浜の都市と港、海、「秀次」の心からのように響いてきます。

ヤクザもの＋あしながおじさんというストーリーですが、それにチャイコフスキーのピアノ協奏曲をつけた、というのがこの映画の素晴らしいところ。私など、この映画を見てチャイコフスキーが好きになり、一時期はクラシック聴いてました。チャイコフスキーと高倉健がこんなによく合うなんて、不思議です。これも映画の奇跡でしょうか。クロード・チアリの音楽も良かったです。通俗過ぎるほど通俗的ですが、やっぱり泣ける映画です。

壁に耳ありクロードチアリ…なんてギャグも、寒いどころかもう通じない今日この頃。そのクロードチアリの哀愁ただようギターがずっと流れるこの映画…そこここに時代を感じる面もあるものの（洋子の70年代少女漫画みたいなキャラとか、エレクトーンカラオケとか）、健さんのかっこよさは普遍。見終わってかれの人生って何なんだろう…と思わざるを得ませんでしたが、なんとなくいい感じでしんみりできる映画でした。